第34話私に口づけしたいだけではないですか。

「私はエレノアの暗殺ギルド入りには反対です。それから、初対面で自分を助けてくれたということでエレノアはエレナ・アーデンに心酔し過ぎです。また、初対面の印象に引き摺られてますよ。」

レイモンドが私を引き寄せて、手を握りながら言ってくる。

触らないで欲しいと言っている私に触れることで、どんどん嫌われているのがなぜ分からないのだろうか。

でも、初対面の印象に引き摺られているというアドバイスは聞いた方が良いと思った。


「確かに、私は初対面の印象に引き摺られやすいですね。先ほど私があなたの弟君に好意を抱いていると言う、酷い告白をしましたよね。それについて相談にのって欲しいのです。私はレイモンドから婚約者指名をされた日、私を服従させようとするあなたに不快感を持ち耐えられなくなり危険な魅了の力であなたを追い払いました。最悪な気分で庭園にいた時に、フィリップ王子が現れ私を心配してくれたのです。その時、彼を好きになった気持ちを今でも引き摺っています。彼は私にとってエレナ・アーデンと同等とも言える存在です。ただ彼が男性であるが為に、私の魅了の力の危機に晒され続けています。エレナ・アーデンは私が彼女に好意を持ったことに気がつき、自分が男だったら危険なことになったと言いました。好意を持ったら相手に期待しないことは不可能だから気をつけるようにと注意してくれていたのです。その注意を聞いておきながら、私は男性に好意を抱いてしまったのです。アカデミーに行くと2日に一回は彼と顔を合わせてしまいます。レイモンド、あなたの大切な弟君が危険に晒されています。どうしたら良いか一緒に考えてくれますか?」


「エレノア、とてもあなたを心配していますという態度で私が最初に接すれば今頃あなたと心が通じていたのですね。失敗しました。もう、アカデミーの通学は諦めて、王宮で花嫁修行に入ったらどうですか?」

レイモンドは話しやすいからたくさんのことを話してしまうけれども、彼の今の返答はどこかずれている。

彼のずば抜けた知能ならばもっと良い解決策を見つけ出せるはずなのに、今は頭の半分以上で私と口づけすることを考えていて真剣に私の話を聞いてくれていないのがわかる。


「レイモンド、あなた真剣に考えてくれていますか?王宮と言えば、フィリップ王子のお家ではないですか。出会す頻度が格段に増えて、危険度が増しますよね。それに、私に侯爵になる道という選択肢までくれたアゼンタイン侯爵夫人の想いに応える意味でもアカデミーは絶対に卒業します。」

実の娘ではない私に後継者になる道まで用意してくれたのだ、それを途中で投げ出すなどあり得ない話だ。


「分かりました。フィリップのことは私が忘れさせます。」

レイモンドはまた私の頬を撫でて、口づけをしようとしてきた。

やっぱり彼は私と口づけする機会を伺っていただけだった。

彼はどうしてこんなにも分かりやすいのだろう。

何を考えているかわからない人は苦手なので、分かりやすい彼の側は居心地が良い。


「お待ちください。レイモンド、あなたは自分の欲求を絶対に優先させますよね。私に口づけしたいだけではないですか。私は男性としてはあなたのことを嫌いだと言っているのですよ。だから、迫られるほど嫌悪感が募るのです。側にいるのが楽すぎて一緒にいたいと思っていますが、それは私があなたに好意を全く抱いていないから可能なことです。」

知能が高く、女を道具としてしか思っていない魅了の力のかかりづらさに加え、彼に私は好意を抱いていなく何か期待することがないという自信があるから自然体でいられるのだ。


「エレノアはリード公子とは良く一緒にいますが、彼に対してはどんな感情で一緒にいるのですか?彼は明らかにあなたに好意を抱いているように見えます。接することに危険は伴わないのですか?」

レイモンドが疑問を持つのは当然だと思った。

ハンスは男性でかつ純粋だ。

私が魅了の力で破滅させられる可能性の高い彼に恐れを抱くことなく接しているから不思議に思ったのだろう。


「ハンスには弟のルークに対して接するのと同じように、無償の愛を捧げることができています。フィリップ王子と接する時のような、好かれたいと言う雑念に囚われることが一切ありません。」

無償の愛を捧げることが、魅了の力をかけるリスクを回避する方法だと私は気がついている。

それをフィリップ王子に適用できれば一番良いのだが、うまくいかなくて困っている。


「つまり、見返りを何も求めない気持ちを持って接しているから、危険な状況にはならないと言うことですね。ハンス・リードは明らかに純粋そうなのに、なぜ無事なのかと思っていました。」

レイモンドは私との会話から魅了の力の秘密や危険性を理解しているようだった。

やはり彼はとても頭が良い、女遊びばかりせず最初から政務に全力を注いでたらと悔やまれてならない。

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