第35話あなたを好きになる努力をすることにしました。
「レイモンド、ありがとうございます。今、あなたとの会話のやり取りの中で私がどうフィリップ王子に接していけば良いのか分かりました。私は彼に清らかな忠臣の心を持って接することにします。今までも、彼の前では自分は臣下であって彼に思いを寄せて良い立場ではないと言い聞かせていました。それよりも深い忠臣の心を彼に捧げることにします。」
「エレノア、清らかな忠臣の心とはなんですか?無償の愛のように見返りを求めず、一方的に彼に従うと言うことですよね。私はエレノアがフィリップに対してそんな心を捧げるのは不快です。」
レイモンドを不快にさせるのは申し訳ないが、やはりそれが一番良い気がするのだ。
私はベットから立ち上がり、彼の前に跪き頭を垂れて宣言した。
「私、エレノア・アゼンタインはフィリップ・サム王子殿下を唯一の主君とし、この命をあなたに捧げることを誓います。」
私は前にフィリップ王子に衝動的にしてしまった騎士の誓いをレイモンドの前で再現して見せた。
「なんですか?今のは?なぜ騎士ではないエレノアが騎士の誓いをたてたのか分かりません。」
跪いている私を見るのが嫌だったのか、彼は私を抱き上げ自分の膝の上に座らせた。
そういえば、前に外を歩いた服でベットに座るなと注意したのにそれも無視して彼はベットに座っている。
「私はフィリップ王子の考え方に感銘を受けて、衝動的に騎士の誓いをたててしまったことがあるのです。そんな私の不審な行動を目にしたら、普通は変な女だと思い遠ざけますよね。彼は、私の奇行を目撃した後も親切に接し続けてくれるのです。まるで神様のように慈悲深いお方です。やはり問題のあるお兄様をがいることで苦労してきたから、海のように広いお心を持つ方になったのでしょうか。そのため、10歳からの恋心が全く冷めなくなっています。」
私は黒髪から覗くレイモンドの海色の瞳を眺めながら、フィリップ王子のことを思い出していた。
「では、エレノアが評価しているフィリップの性格は私のおかげで形成されたという訳ですね。彼の性格によって恋心が冷めないのであれば、やはりその責任は私にあるようです。」
レイモンドは私の髪に指を通し私の頭を彼の顔に近づけてくる。
口づけがしたいのが丸わかりだ。
魅了の力がかかった瞬間を意識できるという天才レベルの頭脳を持ちながら、そのほとんどは色欲に侵されているようだ。
「レイモンド、いい加減私の話をまともに聞いてくれませんか?実は魅了の力の情報についてはカルマン公爵家の紫色の瞳をもった女には引き継がれています。それによると、レイモンドのように魅了の力にかかった瞬間に気がつける人はかなりの天才だけです。あなたはとても優秀な人なのですよ。だから私があなたの天才的な頭脳を頼りにして、言いたくない秘密も明かしながら相談を持ちかけているのです。それなのに、あなたの頭の中はいやらしいことばかり考えています。私はそれに失望しています。その神からの贈り物のような頭脳をサム国の民に捧げ、できれば私の相談にものって欲しいのです。」
私は今、彼に相談にのって欲しいと期待している。
おそらく魅了の力を使ってしまっているのに、彼は私に操られているそぶりがない。
「私にまともに相談にのって欲しいならば、そんな可愛い声で甘えるようにおねだりしてくるのはやめることですね。」
彼はそういうと、私の頬に軽く口づけしてくる。
私は知らずに男を誑かす時に使うような声色を使ってしまっていたらしい。
しかし、今重要なのはそんなことではない。
最初こそ魅了の力が彼に効いたが、明らかに今、彼には魅了の力が効いていない。
魅了の力が効いていれば、彼は自分の欲求を抑えひたすらに私の話を聞いてくれるはずなのだ。
「レイモンド、私すごいことに気がついてしまいました。あなたは天才的頭脳な上に、純粋さとはかけ離れた病的に自己中心的な人間です。自分の欲求を満たすことばかりを考えています。良いことがあれば全て自分のおかげで、悪いことは人のせいと考えるとんでもない人間なのです。君主としてはこれ以上にないくらい最低な性格です。でも、魅了の力にはかからない。私の運命の人です。私、あなたを好きになるように努力することにしました。」
私はレイモンドの黒髪をかきあげて、彼の額に口づけをした。
彼がこれ以上にないくらい驚いた瞳で私を見ている。
攻撃に強く防御に弱いタイプのようで、明らかに照れているのがわかった。
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