覚悟

 危なかった。

 これも魔法少女の能力なのかもしれない。

 りょーくんにキスしようとした瞬間、窓の方から物凄く嫌な感じがした。

 

 予感は的中した。

 窓ガラスが割れ、沢山の瓦礫が飛んでくる前に、身体がりょーくんの前へと動いていた。

 爆風に流され飛んでくる大きな破片は、私に当たると簡単に砕けた。

 飛んでくるコンクリートや木材の破片、鉄板などをりょーくんに当てないよう左右に流す。

 普通の人間が当たったら即死してしまうような瓦礫だって、当たっても傷一つないし痛くもない。

 

 理由は簡単。私は魔法少女だから。

 でも後ろにいるりょーくんは違う。

 飛んでくるこの破片が少しでも当たったら、大怪我してしまう。

 それだけは嫌だ。彼は私の全てだ。

 彼を怪我させてしまった、小さい怪我だとしても、彼が私を許したとしても、それを私が…自分自身が許さない。

 私は今までの人生の中で、一番と言ってよいほど集中し、飛んでくる全ての瓦礫を砕いた。


―――――――――――――――


「りょーくん!大丈夫?!」


 爆風が収まると、すぐ後ろを振り向いてりょーくんの安否を確認した。

 足から手、頭までしっかりと…傷の一つでもついてたら、一週間は引きずる自信がある。


「ありがとう。大丈夫、何ともないよ」

「そっか…良かった……って…りょーくん!ほっぺから血出てる!」

「あ、ほんとだ…」


 凌羽が自分の頬を少し触って確認する。

 何かが掠ったのだろう。

 頬が少し切れて血が流れていた。

 少し痛みはあるが大したことじゃない、放っておけば数日で自然に治るような傷である。


「あっ、あぁ…どうしよう……えっと…えと、救急箱…そんなのりょーくんの部屋にないや、えっと…そうだ!えいっ!」


 美香が凌羽の頬に向けて手をかざすと、黒い粒子が傷に集まりそしてすぐに消えた。

 先程血が少し流れていた頬の傷は跡形もなく消え去っていた。

 

「一応時間戻したけど他に痛いとことかない?。ホントに大丈夫?。立てる?。えっちする?」

「ありがとう美香、他に痛いとこはないよ。それよりあれ……」


 りょーくんが視線を移す先、窓の外で未だに火柱を上げて燃え続ける街並み…

 その中でも少し高い一軒家の屋根の上に少し大きな人影があった。

 先程あんな場所に人なんて居なかったはず。

 ましてや火から逃げようとして天井に逃げたとしても、屋根に居続けようとは普通の人間なら考えないはず。


「あれがペルペルの言ってた怪人かな?」


 りょーくんが口を開いた。

 それは間違いない。

 あの人影からずっと嫌な感じがしてる。

 

 許せない。

 

 少しでもりょーくんに危害を加える者は排除しなければならない。

 せっかく自分でそれを達成できる力を貰ったのだから、その使命は更に強固なモノになった。

 今までもこれからも、りょーくんの隣にいるのは私と運命で定まっているのだから。


 人影に向けて目を凝らしていると、視界の端っこの方で先程投げたはずの白いゴミがフラつきながらこちらに飛んでくるのが見えた。


「うぅ……」

「ペルペル!」


 ゴミが窓枠に腰を下ろすと、りょーくんがすかさず手を差し伸べてゴミを支える。

 ずるい。

 私もボロボロになってりょーくんの前に行けば優しく手を差し伸べてくれるだろうか。

 もしかしたら、いつもより長い時間ナデナデしてくれるかもしれない。あとでやろ…

 

「美香さん!!」

「うるさっ…急におっきな声ださないで」

「今こそ魔法少女の出番です」

「はぁ……」

「あれが怪人です…これ以上、街を炎に包ませる訳にはいきません!」


 そんなにはやし立てられても困る。

 アニメやゲームの魔法少女と違って、私に正義の心は全く無いし、誰かを助けたい…誰かの役に立ちたいなんて気持ちある訳無い。

 

 もし、ここが見ず知らずの街だったら、私はりょーくんの身の安全を第一に優先して、直ぐに安全な場所へ避難するだろう。

 つまりりょーくん以外の人間が危険な状況とか命の危機とかどうでも良いのだ。

 非情かもしれない。でも私の力なのだから使い道くらいは私に決めさせてもらう。

 

 では今回に関してはどうだろう。

 直接でないとはいえ、あいつはりょーくんが危険に晒される原因になった。

 というかりょーくんはもう治したけど怪我をした。

 こんなイケメンで可愛くて優してくて百点のりょーくんの顔に傷が残ったらどうするつもりだったのだろうか。

 


 よし…あいつは殺そう。



「あいつが元凶なんだね?」

「そうです!」

「私警察に捕まらない?」

「大丈夫です!」

「ボコボコにしてもいいの?」

「ご自由に!」

「そっか…」

「はい!では美香さん!行って…」

「あ、でもりょーくんが……」


 怪人が一人とは限らない。

 私があの屋根の上にいる怪人と戦ってる間に、隠れていた違う怪人がりょーくんを傷付けたりしたら一生後悔する。

 もしものことで、りょーくんが死んじゃったりしたら直ぐに私は彼の後を追うだろう。

 というか魔法少女になって少ししか経ってないし、怪人がどれくらい強いのか戦った経験が無いから分からない。

 最悪の事態だってあり得ないことでは無いのだ。

 私個人としては、ずっとりょーくんの側にいて安全を守ってあげたい。

 でも、りょーくんの反応は違った。


「俺は大丈夫だから…美香、行っておいで」


 りょーくんは笑ってた。

 もう何年もりょーくんと一緒にいるのだ。

 もうお互い以心伝心、ツーカーの仲…というか夫婦以上といっても差し支えない。

 好きな男の子に、あんな優しい顔でそんな事言われたら誰だってこう言うに決まってる。


「分かった!待っててりょーくん!すぐ戻ってくるから!」


私は窓枠から身体を乗り出し、思いっ切り壁を蹴って火の海の中心にいる人影の元へと飛んだ。


「行ってくる!」

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間違ってヤンデレちゃんを魔法少女にしてしまった…後悔しても遅いけど…… カモシカ遊歩道 @KAMOSIKA

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