言い訳

「りょーくん!違うの!聞いて!とりあえず座ろ?ね?立ってたら疲れちゃうから…座る所はそこじゃないでしょ?そう、そんな面倒くさそうな顔しないでよ。大事な話の時は向き合って座るのは当たり前の事だよ?うん。分かってくれたならいいよ…次からは気をつけてね?それじゃあ、私の手を握って?いや、なんでじゃなくて、いいから早く。いやそこは手じゃないでしょ。手首だよ。それでもいいけど…ほら、こう握るの。ちょっ…離れないで、このまま…もっと指を絡めて?もっとしっかり!うん。良くてきました。じゃあまず最初から話すね?まず私とりょーくんの出会いから…いや飛ばしていいとこじゃないよ。大事でしょ?あっそう…りょーくんが言うなら……じゃまず私達の関係から…私とりょーくんの関係って何かな?そう…言わなくてもわかると思うけど、夫婦だよね。は?違わないから。黙って聞いて!うん。そう…ちょっと静かにしてね?りょーくんは白いゴミのせいで混乱してるの。間違いなく友達では無いでしょ。私がりょーくんの○ん○ん咥えてる写真クラスラインに貼るよ?いいの?うそうそ!じょーだんだって!そんなに焦らなくてもいいから、ふぅ…分かったって、じゃあ一歩譲って友達以上夫婦未満にしといてあげる。それじゃありょーくん。友達以上じゃないとできない事ってな〜んだ?いや、真面目に答えて?そんなの産まれたての赤ちゃんだってできるでしょ。ほらちゅっちゅっちゅー…もっとしたいのに…まぁいいや、答えはセッ○スだよね?え?何その反応…知らないの?りょーくんほんとに高校生?いい?○ックスって言うのはね?男性の……そっか、知ってるならいいよ。それでね、私達は友達以上な訳でしょ?それじゃあヤるよね?セ○クス。いやいいでしょ。こんな夜中…もう日出てきちゃったけど、キスまでしたんだしやる事やるしかなくない?それでね、私はセッ○スを誰かに見られる趣味は無いの。もしりょーくんがハ○撮りしたいとか、見られながらシたいって言うなら話は別だよ?りょーくんが言うなら私も覚悟決めるし……///いや、しないとか無いから。無理矢理にでもセ○クスしてもらうよ?前から思ってたけど、なんでいつも草食系気取ってるの?今の時代草食系なんてモテないよ。据膳食わぬは男の恥でしょ?獲物はちゃんと平らげないと…もういいや。私がりょーくん食べちゃえば同じ事だもんね。ほら、やっぱり力勝てない。りょーくんさぁ、ほんとに抵抗してる?私の事誘ってるわけじゃないよね?あ~、やっぱり駄目…そんな顔されたら私我慢できなくなっちゃう…そういう事するつもり無かったのに…あ〜ぁ…りょーくんさぁ、なんの為に下半身に立派な…………」


 長い。長過ぎる。その一言に尽きる。

 今更だが、なんで俺と美香は向き合って恋人繋ぎをしているのだろうか。

 まず俺のち○ち○咥えてる写真ってなんだよ。いつの間に撮ったんだそんなもん。

 後で美香のスマホ確認して、該当する写真全部消さないとな…盗撮写真ばっかだと思うけど…

 美香がセック○を連呼してる理由も分からない。

 ご近所さんに聞こえるかもしれないから、ほんとに勘弁してほしい。

 俺と美香は昔から仲の良い幼馴染として、ご近所さん達から認識されてるはずなのだ。

 今更ではあるが、頭のネジが外れた会話をしてるなんて噂が立ったらどうしてくれるんだ。


「なぁ美香」

「ん?どうしたの?心決めた?」


 駄目だコイツ。

 そもそも心決めるってなんだよ。内容全然覚えてないけど、そんな話してなかっただろ。


「話の内容が意味分からなくて、心どころか何も決まらねぇよ。」

「え?ほんと?じゃあもう一回……」

「それはいいって。ほんとに。」


 危ない危ない。

 また宗教じみた長文を聞かされるところだった。

 でも先程の美香の説法の中に気になるワードが一つあった。

 先に言っておこう。

 俺は草食系じゃない………と思いたい。

 今までだって好きな女の子くらいいたし、告白だってしたし、子供の遊び程度ではあるが付き合いもした。


 だが、その度に美香が壊した。

 美香は絶対俺には手を出さない。だが、俺以外なら平気で傷つける。

 そこには容赦の欠片もなく、俺の相手の子が敗北宣言をするまで完膚無きまでに行う。

 弱みを握り拡散したり、時には狂気で脅したり…方法は様々あったみたいだが、いずれにせよ美香は俺から女という存在を引き離す事に成功している。 

 中学三年生の頃、一度美香を問い詰めた事があった。『なんであんな事するんだ』と…

 そしたらコイツはなんて言ったか…ごく普通に当たり前みたいな顔をして『りょーくんに相応しくないから』そう言った。

 その時、美香の手には出刃包丁が握られていた。料理をしていたのか、はたまた……いや、そんな事はない。流石に一線を超えるような事はしないだろう。

 つまりそういう事だ。

 俺は美香がいる限り他の娘に手を出せない。でも美香には手を出しなくない。後が怖いからな。

 ん?…なんだか話が逸脱してないか?

 最初は、何故ペルペルを縛り吊るしたのか…という議題だったはず、それなのに先程から美香が如何にしてセッ○スをしたいかって事しか話してない。


「美香、結局なんでペルペルを吊るし上げるなんて酷いことをしたんだ?」

「え?いま説明したよね?」


 分かるでしょ?みたいな顔で見られても…

 美香の中では俺に説明した事になっているようだ。

 話の八割以上を聞いてなかったので、もしかしたら言っていたかもしれない…まぁ、もう一回要点だけ聞けばいいだろう。


「ごめんな美香。長いのは本当にもういいから、もう一回なんでペルペルを吊るし上げたのかだけ教えてくれるか?」

「うんいいよ!私とりょーくんのセッ○スをこのゴミに見られたくないから!以上!」


 なるほど。

 いや、何がなるほどなのかは分からないが、まず勝手に家に侵入して、俺と○ックスしてやろうと考えるところがおかしい。

 ん?でも見られたくないなら、部屋の外に出すとか色々あるわけで…いやいやヤる前提で考えたらいけない。美香のペースに乗ったら駄目だ。


「それなら部屋の中に入れなければ良い話だったんじゃないか?」

「え?そしたら私とえっちぃことしてくれた?」

「いや、それはしないけど」

「むー…でもね、りょーくん。コイツをりょーくんの家まで連れてきたら、魔法とか言って部屋に侵入されちゃうかもしれないんだよ?!それでもいいの?!」


 俺は今、勝手に家に侵入して、幼馴染の寝込みを襲い、○んち○を美味しそうに咥えるようなやつと向き合って恋人繋ぎをしているのだが…

 でも確かに、ペルペルが魔法とか特殊能力を使って、部屋に侵入してくる可能性はありえる。

 未だにこいつ何者なのかハッキリ分かってないし。


「ペルペル、お前は魔法使えんの?」


 これだけはハッキリさせておこう。

 別に魔法が使えても、変身してない美香のアイアンクローで潰れるようなやつだし心配はいらない。

 こっちは不法侵入や覗きができる能力があるのかだけを知りたいのだ。野郎の覗きなんかしても面白くは無いだろうが……


「いぇ…私は魔法は…全く……空を飛んだり、魔法少女に指名したり、補助アイテムを保管する能力はありますが…」


 ティッシュ箱にもたれかかり、ちょっと疲れた表情で話すペルペル。

 なるほどな。だから巻かれて吊るし上げられるなんて事になるのか。

 よくここまで辿り着いたな。こいつ。


「そうなの!?」

「ぷぎゃぁっ!!!」


 ペルペルの言葉を聞いた途端、美香が俺の手を離して駆け出した。

 変身状態で強く握られ過ぎたせいか、ちょっと手がジンジンする。

 美香の行く先はもちろんペルペル。

 手を伸ばしてペルペルを掴んだ。またペルペルが悲鳴を上げている。身体が握ったスライムみたいになっている。

 やけに嬉しそうな顔をした美香は窓の前に立ち、 勢い良く窓を開けた。


「ぽーーーい!」

「うわぁ〜〜!」


 天高く遥か先目掛けてペルペルを投げた。

 物凄い勢いで飛んでゆくペルペル。

 数秒後にはその姿も見えなくなった。


「さて…邪魔者も居なくなった事だし…ね♡」


 ね♡じゃねーよ。とツッコミそうになる。

 もう今の今でそういう気分にすらならない。

 美香はやる気満々のようだが、俺はもう少しだけ寝ていたい。せっかくの休日なんだし。

 そう思う俺とは別に、目の前の魔法少女は止まるつもりはさらさらない。あるわけない。


「や、やめろ美香。せっかくの休日だし…」

「せっかくの休日だからするんでしょ?。いいじゃん減るもんじゃ無いし♡」


 美香の目の中にハートマークが見える。

 これはまずい…逃げないと!あ、でもここ自分の部屋の中だから逃げる場所ない!

 ほんとにどうしよ。

 ペルペルはどっかに投げ飛ばされてしまったし…

 お菓子やお金で釣れるような相手じゃない……

 美香は完全に扉の前を陣取って、俺が逃げられないようにしてるし……

 これは詰んだ……

 お母さんお父さん僕は今日……


「りょーくん♡ りょーくん♡ りょーくん♡」

「や、やめろぉ…ぉ?」

「りょー……ん?」


 外から鳴り響く爆音。

 揺れる部屋と割れる窓ガラス。

 咄嗟に美香が俺の前に立ちはだかり、飛んでくるガラスの破片を受けた。

 

 先程ペルペルを投げた窓。

 カーテンはビリビリに破れ、窓ガラスは殆ど無くなっている。

 部屋の中は荒れていて、テレビには折れた木の棒が突き刺さり、本棚は倒れ、机や小物等は吹き飛ばされて部屋の端に置かれている。


「え………」


 そして、窓から見える外の景色

 そこには、地獄と言っても差し支えない程、大きな火の海が見えていた。

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