祖父と教育改革

しばらくしてルナとターナ侯爵に応接室に呼ばれた。

どうやら無事仲直り出来たようだ。


「お呼びでしょうか?」


アルスはそう言ってソファに座る。


「アルス、お父様を呼んでくれてありがとう。この機会がなければお互いにあうこともなかったかもしれないわ…」


「私からも礼を言う。ありがとな。」


ルナとターナ侯爵双方から礼を言われた。


「いえいえ、仲直り出来てほんとに嬉しいです!…ところで私になにかご用ですか?」


アルスは呼ばれた理由を尋ねた。

口を開いたのはターナ侯爵であった。


「私が用があるのだ。」


「おじい様がですか?」


「うむ、今日教育庁に呼んだ理由もそれだ。」


「一体どのようなお話ですか?」


「実はこのマリアナ王国の教育制度を変えようと思うのだ。」


ターナ侯爵の目的は教育改革であった。


「一体なにを変えようと?」


「アルスも知っているようにこの国では王立学園で学ぶ、これしか道は無い。」


「そうですね…」


「私は教育大臣ではあるが、教育庁は王立学園の運営を主体としている。したがって名ばかりの教育大臣である。王立学園に通えない子供たちはどのように教養を身につけると思う?王立学園への入学に身分差別は無いが貴族の方が圧倒的に有利である。これではこの国を支える国民には教育を受ける機会がないと言える。」


ターナ侯爵は熱く語る。


「子供を育ててこそ国は強くなるというのが私の考えです。そこで数々の偉業をなしとげているアルスに相談したかったのです。」


「なるほどですね…皆が平等に教育を受けられる機会を作るということですか…」


アルスは前世のことを思い出す。

主に小学校6年間、中学校3年間、 高等学校3年間、大学4年間の教育システムになっていた。小学校と中学校が義務教育である。

このマリアナ王国では王立学園が高等学校の様な学校である。

ターナ侯爵としては小学校や中学校の様な教育機関を設けたいと考えているのだろう。

だが、このマリアナ王国で突然小学校や中学校を作って運用することは難しい。

段階を踏んで進めなければならない。

そこでアルスはひとつ考えが浮かんだ。


「おじい様、いえ、ターナ教育大臣。サーナス領で実証実験を行いたいと思います!」


「ん?実証実験?それは一体どんな…」


アルスの提案にターナ侯爵は興味を示す。


「サーナス領にサーナス家が運営する学校を新たに創設します。その名もサーナス学院です。」


「サーナス学院!?そこでは一体どんな教育をするのかな?」


「はい、サーナス学院では王立学園に入学できるような教育を誰でも受けられるようにします!」


「誰でも!?」


「ちなみにお金はかかりません!」


「なんと…アルスの考えには驚かされる…」


ターナ侯爵は驚きを隠せない。

思い描いていたものをアルスが具体的に提案してくれたからだろう。


「これはあくまで実証実験、サーナス学院が上手くいくという保証はありませんがおじい様のためにやってみたいと思います!」


「アルス、そなたはなんて素晴らしい孫なんだ…」


「学校を作るにあたって教育庁に許可は必要ですか?」


「先程も言ったように教育大臣の仕事は王立学園の運営に過ぎない。したがって許可も要らない。」


「なるほど、ではサーナス侯爵家としてこの実証実験をさせていただきます。父様にも相談をしてみます。」


「アルス、手間をかけるがよろしく頼むぞ…」


こうして新たな事業を始めることとなる。

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