花形製品だけがすばらしいのではない

 花形製品は企業の顔と言ってよいだろう。たくさんの人が知っていて、数多く購入され、支持を受ける。花形の後続 (シリーズ) 製品は、お客さまに無条件の安心感をもたらし、買うときに生じる迷いはほとんどない。信頼されている証だ。

 花形製品の存在は企業に利益を生み出し、そこで働いている人の生活基盤を安定させてくれる。コマーシャルがひんぱんに流れ、家族や友人に『自分の仕事はこれだ』と誇らしげに話せる。開発に携わった事実は職務経歴に華を添え、明るい将来をたぐりよせるきっかけにもなりうる。実にすばらしい製品だ。品質管理を仕事にするのなら、生涯に一度は、花形製品の制作の一端を担ってみたいと思うかもしれない。その気持ちには、何ひとつ否定するところはない。

 ここで、忘れないでほしいことがある。花形製品だけがすばらしいのではない、と。花形には至らなくとも、多くの思いと力を結集して生み出される製品がある。モノづくりにかける情熱を、いま持てる力のすべてでかたちにしようとする人たちがいる。製品の完成度は低く、売れ行きは期待できない。宣伝はされないし、名前を知っている人はほとんどいない、パッとしない製品だ。こう聞くと、それらの製品の存在価値を疑うかもしれない。無用のものを生み出してなんになるのだ、と感じるだろう。しかし、それでもお客さまは必ずつく。

 花形製品に携わる人のかたわら、「自分はなぜこんな知名度の低い製品を相手に、こんなに苦労をしているのだ」とみじめに感じることもあるだろう。自分の能力をもってすれば、花形製品を受け持てるのに、と歯噛みするかもしれない。だが、腐らず真摯に目の前の製品と向き合ってほしい。目の前の製品に価値を見いだし、品質管理としての責任を果たしてほしい。そんなあなたに開発者は感謝し、お客さまはよろこびの声を届けてくれる。それは、品質管理として得られる最高の報酬だ。

 品質管理が果たすべき責任は、製品がよりよい状態でお客さまのてもとへ届くようにする、に尽きる。製品が花形かそうでないかなど、関係ない。

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