品質管理の行く先

することは違っても目指す先は同じ

 品質管理の仕事には、何段階かのステージがある。ここでのステージは「することの違い」と言い換えられる。一日中製品をさわり不具合と格闘するだけが、品質管理の仕事ではないのだ。することの違いは、大きく以下の3つに分けられる。スポーツでたとえるなら、選手、コーチ、監督の違いだ。


 ・一日中製品にふれ、不具合をさがし報告する (選手)

 ・品質管理チームを機能させるため、メンバーを指導、統率する (コーチ)

 ・品質管理の代表として、クライアントやプロジェクト各位と物事を詰める (監督)


 どの仕事にも共通するのは「毎日勤めに出る」である。これには知識も技術も経験もいらない。責任を果たすか果たさないかの選択の問題でしかない。ここは笑顔でクリアしてほしい。不信との闘いを起こさないようにしよう。

 品質管理の仕事に就いたら、まずは選手としてひたすら不具合をさがすところから始まる。仕様書やデータの読みかた、不具合のさがしかた、報告のしかたなど、学ぶことはさまざまだ。当然、座って学ぶだけとはいかない。学んだ内容を理解し、行動で示す必要がある。選手は職責を果たしつつ思い切りプレーするのだ。責務をまっとうしたのなら、トラブルなど気にしなくていい。責任をとるのはコーチ、もしくは監督の受け持つ問題だ。

 選手を続けていると、いずれ後輩を持つ。いつまでも新人ではいられないし、今のポジションに永続性はない。後進にどんどん経験の場をゆずって、育てていくのがよい。後進に併走して、自分が得た知識、技術、経験のすべてを余すことなく伝えよう。コーチに専念してもいいし、選手がしょうに合っているなら選手兼コーチとして働くのもひとつの選択である。

 妙なプライドや危機感から、後進を蹴落とす、マウンティングするといった行為は、間違っても選んではならない。そんなネガティブなものを雇用したところで、お客さまのしあわせ、会社への利益が生まれようはずもない。自分を追い抜いて行った後進の成長をよろこぼう。もし悔しいのであれば、己を高めるために時間を費やせばいい。

 選手としてもコーチとしても一定以上の実力、可能性を示せたとき、監督への道がひらかれる。監督の仕事で重要なのは、選手やコーチが存分に力を発揮できるよう「環境」を整えることである。ひとりの選手としてフィールドを全力疾走する時間は、もう終わったのだ。フィールドに立つ者たちに生じる不必要な苦労を一手に引き受け、解消し、チームを支える。品質管理における監督とはそんな立場だ。製品にはまったくふれない日もある。だが、それが監督の仕事なのだ。

 選手やコーチが監督であるあなたを頼ってきたとき、心と体を正面から向け、真剣に耳を傾けてほしい。ながらであってはならない。そうするために、なるべくヒマになっておく必要がある。ただ何もしないのではない。ヒマでラクをするための方法を、もてる知恵のすべてを振り絞って考え抜き、仕組み化するのだ。それこそが、監督の使命である。

 自分がいなくなったあとの未来を生きる、新たな選手、コーチ、監督を想って行動してほしい。偉業である必要などない。なにか、ほんのささいなひとつを遺そう。あなたの名前が忘れ去られても、遺したものが生き続けたのなら、監督としてこれ以上のしあわせはないだろう。

 選手、コーチ、監督、どのポジションについても、目指す先は同じだ。製品をよりよい品質でお客さまに届ける、それだけである。

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