買う前に知っておきたかった

 製品とそれを購入するお客さまがかかわるのであれば、あらゆることが品質管理の仕事と言っていい。できることには限りがあるし、決定権だって持っていない場合が多い。しかし、品質管理のプロフェッショナルとして「よりより製品」「お客さまのしあわせ」につながると信じられたのなら、口を閉ざす必要などどこにもない。積極的になれというのではない。ただ、品質管理としての責務をまっとうするだけの話だ。

 製品が完成に至るまでの道のりはもちろん、製品が発売されたあとを想像して、自らの考えをアウトプットし、誰かに伝えていってほしい。的外れであっても構わない。アクションには何かしらのフィードバックがある。『そんな意見は求めていない』と否定されることもあるだろう。フィードバックなし、という見えないフィードバックもあるかもしれない。結果がいずれであっても、他者の目にとまり、思考のうえ結論づけさせた事実はゆるがない。アクションのないところからは、何も生まれはしないのだ。無から有を生み出すため、品質管理に身を置くあなたから、物事を始めよう。

 品質管理の立場から、不具合をもとにして起こすアクションには、あまり苦労がない。製品開発に携わる者であれば、不具合に関心を持たざるを得ないからだ。みなが耳を傾けてくれる。しかし、不具合とはまったく別の領域の話となると、アクションを起こす難度は上がる。たとえば、お客さまが製品を購入したあと、を考えてみよう (ここでは、不具合はないものとする) 。

 不具合はなく、製品は仕様設計どおりに動いたとする。製品購入後、お客さまの不満、落胆、はたまた怒りにつながりうる要因には、何があるだろうか。品質管理の立場からアクションを起こしてほしいことがある。それは、「お客さまが製品の詳細を知ったうえで購入を決められるようにする」だ。お客さまの立場からものを言うのであればこうだ。『これなら安心して購入できる』『そうと知っていれば、購入しなかったのに』。

 製品の公開情報がどれほど充実していても、それを読まないお客さまはたくさんいる。それはしかたがない。お客さまの自由な選択である。だからといって、製品情報がわかりづらいのは困りものだ。フォントサイズの大きい誇張されたキャッチコピーに隠れ、本当に知りたい情報は小さな文字で目立たない場所にあるようではいけない。強調もなにもなく、単なる文字の羅列により調べる意欲を失わせるのも避けたい。買ってさわったあとではじめて知る、では遅いのだ。

 よくあるご質問、FAQ (Frequently Asked Questions) での情報公開は最低限の備えだ。できれば、購入前に『それが知りたかった』に応えられるようにしてほしい。あなたがひとりのお客さまに戻ったとき、購入前に知りたいことは多くあるだろう。それをかたちにするのだ。あなたのアクションが、きっかけになるかもしれない。たったひとことでいい。『お客さまに向けて、こんな情報はいりませんか?』と声にしてみよう。的を外せば恥ずかしい思いをする。顔から火が出そうになり、「二度とやるものか」と後悔するだろう。だが、あなたの声を受け取った人はこう思っている。『声を届けてくれてありがとう。ここにひとり、確実に協力者がいるとわかった。なんて心強いのだ』と。

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