仕様書 (地図) がなくても歩ける人

 品質管理の仕事に仕様書=地図は欠かせない。地図には不具合のありかは書き記されていない。不具合にたどり着くための、無数の手がかりがあるだけだ。仕様書があるのとないのとでは、道のりの険しさは段違いである。目印があるぶん作業スピードは上げられるし、やり直しのロスもぐっと減らせる。仕様書はあったほうがいいに決まっている。

 しかし、十分な仕様書が用意されないことはしばしばある。仕様書は開発者の頭の中にある。それを、誰かの目に見えるようにアウトプットするのは大変だ。ただアウトプットするのではない。自分以外の誰かが仕様書を見て、製品の構造がわかるようにしなければならない。伝わるように言語化し、わかりやすいよう図や絵を取り入れ、多くのフィードバックを受け「使える地図」にする。その間、製品づくりにかけられる時間は減る一方だ。仕様書づくりなどほうっておいて、製品づくりを優先させたくなる気持ちはよくわかる。だが、大局を見るなら、使える地図の存在は、プロジェクト進行を停滞させないために不可欠である。完成までの道のりを一緒に歩く人が多くいるからだ。使える地図は、製品発売後に役立つ場面もある。製品利用ガイドとしてお客さまに提供されるのだ。

 品質管理の立場で、地図の有無と作業への影響を考えてみよう。もちろん、地図はあったほうがいい。けれど、地図がないからといって歩き出せないようでは、品質管理としていささか頼りない。先がどうなっているかわからなくても足を踏み入れ、遭遇した事象を書き残し、自ら地図を作ることだってできるのだ。そうして作り上げた不格好な地図を開発者に見せ、足りない部分を補ってもらい「使える地図」にしていく。仕様書を作る、という開発者の問題を肩代わりするのは、本当ならよいことではない。甘えを許さないよう苦言を呈するときもある。しかし、もっとも重要なのは製品が完成することだ。完成を遅らせる要因があれば、業務領域を超えて協力しあったほうがいい。

 地図がなければ自ら描く。品質管理にそんな頼もしい人がいてくれたら、きっと最高のチームになるだろう。

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