逆巻く怒涛 6/抗う者たち(1)
騒がしいエンジンの音と共に揺れるトラック。
荷台に詰め込まれた俺たちは、意志に関係なく訓練所を後にしようとしていた。
混乱から回復する為に、拘束された状態でも静かに息を吸い込み頭へ酸素を送る。
訓練の疲れで熟睡していた俺たちは、突如としての敵の襲撃に全く対応できなかった。
なすすべなく拘束され、深い自己嫌悪を感じていた。
それは久重、清十郎、龍士、そして五十鈴も同様だったのだろう。
皆、同じく背中側に腕を回され手錠で拘束、口に
普通なら突然の拉致に恐怖を感じる事だろう。
しかし、その瞳には悔しさ、怒り、そして戦う決意が宿っていた。
特に、清十郎と久重は、何もできなかった事への強い悔しさを感じている様だ。
それは勿論、俺も同じ気持ちであった。
板張りの荷台で、襲撃者の指示に従い三角座りの姿勢を強いられた。
両手は背中に固定し、頭はその膝に抱え込む様に命じられている。
そんな窮屈な格好の中、俺は横目で状況を確認する。
小銃を構えた3名の敵兵が警戒しながら俺たちを監視している。
その組織的な行動力、各々が放つ冷酷な視線。
これは確実に自分達より格上の実力を持つ兵士たちと、
無駄のない統制の取れた動きに、どれほどの訓練が必要かは身をもって知っている。
彼らは間違いなく精鋭の兵士たちである。
俺は横目で薄暗い車内の様子を見ながら、監視をする兵の1人を観察する。
夜間戦闘や潜入作戦を行う際など、隠密行動に特化されたデザインの戦闘服。
少ないながらも口にした言葉。
漂う雰囲気。
俺はそれらから、外国の軍隊、それもユナイタス合衆国(USAS)の特殊部隊だと見当をつける。
そして、この襲撃が俺たちを標的にした作戦であるのは、理解するのに時間はかからなかった。
彼らは他には目もくれず、間違いなく自分たちだけを狙ってきたのだ。
そして精鋭部隊が何のために自分たちを襲い拉致するのか、その理由に思い当たる事は一つしかない。
カオスナイトメア事件、あれしかなかった。
気絶する直前の光景が脳裏に浮かぶ。
俺の前に突如として舞い降りた謎の少女。
その少女が放った一撃。そして圧倒的な力を持つ妖魔の凄絶な最後、その上半身を吹き飛ばされ崩れ落ちた様を。
そう、俺が最後に見た光景を秘匿したため、こんな事態を引き起こしたのではと後悔する。
あの白金色の髪をした美しい少女の存在を…… そして、その少女がカオスナイトメアを吹き飛ばした事実を。
しかし、そんな事は今更だと軽く
(今は過去を悔いている時間じゃない! それよりもこの状況をどうにかしないと……)
様子を伺っていると同く視線だけを上げている久重と目があった。
久重の唇が
俺もまた、相槌を打つために深く頷いた。
横に視線を移せば、清十郎と龍士、五十鈴も目で訴えている。
それぞれが個別に考え、バラバラに行動を起こすではダメだ。
訓練を思い出す。それぞれが役割をこなし、そつなく連携する。まるで一つの生物のように動く事を。
それが、今この状況を打開するための最良の手段だと各々が視線を交えて共有した。
そして、その一瞬後。
トラックが激しく揺れ、急停止した。
身体が前方に投げ出される。
続けて後続のトラックが追突し、今度は後ろへ跳ね飛ばされた。
想定外の出来事により、見張り役である兵士の視線が自分たちから外れた事を感じ取る。
頭を抱える様に三角座りをしていた俺たちは、立っていた彼らと違いほとんどダメージは受けなかった。
この一瞬を反撃のチャンスと直感し、無言の同意と共に、静かな決意が5人の間に広がった。
無言でのアイコンタクト。
そして、5人はそれぞれ最善の行動を起こす。
一連の出来事は、思考と反射が交錯するほどの速さで進行した。
トラックの中で軋む金属音、荒い呼吸、緊迫した瞬間の静寂。全てが同時に進行し、俺たちの意識は一つの方向へ向かった。
久重が前方にいた兵士へ向かい爆発的なスピードで立ち上がるとそのまま体を預ける様に突進。
体勢を崩していた兵士はすぐに立て直し、小銃の
「ぐっ⁈ ――ぬぁああああ‼︎」
驚くことに久重は顔面を殴られても怯まず、そのまま兵士へ体をぶつけた。
しかし、勢いは殺され吹き飛ばす事は叶わず、体重を預ける形となる。
「
久重が体重を乗せて動きを止めさせた兵士へ向かい【黒焔針】を飛ばすと、2本の
久重が作った時間で黒姫を呼び出し、魔法を発動させたのだ。
発火させることなく、倒れ落ちるのを確認して【黒焔針】を霧散させる。
「馬鹿なっ⁈ そんな詠唱で――」
後方の見張り役の兵士が驚きつつも、俺へ銃口を向ける。
刹那、その兵士の視界の外から顔面へめがけて槍の様に鋭い蹴りが叩き込まれた。
龍士が床に背中をつき、その反動を利用して体を一本の槍と変化させて凄まじい蹴りを見舞ったのだ。
最後の1人が龍士へ視線を向けると、清十郎が体当たりをしてトラックの荷台から叩き落とした。
これで俺たちの乗るトラックの荷台には敵兵の姿がなくなったが、後ろのトラックにはまだ多くの兵士の姿がある。
考えている暇はない。戦うと決めた皆の視線が交差する。
先ずは魔法を使える様にするため拘束を外そうとした時、外から女性の大きな声が耳に響いた。
「あんたたち、やるじゃない! 飛ばすから着地をしっかりね! 風の元素、生命の息吹よ。集約し全てを吹き飛ばす力となれ。【ウインド・バースト】」
車外から掛けられた言葉と共に凄まじい突風がトラックの荷台を吹き抜けた。
布製の幌は骨組みだけを残して吹き飛び、俺を含め久重たちも空中へ投げ出された。
続けて同じ女性の声で魔法が詠唱される。
「囚われの鎖よ、解き放つ時は今。解放の調べ、我が手に宿れ。【リベレーション・メロディ】」
俺たちの両腕を拘束していた鉄の手錠がカチリと音を立てて外れ落ちる。
同時に
「うぉおおおおお〜〜〜」
「きゃぁああ〜〜」
訳もわからず吹き飛ばされたが、なんとか自由になった腕で受身を取ると少しぬかるんだ地面を転がる。
皆も同じ様にゴロゴロと地面を転がると、あまりの展開に混乱して目を丸くしていた。
「一体何が……」
「うぉおお…… いてぇ」
「何があったの……」
「……うぅ……」
「皆んな、大丈夫――」
皆の無事を確かめようと声を出しかけた時――
その声をかき消す爆発音と轟々と燃える赤い炎が、先程まで俺たちが運ばれていたトラックから立ち昇った。
「おおおおお――」
肌を焼くほどの炎の熱さから思わず身を捩る。
熱風から守る様に手を
「ほら、皆んな立って! あそこの建物まで逃げるよ!」
オレンジ色をしたショートカットの女性は俺の腕を掴むと、そのまま勢いを殺すことなく駆け出した。
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