第22話 突破

SIDE:カシーヴァの街 ???


 三騎のトレントの騎士がカシーヴァの街にやって来た。

それは村を追放されたセインを追ってのことだった。


 カシーヴァの街は、恐獣被害の復興が滞っており、門も破壊されたままだった。

その破孔を三騎のトレントの騎士が足早に通過する。


「何やつ!」


 破壊されているとはいえ、その門はフリーパスではない。

門番が一応いて、入場を管理していた。

だが、三騎のトレントの騎士は、その検問を意図的に無視するかのように通過していた。


 慌ててゴーレム騎士が後を追う。

そのゴーレム騎士こそはカシーヴァの街で最強の防衛兵器だった。


 人が活用しているゴーレムには、ゴーレム騎士とゴーレム兵、ゴーレム――ゴーレムの人夫にんぷね――という大まかに三種類が存在している。

ゴーレム騎士は人が搭乗して動かすが、ゴーレム兵やゴーレム夫は遠隔操縦となる。

単純作業はゴーレム夫で、その上の単純戦闘はゴーレム兵で、細かい作業や高度な戦闘を行うのがゴーレム騎士だ。

検問を突破した者の捕縛などはゴーレム騎士の任務となる。

まあ、ゴーレム兵でも熟練者が操ると、性能の低下した方のトレントの騎士ならば圧倒できる者もいた。

それが闇闘技場のゴーレム兵だったのだ。


「待たれよ!」


 ゴーレム騎士から止まるようにとの声が三騎のトレントの騎士へとかけられる。

その時点になって初めて気付いたかの如く、三騎のトレントの騎士が停止した。

しかし、そのトレントの騎士の二騎の右手は腰の剣へと延びていた。

後ろの赤い線の入った鎧のトレントの騎士を護るかのような様子で、臨戦態勢だった。

どう見ても、検問を突破したトレントの騎士の方が悪いのだが、彼らにはそんな気は微塵もないようだった。


「我らは聖星教聖騎士団なるぞ!」

「貴殿はその行動を妨げるつもりか!?」


 その態度は高圧的だった。


「聖星教!」


 そして聖星教と聞いてゴーレム騎士も躊躇う。

このまま止めても良いのかと。


 聖星教とは、この世界で一番多くの信徒を持つ大宗教だった。

その権威は複数の国に跨り、その力はこの王国を越えていた。

その力の源こそが、星の恩恵。

古の星の力を継承し行使できるため、所謂アンタッチャブルな存在だった。

だが、その力で他国を侵略しようという意志は全くなく、国内での布教活動を妨害されなければ一応は無害な存在だった。


 だが、今回のような検問突破はやりすぎだった。

正義はゴーレム騎士の方にあった。


「聖星教であっても、検問を突破されては困ります。

検問でそう仰られてから通過していれば問題はなかったのです」


「なんだと? 無礼な!」

「このお方をなんと心得る!」


 水戸黄門のような展開だった。

つまり赤色の線が鎧に入ったトレントの騎士はやんごとなき御方ということだ。

だが、それをゴーレム騎士に気付けというのは酷だった。

聖星教内の常識が外の世界で通じるわけもないのだ。


「このお方こそ、聖星の騎士様なるぞ!」

が高い!」


 聖星の騎士という名は、聖星教信者ならば知らない者はいなかった。

だが、目の前の赤線の入った鎧のトレントの騎士の操者がそうだとは王国の田舎領地では知る者はいない。


 だが、そう名乗られたからには、ゴーレム騎士も敬わなければならない。

それが聖星教。王国でも国教とされている宗教だった。

異端審問にかけられたならば、例え他国の騎士であろうが処刑されてしまう可能性まであった。


「まあ、待て。

この街は恐獣に襲われた様子。

門が壊れているからと検問の存在に気付かなかった、こちらにも落ち度がある」


「なんという寛容なお言葉、感激いたしました」

「さすが、聖星の騎士様」


 それは茶番だった。

悪いことをしたのは聖星教の騎士の方である。

なのに、それを咎めたことを許してやるという態度なのだ。

ゴーレム騎士は困り果て、カシーヴァ伯爵に丸投げすることにした。


「とりあえず、この街への訪問理由は、領主のカシーヴァ伯爵とお話しください」


 そして、勝手なことをされないようにと、ゴーレム騎士で先導することにした。


 ゴーレム騎士とトレントの騎士では、ゴーレム騎士の方が素早いはずだった。

だが、聖星教のゴーレム騎士は、まるでセインのトレントの騎士のように動きがなめらかだった。

ゴーレム騎士は、ついついその感想が口に出てしまう。


「素晴らしいトレントの騎士ですね。

動きがスムーズだ」


 それに黄色の線の入った鎧のトレントの騎士が答える。


「そうであろう。

我らのトレントの騎士はロストナンバーズィーベンの直系であるからな」

「おい、それは機密事項だぞ!」


 うっかり者の黄色線の騎士を青色線の騎士が嗜める。

聞いてはいけないものを聞いてしまったとゴーレム騎士は聞こえなかったふりをするしかなかった。

その様子に青色線の騎士も、ゴーレム騎士を咎めることはなかった。

下手すると、機密漏洩を防ぐために処分される可能性もあったのだ。

そうならなかったのは、単に領主との面会前に事を荒立てたくなかっただけだった。

機密が漏れるようならば、後でカシーヴァの街を壊滅させたとしても気にしないのが聖星教だった。

自ら機密を漏らしておいて。

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