第23話 カシーヴァ伯爵

SIDE:カシーヴァの街 カシーヴァ伯爵


 門番のゴーレム騎士が駆け込んで来たのは領主館の城壁内だった。

その様子に領主館を警備しているゴーレム騎士も緊急事態だと察した。


「聖星教の騎士様が、伯爵にお目通りを願っております!」


 ゴーレム騎士の胸部に乗っていた騎士が叫ぶ。

その慌て様は、命を狙われているかのようだった。

実際、機密事項を無理やり聞かされて、いつ処分されてしまうのかとゴーレム騎士は恐怖にかられ、聖星教側に媚びを売るような行動をとってしまっていた。


 その勢いに押され、領主館の警備に穴が開く。

そして、するりと聖星教のトレントの騎士が城壁内に侵入する。

本来ならば、伯爵の許可のない者の入場を阻止しなければならないところだ。


 もし、このまま領主館が攻撃され、領主である伯爵が害されてしまえば、大失態という場面だ。

だが、幸いなことに聖星教側には、攻撃の意志が全くなかった。

いまのところは。


 そして、伝令が走り、聖星教と聞いたカシーヴァ伯爵が現れる。


「何事ですかな?」


 カシーヴァ伯爵は、王国の貴族という地位ではあるが聖星教の力は良く知っていて、自ら出向かなければならないと慌てて参上したのだ。

聖星教は、古の技術を保持し、いつでも世界征服が可能なのだと知っていたからだろう。

その聖星教に睨まれたら、王国貴族でさえ滅ぼされかねない。


「これは伯爵、わざわざのご足労痛み入る。

なに、多少の訊ねたきことがあるだけだ」


 赤い線の入った鎧のトレントの騎士が胸部装甲を開けていて、そこから顔が覗いている騎士が口を開いた。

トレントの騎士は立ったまま。

カシーヴァ伯爵を上から見下ろすかたちだ。

本来であれば不敬にあたるが、それを問うことはカシーヴァ伯爵には出来なかった。


「自分に答えられることならば、いくらでも」


 カシーヴァ伯爵は、質問に答えるだけで聖星教が帰ってくれるのならばと快諾した。


「この街にトレントの騎士がいるだろう?」


 それはこの領地にトレントの騎士がいるということを断定する台詞だった。

つまり、早くトレントの騎士を差し出せという意味だ。


「この街にはトレントの騎士はいない。

だからゴーレム騎士を使っている」


 事実だった。


「ほう、ならば恐獣被害はどうやって収められた?」


 赤い線の騎士は、恐獣が複数出たことを街の被害状況から見て取った。

聖星教は、恐獣駆除を使命としており、その力を十分に把握しているのだ。


 その問いにカシーヴァ伯爵は焦った。

恐獣を駆除したのはセインのトレントの騎士だったからだ。

居ないと言ってしまったトレントの騎士が存在している。

いや、居ないのは事実であり、駆除当時は居ただけの話だった。


「それは流れのトレントの騎士の行いで、今は出て行ったあとだ」


 そのカシーヴァ伯爵の返答に赤い線の騎士の目が光る。

それは貴族として不自然な行為だからだ。


「ほう、恐獣を倒すほどのトレントの騎士をむざむざ手放したと?」


 ゴーレム騎士を使っているならば、トレントの騎士は喉から手が出るほど欲しいはずだった。

それも恐獣を倒せる騎士などそうそう居ない。

それを易々と手放すという不自然さが、疑惑を深める。

その不審な者を見る目に耐えられず、カシーヴァ伯爵が真実を話す。


「枯れかけだったのだ。

あれはもうすぐ死ぬ運命のトレントの騎士だった」


 カシーヴァ伯爵は、樹木医の鑑定もあって放追したと吐いた。


「枯れかけだと?」

「まずい状況ではないか!」


 今まで口を挟まなかった護衛の黄色い線と青い線の騎士も慌て出す。


「何処に向かった」


 赤い線の騎士も口調が厳しい。


「そこまでは知らん。

何も言わずに出て行ったからな」


 それは事実だった。

セインがエルフの森を目指せと樹木医の爺さんに言われたのは、カシーヴァ伯爵に追い出された後だった。


「ここから一番近い・・トレントの騎士を擁する領地は?」


「マッドシティだ。

この領地からは西にあたる」


 これも事実だ。

ただし、セインの向かった先ではないだけ。


「そうか」


 赤い線の騎士が考え込む。


「マッドシティか、評判の悪い領地だな」

「まさか、そこに行ったというのか?」


 聖星教の騎士たちは、それを聞いてカシーヴァの街への興味を失ったようだった。

そして、マッドシティ行きを検討しだした。


「ところで、なぜ恐獣がここに?」


 最後の質問とばかりに、赤い線の騎士が訊ねた。

もう出て行ってくれると安心したのか、カシーヴァ伯爵の口が軽くなった。


「古時代の遺物を手に入れましてな、それが暴走して恐獣が現れたのだ」


「ほう、古時代の遺物とな」


 その赤い線の騎士の声はトーンが一段下がっていた。


「それは聖星教に差し出すようにと言ってあったものでは?」


 しまったとカシーヴァ伯爵が思った時には遅かった。

恐獣をこの世界に呼び込む・・・・行為は、聖星教の禁忌だった。


「浄化しなければならないようだな」


 恐獣はロストナンバーが招いたと思っていた赤い線の騎士は、原因が古時代の遺物と聞き、カシーヴァの街を浄化することにした。


 そして、この日を境にカシーヴァの街は消滅した。

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