第21話 専属整備士

 セインが新生ツヴァイの乗り心地を満喫し、降りたいと思ったところ、新生ツヴァイがひざを折って降着姿勢を取った。

そしてセインに絡んでいたシートベルトの蔦と額に繋がっていた蔦が外れ、左胸の装甲が開き降りられるようになった。


「すごいです。

古い方のツヴァイよりも扱い易いです」


 それは外から見てもはっきり解った。

動きが異常なほどスムーズなのだ。

いや旧ツヴァイも今ある普通のトレントの騎士よりも異常に動きが良い。

それを上回る動作を新生ツヴァイは実現していた。


 トレントの騎士の動きは年々悪くなっていた。

それはコピーを繰り返した劣化だと言われている。

マッドシティのトレントの騎士がノロいのも操者の質の他にそんな影響によるものだった。

エルフの里のトレントの騎士はそれよりは性能が上だったが、それでも枯れかけた旧ツヴァイでさえ雲泥の差があった。

新生ツヴァイとは比べることも出来ない差だった。


 セインが新生ツヴァイを降りる。

それと入れ替わりでエルフの技師が乗り込もうとした。

旧ツヴァイも扱っていた技師だ。

それは駐騎場へと移動させるためだった。

だが、新生ツヴァイが胸部装甲を閉めて拒絶した。


「新生ツヴァイ、いやもうツヴァイはたった一騎だ。

こちらをツヴァイと呼び、枯れた方は旧ツヴァイと呼ぼう」


 アロイジウスが呼称の統一を宣言した。

そうでもしないと、話に齟齬が生じかねないのだ。


「ツヴァイの整備に技師をつけたいが、いま見たように拒絶されてしまった。

いや、乗る前に拒絶してくれて助かった」


 セインの脳裏に拒絶されたあげくミイラ化したあの遺体が蘇った。

もしかすると、エルフの技師が同じ目にあっているところだったのだ。

そのエルフ技師は旧ツヴァイを任せていた技師だったのだが、その登録は引き継がれていないようだ。


「セインくん、旧ツヴァイの時のように、許可を出してくれないか?」


「わかりました」


 セインがエルフ技師を連れて、ツヴァイの前に行くと、彼が専属技師になることを宣言した。

しかし、胸部装甲が開かない。


「開けて」


 セインが言うと開けてくれるが、技師が乗ろうとすると閉められてしまう。

どうやらセインしか乗れないようになってしまったようだ。


 セインがツヴァイに乗り込むと蔦のシートベルトが閉まり、蔦が降りて来て額に接続した。

そして目の前にAR画面が表示され、文字が流れた。


『認識番号AAA02。

パイロットの生体情報確認。

正式乗員と認む。

ニューラルリンク始動。

ハッチ閉鎖。

強化外装システム、オールグリーン』


「ハッチ解放。

専属整備士を登録したい」


 セインの脳裏に、そうすれば整備士も乗れるという漠然とした知識が齎された。

ツヴァイの意志が聞こえたという感覚だろうか?


『ハッチ解放。

専属整備士登録シーケンス開始』


 ツヴァイが胸部装甲を開いた。


「こちらへ」


 セインがエルフ技師を呼ぶ。

恐る恐るエルフ技師がツヴァイの操縦洞に上半身を入れる。

操縦洞は二人は入れない広さなのだ。

すると、もう一本蔦が降りて来て、エルフ技師の額にある紋章に接続した。


『専属整備士の生体情報を登録。

生体をエルフと認識。

専用言語モジュール解放。

限定資格供与完了。

専属整備士登録シーケンス終了』


 そう文字が流れ、どうやらエルフ技師が専属整備士として登録されたようだった。

それはエルフ技師にも伝わっていた。

エルフ技師の額から蔦が離れる。


「限定資格?」


 エルフ技師が、そう呟く。


「おそらく、戦闘行為などは出来ない、移動などに限定された資格だろう。

ロストナンバーズには、そのようなことがあると聞く」


 アロイジウスが頷きながらそう口にする。


「今思えば、セインくんが旧ツヴァイに乗った時は限定資格では無かったように思える」


 セインも気付いていた。

なぜ自分は旧ツヴァイに乗れていたのだろうかと。


「おそらく、セインくんが乗れたのは、額の種のおかげだ。

だが、旧ツヴァイ全ての性能を使えた訳ではなかったのだ。

エルフ技師が乗れたのは、その低い資格での許可の元だろう。

つまり、今回の限定資格は、それ以上の権限を授かったということのはずだ」


 今回のそれは、セインたちがロストナンバーツヴァイの正式乗員と、その専属整備士と認められたということだった。

その恩恵のとんでもなさに彼らは全く気付いていなかった。


「専属整備士となったテニエルと申します。

これからよろしくお願いします」


 テニエルが改まってセインに挨拶して来た。


「こちらこそよろしく」


 専属整備士ともなれば、長い付き合いになる。

セインも頭を下げる。


 セインがツヴァイから降りると、テニエルが操縦洞に収まった。


「なんですか、これは?」


 ツヴァイと繋がったテニエルの目の前に表示されたAR画面に、セルフチェック項目がずらずらと流れていった。

それはなぜかエルフ文字に翻訳されていた。

その項目一つ一つをテニエルは理解しなければならなかった。

その文字列は、半分以上知らない単語だったからだ。

テニエルは、それらの単語をエルフの長老たちに訊ねて回ることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る