第20話 トレントの騎士栽培

 アロイジウスの指示で直ぐにトレントの種が植えられた。

通常は挿し木や接ぎ木で増やしているトレントの騎士だが、種から育てることも稀にあった。

この里でもそのノウハウは熟知していた。


 栄養豊かな専用の苗床にトレントの種が植えられる。

すると、常識では考えられない速度でトレントの種が発芽し、見る見るうちに成長していく。


「おお、凄いものですね」


 セインはこれが当たり前なのかと感心して声を上げる。

しかし、セインが目を向けたアロイジウスの顔は驚愕に染まっていた。

異常事態だったのだ。


「え? まさか……」


 何かまずいことが起きている。

そうセインも認識した。


「鎧は!?」


 アロイジウスが慌てて技師に指示を出す。


「このままでは鎧の装着が間に合わん!」


 技師がツヴァイから外した鎧をトレントの台車で運び込む。

ちなみにトレントの台車は、荷運び用に調整されたトレントで自走する。

重いものを運ぶのに適したトレントだ。


 だが、その鎧を装着する暇もないほど、トレントの成長が速い。


「操縦洞の空間をまだ確保していません!」


 本来ならば、成長に合わせて操縦洞となる空間を、その大きさの型を抱き込ませて作る。

その型を入れる事も出来ていない。

そして、鎧で拘束しないと、トレントは人型にはならない。


「失敗か!」


 アロイジウスがそう口にしてしまうほど、トレントの騎士に仕立て上げる手順が実施出来ていなかった。


 その時、トレントが触手を出して振り回し始めた。

まるで野生のトレントが獲物を捕食するかのような動きだった。


「危ない! 退避だ!」


 アロイジウスが技師たちに撤退を命じる。


 セインは、それが村の掟「成人の儀に失敗すると、その者は種に食われ、村に災いを齎す」そのものだと思った。

セインがエルフの里に災いを持ち込んでしまったのだと。


 触手の一本がセインを目指して伸びて来る。


「ああ、食べられてしまうんだ」


 そうセインは思って、棒立ちになってしまう。


ビュン


 だが、その触手はセインの横を通り過ぎる。

その先にあったのは!


「ツヴァイの鎧!?」


 触手が手を伸ばしたのはツヴァイの鎧だった。

そして、全てのパーツがトレントに引き込まれた。


「まさか!」


 そう、ツヴァイの種から成長したトレントは、自らの意志でツヴァイの鎧を取り込んだのだ。

そして、それがきちんと人型になるように着込まれて行った。


「どうなっているのだ?」


 そう、アロイジウスが疑問に思うぐらい、それは不思議な光景だった。

そして、あっと言う間に新生ツヴァイが誕生していた。


 おそるおそるセインが新生ツヴァイに近寄る。

どうやら襲われる事は無いようだった。


 そしてそっと新生ツヴァイに手を伸ばす。


 すると新生ツヴァイは、左手の掌を上に向け、セインにそこへ乗れとでも言うように差し出した。


「掌に乗れって言うんだね?」


 セインが掌に乗ると、ツヴァイは、そのまま左胸にいざなった。

そして右手で鎧の留め金を外すと胸部装甲を開いた。

そこには、調整しなければ存在出来ないはずの操縦洞があった。


「ここに乗れば良いんだね?」


 セインはその誘いにのって、操縦洞に入った。

そして椅子のようになった座面に座ると、シートベルトのように蔦が身体に絡まって座席に固定した。

さらに上から蔦が降りて来て、セインの額にくっついた。

すると、またセインの目の前にAR画面が現れる。

そこに文字が流れる。


『認識番号AAA02。

パイロットの生体情報確認。

正式乗員と認む。

ニューラルリンク始動。

ハッチ閉鎖。

強化外装システム、オールグリーン』


 そして胸部装甲が勝手に閉まる。

セインはツヴァイと一体になったような錯覚を覚えた。

まるでツヴァイが自分の身体になったようだった。


『旧強化外装の存在を確認。

アポトーシス始動発令。

完了』


 その文字の意味をセインは理解していなかった。

だが、その意味は技師の報告により判明した。


「大変です、ツヴァイが急に枯れて朽ちてしまいました。

もう生きていません!」


 それは新しい身体に新生したツヴァイが古い身体を始末するための命令だったのだ。



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