俺たちの戦い方

★★★



「よし、うまくいったぞ」


「まさかこんな簡単な方法にひっかかるなんてね……」


「簡単だからひっかかるのさ」


 俺たちは研究所に侵入したエネルケイアのメンバーを見つけて早速行動した。

 使ったのは『クリエイト・ウォール』。土や石の壁を出す創造魔法だ。


 これでエネルケイアのメンバーを研究所の袋小路に閉じ込めたのだ。


「しばらく頭を冷やしてもらって、後で出してやろう」


「そうだね。本気で争いたくないし」


「ぱっと見た感じ、エネルケイアの連中は、少人数で手分けして研究所の中を漁ってるみたいだな」


「そうだね。団体のまま行動されてたら手も足も出なかったけど……」


「何とかなりそうであります!」


「うん。連中は多くても3人で行動してる。これなら十分勝機はある」


「むこうから戦力を分散してくれたのはありがたいね」


「これまでがよっぽどワンサイドゲームだったんだろうなぁ」


 俺はふと、破壊されたノトスの町を思い出していた。


 ここに来た連中が街を攻撃した連中と同じなら少し変に感じる。

 連中なら、初手で研究所を吹き飛ばしていてもおかしくない。


「どうしたのユウ?」


「あ、いや……ちょっと変だなって思って」


「何が変まうー?」


「エネルケイアはノトスの町をメチャクチャにしてたろ? ここも同じようにしてもおかしくないのに、やたら上品だなって」


「そういえばそうだね。エネルケイアの中でも、慎重派がいるのかな?」


「かもな……だとすると――」


「エネルケイアを内部から切り崩せるかもね」


「だな。全員が全員、リーダーの言いなりってわけじゃないらしい」


「説得するでありますか?」


「できるだけそうするつもり、かな?」


 エネルケイアのメンバーが俺たちに味方してくれるなら頼もしい。


 なんせ彼らはガチ勢だからな。

 一部が味方になれば、エネルケイアと戦う選択肢もとれるようになる。


「僕たちがエネルケイアからメンバーを引き抜けば、その分僕たちは強くなるし、向こうは弱体化する。ユウはそれを狙っている感じ?」


「うん。でもこれ、俺たちが内部抗争をあおるような形になるな……」


「確かに印象は良くないけど、そうなった原因は向こうのリーダーにあるよ」


「……そうだな、説得のときはそこを攻めるか」


「うん?」

「どういうことまう?」


「例えばそうだな……君たちは悪くない。リーダーのせいで悪いことをしただけ。そういって彼らの罪悪感を取り払う」


「そして次に、君たちが正しい方向に戻れる道はまだあると教える。デュナミスがやっていることがそうだと」


「迷っている彼らに道を示し、彼らを仲間として迎え入れるんだ」


 そこまで語ったところで俺は周囲の白い視線に気づいた。

 ママをはじめとして、みんなが俺をじとーっと三白眼で見つめている。


「ちょっとカルト教団の勧誘っぽいね」

「やばいヤツまう!」

「わりとドン引きであります!」


 自分で考えておいて何だけど……。

 言われてみれば確かに。


「ユウがいってる事は正しいし、効果的なのも間違いないけど……」


「人の心がわかってるのに、人の心がないであります!」


「そんなに?!」


「でも効果はあると思うから……ユウのそれでいいんじゃないかな」


「う、うん」


 なんかみんなとの間にちょっと溝が出来た気がする。

 自分でサイコパス感あるなとは思ったけど……。


「あー説得はともかく、連中のジャマは続けよう!」


「ユウ。次はどう動くんだい?」


「さっきの方法をなぞろう。今回の主役はマウマウだ」

「まう!」


「マウマウはアバターの体が小さいからな。建物にある穴から穴へ移動できるし、第一見つかりにくい。ここでの戦いはマウマウが適任だ」


 マウマウのアバターは二足歩行のネコなので、かなり小さい。

 今回みたいな、暗い室内での奇襲にはうってつけだ。


「あとはエミリンだね。彼女なら今回の奇襲役にはうってつけだ」


「俺たちとちがって、彼女たちのアバターは独特だからなぁ」


「今回はそれが役立つでありますよ!」


「よし、行動を開始しよう」



★★★



「おい、ライトさん見なかったか?」


「そういえば見てないな……どこ行ったんだろうな」


「先に帰っちゃったとか?」


「そんなはずはない。撤退の合図は出てないだろ」


「まさか……やられたってことは?」


「それこそありえない。ここの護衛の強さはチュートリアル以下だぞ」


「だよなぁ……道に迷ったのかな」


「やたらに複雑だもんな。この研究所の構造」


 お互い不安な表情で言葉をかわす、剣士と魔術師風の二人の男。

 研究所の通路を進む彼らは、エネルケイアのメンバーだ。


 研究所の道を進んでいるが、彼らは完全に道に迷っていた。

 その原因はマウマウにある。


 彼女はユウの指示を受け、適当に通路に壁を置いて回った。


 研究所の通路は、本来規則的な構造をしている。

 だが彼女のこの行為によって、複雑怪奇な迷宮と化していたのだ。


 研究所はいくつもの通路が封鎖されている。

 完全に人間が行き来できる状態ではなくなったが、マウマウには関係ない。


 彼女だけは研究所の通風孔をつたって移動できるからだ。


「クソッ、ここも行き止まりだ」


「この研究所、地図とか無いのかな……」


「もういい面倒だ。ブチ抜こう」


「おいおい、いくらなんでも……」


 壁にスキルを放とうとする魔術師を、相棒の剣士がとめる。

 すると彼を止めようとした剣士は、あることに気付いた。


「おい、何か……通風孔にいるぞ?」


 そういって剣士は頭上の通風孔を見た。

 2人を囲む左右の石壁には、鉄の格子がはめられた穴がある。

 彼はその中にある何かに気づいたのだ。


「ん……ネズミかネコじゃないのか?」


「いや、何かが光ってる」


 魔術師はスキルを放つのも忘れて穴を見る。

 確かに格子の奥に何かが見える。


「おい、ちょっと肩を貸してくれ」

「えぇ?」

「鎧を着てるんだから、お前が下になれよ」

「それもそうか。仕方ねぇな」

「よっと……」


 魔術師は鉄格子に手をかけると、格子を左右に揺らして穴から取り外す。

 そして穴を覗き込んだ。


「いったいここに何が――」


 暗い穴ぐらの中に目をらす魔術師。

 するとそこにあったのは人の生首だった。


 表面はぬらりと光り、とても人のものとは思えない。

 髪の毛らしきものはあるが、ベッタリとひとつの塊になっている。


 あっと思った魔術師は、飲み込むモノも無いのに喉がごくりと動く。

 彼は魅入られてしまったように生首を見つめた。


 だがそのとき彼は気づいた。この生首は生きている。

 生首はゆっくりまぶたを持ち上げると、ギラリと光るふたつの眼球が現れる。

 そしてその瞳はぐぐっとこちらの方を向いて、彼の姿を捕らえた。

 

「「ぎゃあああああああああ!!!」」


 恐怖に絶叫する魔術師の叫びと、驚いた剣士の叫びが重なった。

 魔術師の視界の端に映る生首の唇が動く。


「・・・・・・!!」


 生首が何をしゃべっているのかは、彼自身の叫びで聞き取れなかった。

 だが呪いにるいするものであるのはおそらく間違いなかろう。


 刹那せつな、どこからともなく大量の水が通路に流れ込んでくる。

 彼ら2人は押し流され、そこにプカプカと浮かぶ羽目になったのだから。



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