第1話 

紅く染まった夕日を背に

コツコツと2人のローファーが音を立てる。


謎の切り裂き魔の噂。

登校に使っていた道は使いたくない。

今は少し遠回りをして帰っている。


「その通りにしか切り裂き魔はでないの?」


少し下がった丸めがねの上から

心配そうに見つめる蘭子。


「あたしが最初に通学に使ってた白教会通り

にだけ切り裂き魔の噂はないんだって。

お姉ちゃんがゆってた…

だから今はこうして221道路から帰ってる」


白教会通りは白い教会があったからこの名で

呼ばれているが、両脇はレンガが積み上がっており

夕方には街灯の灯りがぽつんとみえるほど。

そしてひとつ高い丘の上に白い教会が

こちらを見下ろしていた。


それに比べたら221道路は両脇が商店街で

閉まってる店も多いけど、最近は新しいお店も

できたりして活気を取り戻しつつある。

白教会通りの薄気味悪さに比べたらこっちの方が

居心地がよい。


と、コツコツ歩いていたローファーが止まる。


「蘭子ちゃん??」


あたしが不思議そうに彼女の方を見ると

立ち止まった彼女はある店を見ていた。


"CAFE Holmes"


「こんなとこにカフェなんてあったんだ。

ほるむず?変な名前。」


蘭子が入りたそうに見ているこの店は

正面がガラス張りで中には観葉植物やら

本が置いてあってすこし雑多な感じがした。


店にはオレンジ色の吊るしライトが

いくつかあってカウンター席がある。


「最近できたのかな?

蘭子ちゃん、ちょっと寄ってく?」


あたしがそう言い終わると

丁度蘭子の携帯電話が鳴り出す。

誰かと話し終えると用事があるから

気をつけて帰るんだよ。

そう言って蘭子は小走りでかけていった。


セーラー服の袖から銀色の小さな腕時計を出し

時刻を確認する。18:00のようだ。


「入りたい気もするけど、

蘭子ちゃんも帰っちゃったし…」


そういえば、今晩はお母さんもお姉ちゃんも

帰りが遅くなるってゆっていた。


「少しだけお茶でものんでいこっと」


止まっていたローファーをコツコツと鳴らし

あたしは仄暗い店内に入っていく。


店内はBGMが流れていなくて、

いま風のカフェではないようだ。

壁は少し茶色いレンガ調で

8席のカウンターにバーチェアが並ぶ。


天井は薄緑色でオレンジ色の

照明に照らされていた。


壁には年代物のようなチクチクと鳴る振り子時計。


床には英語で書かれたいくつもの書物が

雑多に積み上げられている。


「す、すみませーん」


すこし不安ながらに声を出すが返事がない。


「すみませーん!」


左脚を前に出して先程よりも少し大きく

声を出したその時、

雑多に山のようになった本につまずき

大きな音を立てて本の山が崩れる。


すると店の奥からかなり怒った口調で


「こらー!!

店の物を勝手に触るんじゃあない!!!」


とすこし高めの声がした。


「ご ご ごめんなさい。

でも床をこんなに散らかしてると

つまずいちゃいますよ〜」


咄嗟に謝罪したのに余計な事を口走ってしまった。

あたしったら一言多いんだから ばか。


「その本はそこに置いてあるんだよ!

散らかしてなんかない!!綺麗じゃないか!!!」


また少し高めの声がするが、姿は見えない。


「ところでお宅、もしかしてお客さんかい?」


あたしは怒鳴られた勢いに任せ


「お客さんでしたけれどまういいです!

こんなお店2度ときません!!!」


そう言って店を出ようとすると


待ちなさい!そう声がして振り返った

あたしの前に"彼女"が立っていた。

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こちらホームズ心霊探偵事務所。 おねがいワトソン。 @onegai_watson

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