こちらホームズ心霊探偵事務所。

おねがいワトソン。

プロローグ

「はぁ」


少し重たい溜息と重たい腰を起こす。

夜明け前の仄暗い陽射しで

あたしの黒髪が照らされる。


この春から高校生のあたしは

新生活に胸を躍らせている。

ただ1つの事を除いては…


学校でのあたしはいたって普通の女子高生。

変わってるって言われるのは趣味くらい

世界の謎、未確認生物、UFO

悪魔に幽霊。

オカルト好きがこうじて

高校ではオカルト部に在籍している。


活動はというと学校や地域で広まる噂の

究明が調査。いわば自己満足研究部。


今日もあたしは授業が終わると最上階にある

1年生棟からそそくさと階段を駆け降り

地下1階にあるオカルト部へとはいる。


「わーちゃんおつかれさま〜」


部室のテーブルに伏せながら

気の抜けた声であたしをわーちゃんと呼ぶのは

同級生でオカルト部員の諸岡 蘭子。

彼女とは中学時代からの馴染みで

部活でも仲良しだった。


黒髪でツインテール、丸めがね

陰キャのような見た目の陽キャ

彼女のことはそう形容するのがいい


「遅れてごめんね蘭子

これでも走って来たんだけど。」


「まあいいけど、待つのも大変なのよ!

だーかーら明日は購買でメロンパン奢ってねん」


無茶な理由をつけて奢らせるのも

彼女らしいと言えば彼女らしい。


はいはいと2つ返事で答えると

彼女は目をキラキラさせて詰め寄り


「ところで今日はどんなネタ??」


彼女はあまりオカルトを信じないと言うが

興味はあるようで、いつもあたしの話を

楽しそうに聞いてくれる。


「そうだな〜

校内の噂だと人づてに誇張されてくから

結局なにが真相か分からないんだよね…

いっそのこと校外まで足伸ばしてみる?」


「いいけど…

学校以外だったらいい話でもあんの?」


そう言われてあたしのぱっつんな前髪の下から

冷たい汗が一粒、青い瞳の横を落ちていった。


「それがね…」


その噂というのはあたしの通学路が出所。

ずっと前から噂になっているのだけれど、

その通りを歩くと身体に身に覚えのない切り傷が

できると言うもの。


まるで見えない何者かに切られたような。


「てかその噂、なんでわーちゃんが知ってんのさ」


蘭子は鋭い。


あたしはそっと黒いセーラー服をたくしあげて

脇腹の下に伸びた長い切り傷をみせた。


「これ、気付いた時には傷跡になってて

でもそれまでどこかにぶつけたこともないし

下着に血がついてたこともないのに

気付いた時には跡になってたんだよ…」


あたしの胸が踊らないのは

これが原因。


あれれ、蘭子が下を向いて震えている。


「うちのわーちゃんを傷物にしやがって…

しょうがない、蘭子が嫁にしてやるから!」


泣きながら抱きついてくる蘭子にあたしは続ける。


「蘭子!とりあえず落ち着いてよ。

この話には続きがあるの」


そう、この切り傷がつくのは女の子だけ。

また肩よりも長いポニーテールの子。

という事。


実際、警察まで動員されたって話だけど

犯人逮捕には至らなかったみたい。


じゃあポニーテールにしなければいいのでは

そう思った人も多いだろう。

しかしこの傷をつけた者は1度傷をつけると

執拗に何度も傷をつけにくるという。


「ただの変態じゃん!

それより私のわーちゃんを傷物に…

絶対正体暴いてやるんだから!!」


丸めがねの奥に炎がみえる。


と、ここで17:00のチャイムが鳴る。

同好会系が入る地下1階は17:00を過ぎると

閉鎖されるのであたしたち2人は足早に

学校を出た。


あたりは陽が沈みかけてオレンジ色に光っていた。

夜のとばりが降りそうな中、

あたしたちは少しの不安と少しの好奇心を

もって帰路についた。


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