…………………4-(6)

「はいっ、検査終了!これでH解禁!」

 静流は病院を飛び出すと、右見て左見て、今度はトラブルに巻き込まれないように速足で歩く。病院の検査が終わると、直ぐ様あざみに連絡した。

「母さん、検査終わった。もう問題ないからね。じゃあね!」

『待ちなさい』

「もうなに!」

『もう一つ報告があるでしょ』

「あぁ、僕の勝ちだよ!当然だけどね!」

『…意外と早く落ちたのね』

 落胆しているあざみに、静流は笑いながら、

「当たり前じゃないか。元々、相思相愛だもん!」

 あざみは大きな溜息を吐いている。

『分かったわよ』

「母さん、ありがとう」

『…なんだが、複雑な心境だわ』

「…だろうね」

 笑っていると、あざみは腹が立ったのか、すぐさま電話を切った───。

 さて、今はそれどころではない。今日は帰ったら、すぐにお風呂に入って、ベッドのなかに入って準備万端で待つんだ。そう勢い込んで、玄関のドアを開けると、見た事のある靴がある。急いでリビングに向かうと、

「なんで居るんだよ!」

 ソファで寛いでいるあざみの姿と、キッチンで料理をしている鷹東に、静流は地団駄を踏んで叫んだ。

「なによ。そんな飛んで帰って来なくてもいいんじゃない?」

「当たり前だろう。今、新婚なんだよ。イチャイチャしたいんだぁ」

 叫んでいる静流の口を、鷹東は両手で塞いだ。

「恥ずかしい事を叫ぶな」

「あれ?基さんも帰り早くない?まだ、お店だと思ってたのに…」

「あざみから、快気祝いをしようって連絡があったから、準備していたんだ」

「……っ!」

 絶対に邪魔しに来たに決まっている。落胆したようにソファに転がった静流に、鷹東とあざみは可笑しそうに笑った。いつものように三人で食事をして過ごした。始めは剥れていた静流も、食事が終わった頃には機嫌良く満足そうに笑みを浮かべていた。

「まあ、イチメに似て体は頑丈だから、もう問題ないでしょう。思った以上に元気そうだし」

「なんか、その言い方腹立つな」

「こらこら…」

 静流の気持ちも分からないでもないが、あざみの心配も分かる気がするので、静流を窘める。そうそうに片づけを手伝い出した静流に、あざみはその横顔を遠くから見つめた。

 残りの片付けを鷹東と一緒にしていたあざみは、鷹東の穏やかな笑みと雰囲気に胸を撫で下ろした。ほっとした気持ちと、長年の片思いに終止符が付いたかと思うと、悲しくも複雑な溜息を吐き出した。

 鷹東が静流を選んだのなら、仕方がない。

 そう内心溜息を吐き出すと、

「基さん、静流のこと宜しくお願いします」

 驚いたように、頭を下げたあざみを見つめた。

「あざみ…」

「私もようやく色んな思いを、いい思い出に出来そうだわ」

 少し涙ぐんで笑っているあざみに、

「大切にさせてもらうよ」

 そっと伸ばされた手に、鷹東は両手で強く握り締めた。あざみを玄関まで見送ると、その立ち去った後姿を少しの間見つめたままでいた───。

「あれ?母さん、帰ったの?」

 既にお風呂を済ませた静流が、首にタオルを巻いたまま、鷹東の側に立つ。

「あぁ、一応心配して来たんだ。礼は言っておくんだよ」

「分かった」

 素直に頷いた横顔を見つめる。濡れた長い髪に雫が首筋を流れていく。鷹東はそっと視線を逸らすと、キッチンへと戻る。静流は冷蔵庫から、ミネラルウォーターを取り出し、一気に飲み干した。その唇から喉を横目でチラッと見ると、静流と視線が合う。

「基さん、早くお風呂に入って…」

「………」

 思わずジッと凝視すると、

「早く早く早く!寝るよ!」

「まだ八時だが…」

「もう…」

 目を吊り上げて睨む顔が可愛かった。

「基さん!」

「分かった分かった」

 笑いながら、部屋に入り、風呂場へと向かった。その鷹東の後姿を腰に手を当てて眺め、

「なんだか、余裕がないのは僕だけ?」

 剥れている静流をよそに、鷹東はゆっくりと湯船に浸かっていた。必死な姿が可愛すぎて、思わずそのまま抱き上げて、ベッドに連れて行こうかと思ったほどだ。でも、夜は長い。今はこの幸せを噛み締めるように味わいたい。

「今日の夜はきっと長いな…」

 こんなにも満たされた気持ちは久し振りだ。ゆっくり目を閉じていると、浴室のドアが勢いよく開いた。

「遅いと思ったら、なに呑気に湯船に浸かってんだよ!」

 怒り心頭な様子に、鷹東は吹き出して笑った。こんなにも声を上げて笑ったのも、久し振りのような気がした。結局、静流はずっと離れることはなく、鷹東の周りをうろうろしていた。

「もう、そんなに笑うのって、酷くない?」

 ミネラルウォーターを飲みながら、まだ笑っている鷹東に、静流は含み笑いをして、その首に腕を回してぶら下がった。

「そんなに笑っている基さん見るのも、初めてだよね」

「そうかな」

 静流の背中に腕を回し抱き寄せると、静流の体温を感じる。その額に軽くキスを落とした。

「さてと、戸締りもしたし、早いけど寝るか」

「うん!」

 満面の笑みに、笑いが込み上げてくる。

「もう、また笑ってる」

 鷹東の部屋のドアを開け、暗闇のなか電気を付けようかと手が止まると、静流がその手を掴む。廊下の明かりで、静流の横顔があまりにも神妙で、また笑いが込み上げてくる。

「緊張し過ぎじゃないかい?」

「基さんが、間を開けるからじゃないか!もうあのシーンが一日中頭のなかをグルグル回って、大変だったんだからね」

「それは僕も同じ…」

 驚いたように、鷹東の顔を見つめ、ニタッと意地の悪い笑みを浮かべる。

「僕に溺れてもいいよ」

「悪魔の囁きだな」

 ドアを閉めると暗闇のなか、静流の肩を抱き、ベッドに座った。そのままゆっくりと倒れ込む。深く合わせた唇から、唾液が零れ落ちると、微かにカーテンから漏れた光で、その後を舐めとる。長い髪に触れると、静流が纏めて、枕のうえに置いた。その手は、鷹東の服のなかに差し込み、直に肌を触る。

「基さんって、肌障りいいんだね。もちもちしてる」

「本当に手癖も足癖も悪いね…」

 静流の上半身の服に手を掛けると、

「あぁ、もう!全部脱ぐから…。基さんも脱いで…」

 確かにまどろっこしいが、それも楽しみたかったのに、静流はもう限界近いのだろう。全部脱ぎ捨てると、その体を抱き締めた。体温が何度か跳ね上がる。静流自身に触れると、

「あぁ、…もう持たない」

「そうだな…」

 静流自身が蜜を溢れ出して震えている。手で優しく握り締め、先端を親指で撫でるだけで、

「あぁ、はっ…、うぅ、うっ!」

 弓なりになって、熱い高まりを吐き出した。熱い溜息を吐き出して、ベッドに力なく沈む様子を、目を細めて見ていた鷹東は、

「えっ!あぁ、ちょっと。待って、あぁ…」

 鷹東の口のなかへと飲み込まれていく。熱い口のなかで愛撫され、先程達かされたばかりなのに、また高みへと持っていかれる。力の入らない体で、与えられる強い愛撫に長い髪が乱れ、シーツの上を足が滑っていった。

「あぁ、あっ、んあぁ、いい…」

 執拗に先端ばかりを攻められ、片足を肩に乗せられ、足は宙を蹴って悶える。もう片方は大きく広げ、愛撫に腰を持ち上げる。

「あっ、基さん。んぅ、そこは駄目だって、そんなに強くしたらまた達くよ…」

「何度でも達っていいよ」

「あっ、ああぁ、ああっ!」

 二度目の高まりを放つと、脱力してベッドに深く沈んだ。鷹東は優しく抱き締めると、乱れた長い髪を弄んだ。静流の汗の流れている額にキスをして、唇を甘く噛んで、そのまま首筋からピンク色にツンと立っている乳首を含む。

「基さん、くすぐったいよ」

「そう…?」

 舐め上げると、ピクッと反応する。含んだままで、舌で遊んでいると、静流がまた反応し始める。

「基さん、基さん…」

「…なに?」

「僕も触れたいし、感じたいし、早く欲しい!」

 もう少し悶えている姿を楽しみたかったが、鷹東は起き上がると、ゴソゴソと何かを探し始めた。静流はニヤッと口許を緩めると、枕の下に隠しておいた、鷹東が用意していたオイルの瓶を差し出した。

「君は…、いつの間に…」

 大きな溜息とともに、瓶を開ける。また、反対の手でゴソゴソと探しているその手を掴み、指を一本一本舐め上げる。

「ゴムなんて使わせないよ…」

「…全く。仕方ないな…」

 オイル塗れになった指を、静流の最奥の蕾に含ませる。

「…っ……」

 何度も何度もオイルを足して、傷付かないように広げていく。静流の指が鷹東の肩に食い込んでいたが、その力が次第に緩み始めると、指を増やしていく。静流が勃ち上がり始めると、最奥が指を締める。

「んんっ、はあぁ…、イイかも」

「まだ駄目だ」

 静流が感じ始めると、抜き差しに強弱をつける。

「あっ、もっと奥が、いいっ!」

 鷹東の手を掴み、いい所へと導く。その様子に、鷹東は自分の熱棒にオイルを塗って、何度か擦った。

「あぁ、もうね…。基さん、早く…」

 煽られるように足が腰に絡んでくる。鷹東は静流の足の間に体を擦り入れると、最奥に熱棒を押し当てた。静流の腰を抱え、ゆっくりと挿入していく。

「熱っ、んんっ、きつっ…」

「うっ、静流、力を抜いてくれ」

 静流自身を擦りながら、刺激を与えると、最奥の締まりが解れていく。更に腰を進めると、静流がキスをねだってくる。

「あんっ、んんっ、ねえ、もっと…」

「こらっ、締めるな」

「駄目、もう止まんない」

 静流の両足で腰を挟まれ、強く締め付けられる。しびれる程の快楽に、鷹東は我慢していた腰の動きを始めた。

「あぁ、いいよ。基さん、もっと奥」

「ここか?」

「うーん。ああっ、んっ、そこ!」

「…くっ!」

 鷹東は最奥の深い場所を突くと、頭が真っ白になる程の激しい熱い高まりを吐き出した。脱力した鷹東を抱き留めた静流は、嬉しそうにその癖のある髪を撫でた。静流の胸のうえで、激しい息遣いをしている鷹東は汗を拭うと、

「なんか、今のは凄かったな…」

「ほんと?」

 静流は鷹東の体を抱き締めたままで、

「基さん、心も体も通じ合うと、最高に幸せなんだね!」

「……っ!」

 鷹東はゆっくりと静流のなかから出ると、ゴロンっと横に転がった。静流は胸のうえに顎をのせると、優しく手にすり寄って笑みを浮かべる。

「本当だな、僕も初めて知ったよ」

 甘い視線を絡めて笑った。静流はゆっくりと鷹東の腰の上に乗っかると、まだ力を失っていない鷹東自身に触れ、ニヤッと笑った。

「あっ、こら、待て!」

「大丈夫、大丈夫、あぁ、んんっ…」

 熱棒をゆっくりと自分のなかへと沈めていく。奥深くまで辿り着くと、満足そうに鷹東を見下ろした。

「まったく。いつも君は僕の膝のうえに乗るんだね」

「だって、僕の定位置じゃないか」

 ゆっくりと腰を動かしながら、自分自身を擦っていく。静流の腰を支えながら、奥深くで締め付けらる快楽に、

「こら、なんて腰つきをするんだ!」

「あっ、あっ、あっ、いやイイ…っ!」

 激しく動き始めた静流に、翻弄されながら、高みへと昇り詰める。静流の熱い欲した目で見つめられ、何も考えられないくらいに激しく求めた。

「……くぅっ!」

「んんっ、はぁぁ、最高…!」

 静流の奥で激しく叩きつけるように、熱を吐き出すと、力尽きた様にベッドに深く沈んだ。吐き出した熱が溢れているのを感じる。静流は舌なめずりをしながら、快楽に潤んだ目で見つめる。鷹東は一瞬我を忘れてしまった事に驚いた。ゆっくりと起き上がると、優しくその体を抱き締めた。

「はぁぁ…」

 満足そうな静流の顔を見つめ、深く唇を合わせながら、その顔を覗き込んだ。

「静流?…どこで覚えたのかな、そんな腰つき…」

「……っ…!」

 気が付くと、がっちりとホールドされていて、思わず苦笑いを浮かべる。

「えーと、えーとね…」

「言うまで、朝までこのままだ」

「むむっ…。あっ!思い出した。父さんとアジア諸国を旅していた時、小さな村のモーテルで、商売の女の人たちがさ…」

 一命の事をかなり気に入った女の人が、夜中忍び込んできた事があった。結局、楽しんでしまった為、かなりの高額のお金を取られたんだけど。そっちは内緒の話ということで。

「見ていたのか…」

 いつものように寝たふりをして。

 鷹東は眉間に皺を寄せると、

「なんて所に連れて行くんだ、あいつは…」

「店には招待されたんだよ」

「………」

 可愛く笑っている静流に、ホールドを解かないまま、

「それで、このオイルは僕が用意したものじゃないよね」

「………」

 静流は明後日の方向を向いて見るが、冷たい目で見られる。

「一体、これには何が入ってるのかな?」

 優しく穏やかに言ってるが、内心かなり怒っている。静流は大きな溜息を吐くと、

「うーん。これはある民族っていうか、山賊の人たちが日常使っている薬草で作ったオイルだよ。毎年父さん宛に態々送ってくれるんだよ。義理堅いよね」

「誤魔化しても駄目だ。何が入ってるんだい?」

「害はないよ、薬草だもん」

「という事は、君が作ったものだね!」

 首を絞められるような尋問に、静流は苦し紛れに笑みを浮かべた。

「…イランイランとか…」

「…っ…!」

 この香りのせいなのか、他にも何か入っているのか、道理でまったく萎えない訳だ。

「でもでもでもさ。傷薬にもなる万能薬なんだよ」

 胸を張って言う静流を睨みつける。楽しんでしまったため、文句は言えないかと、大きな溜息を吐いた。そっと揺れる長い髪に触れると、

「随分と伸びたな…」

「前髪以外は切った事ないからね。でも、念願叶ったから、もうバッサリ切るよ!」

 結構手入れが大変なんだって、どれくらい短く切ろうかなって呟いている静流に、鷹東はその髪を握り締めた。

「それはダメ…」

「えっ!なんで?」

「僕が好きだから、切るのは駄目!」

「えぇっ!!!!」

 静流の大きな叫び声に、鷹東は可笑しそうに笑った。そのまままた鷹東の腕のなかで、静流は幸せそうに笑みを浮かべて眠った。


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