生まれつき
さて、二人も部屋から出ていき落ち着いたことだ。今分かる範囲のことをまとめよう。
まず、俺の名前はマハト。部屋の中にあった誕生日のメッセージカードから分かった。また、俺は今年で十歳らしい。
そのメッセージカードには、
「愛すべき息子、マハトへ
十歳の誕生日おめでとう。
お前と共に今日という日を迎えられてよかった。いつかお前が明日を楽しいと思える時を願っている。
父、ダローガより」
という文が書かれていた。ダローガというのは父上と呼ばれた男のことだろう。
また、内容から察するに、俺は辛い過去を抱えているようだ。
何があったのかは分からない。が、何も情報がない今、これについて考えても仕方ないよな。
見た目の話だと、髪の黒や肌の白はダローガに似ている。だが、目はダローガの赤と違い白だ。母親の方に似たのだろうか。
そういえば、母親が見当たらない。何か用事でもあるのか?後でダローガに聞こう。
また、クラウン式の窓から見える景色からして、ここは小さな村だ。しかし、俺が今いる家は他の家とサイズが明らかに違っていた。
ダローガはこの村の領主なのか、もしくは貴族の別荘のような場所なのかもしれない。
あとはそうだな、なろう系ならチートスキルを持っていたりするものだが、ステータスのような機能はないらしい。不便なものだ。
ステータスが確認できないのであれば、今後どこかで鑑定イベントのようなものがあるのだろう。気長に待つしかないな。
……ただ待つだけというのも暇だ。勉強でもして時間を潰そう。
俺は前世でしょうもない奴だったけど、昔から勉強だけは得意だった。──というよりは物覚えが良かっただけかもしれない。だがそのおかげで高校までの学習内容だけでなく、YorTubeなんかで出てくる科学、哲学から雑学まで、様々な解説系動画の内容も大体は頭に入っているんだ。
魔法やスキルについて今のうちに学習することには大きな意味があるだろう。
早速勉強に取り掛かろうと思い、この部屋──恐らくマハトの部屋、棚を見る。
マハトは読書が好きだったんだろう。十歳にしては分厚い本が沢山ある。くまなく探せば、魔法について書かれた本も持っているだろう。
左から順に見ていくと、真ん中辺りに『魔法基礎学』という名前の本を見つけた。この本もほかと同じくしっかりと重量があり、分厚い。そして大袈裟な表紙に包まれている。
よく見るとわかるが、羊皮紙で作られた本なので前世ほど綺麗なものでは無い。ただ、それが逆にいい味を出しているようにも思える。
どちらにせよ、これを見ればきっと魔法の基本について理解できるのだろう。これだよこれ。こういうのを待ってたんだ。
早速本を開く。すると、目次の前にでかでかと名言のようなものが書き出されていた。その言葉はこうだ。
『魔法とは願望。口に出さず叶うことは無い』
実に深い言葉だ。前世でも、夢は声に出さなければ……みたいな言葉があった気がする。
次のページを開くと、魔法の基礎的な考え方が書いてあった。
曰く、魔法とは神が人間に与えた力だという。なので、魔法を使う時にはその魔法の名前を声に出すことで神にその魔法の使用許可を出してもらうということらしい。
──やはり祈るだけでは意味が無いのか。無詠唱魔法、スピード感あってかっこいいんだけどなぁ。
あと、
それはさておき、また次のページだ。今度は魔法の分類について書いてあった。
魔法には大きく分けて三つの種類があるという。それは、放出系、操作系、変化系の3つだ。
放出系は、いわゆる攻撃魔法と言うやつだ。魔力を別の物質に変換し、炎を出したり水を出したり出来る類のものだ。
次に操作系。これは、該当する物質や事象を操ったりするものらしい。放出系とは違い、既に存在しているもののみ操ることが出来るそうだ。
そして変化系。これは少し複雑で、物事の状態を変化させるものだ。例えば傷を負った体を万全の状態に戻したり、重力を無視して空を飛んだり出来る。性質や状態に変化を与える魔法ということだ。
次の章を見てみると、今度は魔法の使い方の詳細についての説明が書いてあった。
まとめると、魔法を使う為にはまず体内もしくは空気中に存在する魔素という物質が必要らしい。
この物質を自分の望むように作り変え、現実世界に魔法として排出するものなのだ。その際に、使用する魔力の量や魔法を射出する速度、持続時間等を設定する事も重要だ。
魔法って意外と面倒な段取りが必要なんだな。まぁ、それもやっていくうちに慣れるだろう。
ここまで何も記述が無かったため、属性等の分類は無いのかと思ったがある程度大まかな括りはあるようだ。しかしながら、種類が何十もあるせいでここでは省かれているようだ。
ならこの分厚い本には、これから先こんなに長ったらしくどんな無駄なことが書かれているのだろうか。あまり気乗りしない。
とはいえ見ないままに終わるのも気持ち悪いので次のページを開く。ここからは具体的な魔法か。なるほど……魔法の総数が滅茶苦茶に多いせいで本がこんなに分厚かったのか。
魔法基礎学よ、無駄なんて言って悪かった。
まずは簡単な初級の魔法だ。言い忘れていたが、魔法には難易度がある。
初級、中級、上級、超級、極級、神級の六段階だそうだ。普通の人間に扱えるのはせいぜい中級までだという。特に、神級魔法を使うものはこの世にほとんど存在しないらしい。
この世界はなろう系だし、きっと俺には何らかのチートが設けられているはずだ。俺だけ神級魔法が使えるってのも悪くないな。
しかし物事には順序がある。まずは簡単なものから試して行くのが吉だろう。そう考え、俺が最初に目をつけたのは
この魔法は放出系の初級魔法で、発動と同時に水の球が発射される。速度を重視する魔法のようで、その他に割く魔力はあまり多くない為純粋なスピード由来の威力を持つのが特徴だそうだ。
遂に実践する時がやってきた。魔法とはいえ、速度だけが取り柄のものだから問題は無いだろう。壁に紙を貼り付け簡易的な的を用意した。よーし、やったるぞ!
「
──おかしい。いつまで経っても魔法が発動しない。何か段取りに間違いがあっただろうか?いや、書いている通りにやったはずだ。
もしかして、俺に魔法は使えないのか?そんな疑問が脳裏をよぎり、俺は急激に魔法への興味を無くす。この異世界で無双は無理なのか……
いや、まだ諦めるのは早い。筋肉や頭脳がチートな可能性もある。……いや、少なくとも現時点ではどちらも平均的なようだが。やはりチートスキル、いや魂転だけが頼りか。
一度落ち着く為、ベッドに寝転ぶ。前世じゃ布団で寝る毎日だったからか、このふかふか感がたまらない。今からでも寝てしまいたいくらいだ。
ぼーっと天井を見つめていると、隣の部屋から声が聞こえてきた。
「フィークス、マハトについてだが……」
「ええ、分かっています」
何の話だ? この声はあの二人のもののようだが。
「そうだな。魂転も魔法も使えないまま十年を生きた、あいつの選択を私達がどうこう言う権利は無い」
魂転が、無い? うそだろ……
そうなると、俺はチートを持たずに異世界に転生させられたことになる。由々しき事態だ。俺には異世界無双をする未来は待っていないのか?
まさか、こんなにも早い段階で俺の希望が打ち砕かれるとは思わなかった。
「こうなったらもう誰でもいい。俺を助けてくれ!」
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