親友なんて

 勢いで戦いを乗りきったものの、この後はどうしようか。気絶させたまま逃げる……のはダメだろうな。


 うーん、仕方ない。面倒だが、ひとまず安全な場所まで連れてってやるか。



 〇



 俺は安全な場所、『ブランチ』までウーデンをおぶった。

 同年代の男をおぶって歩くのは大変だが、流石にこのまま放っておくのはちょっと悪い気がする。

 ……それに男だけど外見は可愛いしな。


「クリシスいる~?」


 あ、やっべ。開店してるの忘れてた……

 お客さんの視線が冷たいよぉ。


 少しすると、エリナさん(昨日案内してくれた店員さん)が血相を変えて俺の方にやってきた。


「マハト君!? その方はどうしたの?ボロボロじゃない!」


「あぁ、実はこいつと喧嘩しちゃって。意識失ってるのでとりあえずここに来ました」


「とりあえずで営業中の店に人を搬送しないで!」


 おっしゃる通りすぎる。


「おい、どうしたんだ?あんた」


 クリシスが裏から登場した。よし、こいつがいれば多分何とかなるはずだ……


「実は、こいつと喧嘩したんだよ。そんでぶっ倒れたから来た」


「いや来んなよ」


 あれ、おかしいな。俺の想定ではここでクリシスのお節介が発動して俺たちは事なきを得るはずなのだが。


 いや、まだ諦める時じゃない。強引に頼みこもう。


「そこをなんとか! こいつの手当をしてやってくれ!」


「あんた……はぁ、仕方ねえなぁ」


 ほらやっぱり。クリシスはこういう奴だ。


「治療費は貰うぜ」


 こういう奴ではないらしい。



 〇



 クリシスが治療を行っている間、俺はある事について考えていた。


 ウーデンの魂転は何だったのか。俺はその答えを全く出せずにいる。


 一つは、右腕を刃物に変える能力。


 もう一つは、俺を反転させ吹き飛ばした能力。


 思えば、あいつは妙な技ばかりを使ってきた。そしてその一つ一つがバラバラな能力で、一貫性のないものだったように思える。


 うーん、どうしたものか。このモヤモヤを早く消し去りたい。


 あ、そうだ。今ならウーデンも気を失ってるし、クリシスにお願いして『超鑑定』で答え合わせと行こうじゃないか。


「なぁクリシス、そいつの魂転は何なんだ?」


「おいあんた、人の個人情報をそんなに軽々しく教えられる訳ないだろ?

 全く最近のガキはデリカシーがなくて困るね」


 なるほど……確かに言われてみれば魂転は個人情報になり得る。

 それぞれに違う魂転があるってことは、魂転でそいつが誰なのか分かるって見方も出来るからな。


 クリシスを頼れないとなると、もうこれは本人に直接聞き出すしかないな。起きるのを待とう。



 〇



「マハト! おはよー!」


「おう、おはよう」


 ウーデンが数時間してやっと起きた。


 さっきまで殺し合いレベルの真剣勝負してたってのにこいつは呑気だな。


白髪はくはつの坊主も起きたことだし、。オレは店の仕事に戻るぜ」


「助けてくれてありがとな、クリシス」


 さて、邪魔なハゲもいなくなったことだし、ウーデンからしっかりと答えを聞き出そう。

 何度考えてもわかんなくて、もうイライラしてきてるんだ。


「ウーデン、お前の魂転を教えてくれ」


「え、ヤダ」


 あまりにも即答の拒否、俺でなきゃ諦めてるね。


「そこをなんとか頼む!もうお前の魂転が分からなくて頭おかしくなりそうなんだよ!」


「うるさいなぁ! もう……仕方ないから教えてあげるよ。」


 ほーら、俺の手にかかればこの程度、楽勝なんだよな。


「ただ、ひとつ約束して欲しい。」


 おいこいつもかよ。


「……何だ?約束って」


「ボクの親友になってよ、マハト」


 親友、か。俺は親友に関連するトラウマがある訳だが、あれがあってから俺は人間関係に対する考え方を少し改めたんだ。


 前世の頃からの事だが、俺と関われば関わるほど、その相手は俺の本性に嫌気がさして最後には居なくなる。その繰り返しだった。

 そして最期には、翔とも絶縁という形になってしまった。


 だから、もう俺には親友なんていらないんだ。上辺の俺だけを見て欲しい。深い所まで突っ込んで来られるのは迷惑だ。


「それは無理だ。」


「え、なんで!」


「俺は、人と深く関わりたくない」


「何を言い出すかと思えば。マハトさては、コミュ障だね?」


「は? そういうことじゃ──」


「いいのいいの。それじゃこれからボク達は親友。そして親友の証として、ボクのことはウディって呼んでくれよ」


 なんだ、なんなんだこいつは。強引にも程があるだろう。

 あーもうめんどくせぇ。適当に親友のふりして自然消滅するか……


「分かったよ。仕方ねえなぁ」


「はいはい。それじゃ教えてあげるね、ボクの魂転を」


「よっしゃ!」


「ボクの魂転は、『無』だ」


「『無』? 名前が漠然としすぎてて、能力の内容を想像出来ないな」


「ごめんごめん、詳しい説明をするよ。

『無』は、何かが”無い”ことでその存在を成立させているものを操る能力だ。

 ボクがさっき使ったやつで言えば、右腕を鉄剣に変形させたやつがあったね。あれとかも、無機物を操る能力なんだよ」


「なるほど……となると、俺を反転させた能力は『無重力』ってことか?」


「お! よく分かったね。そう。重力の存在しない空間を作ったから、君を容易く吹き飛ばせたんだよ。」


「ありがとう、ウディ。全部スッキリした。これで今日の夜もぐっすり眠れるわ」


 ……というか、今の会話でもわかる通りこの世界の科学が思ったより進んでるせいで、俺の前世のYorTubeで得た知識が行かせなさそうなんだよなぁ。



 〇



 俺はあの後ウディと別れ、『ブランチ』を後にし家に帰宅した。


「ただいま帰りました!」


「おかえり~」


「お、帰ってきたかマハト。今日は何してたんだ?」


 今日はフィークスもいるのか。てか、昨日はなんでいなかったんだ?

 まぁ前もそうだったし、どっか遊び歩いてたのかな。


「今日は親友を作ってきました。ウディっていう同い年くらいの奴なんですよ」


「ほ、本当かマハト! 良かった、本当に良かった。私もうこの先お前に友達は出来ないんじゃないって心配だったんだよぉ!」


 父親の号泣は見るに堪えないな。少し目を閉じよう。


「それで、そのウディって子とはどうやって知り合ったんだ?」


 彼女との馴れ初めを聞き出すだるい友達みたいなノリはやめろ、フィークス。


「えっと、実は初対面で喧嘩しまして、その後和解して親友になったんです」


 すると、ダローガがいきなり泣き止んだ。


「マハト、お前喧嘩したのか!? それで……無事だったのか?」


「ええ、大丈夫ですよ。なんか知らないけど勝ちました。」


「流石俺の弟だな。」


「いやフィークス、とはいえ魂転も魔法も無しに勝つなんて奇跡も同然じゃないか?」


 フィークスは確かにそうだ、と言わんばかりに強く頷く。


「いやそれが、一瞬世界がゆっくりに見えたんですよ」


「そんな事が……いや、火事場の馬鹿力って奴かもしれんな。

 待て、今料理中なのを完全に忘れていた!マハトとフィークスは自室で待機!頼んだぞ!」


「「分かりました、父上」」


 慌て方おもろ。ダローガの新しい一面を見れた気がしたな。



 〇



 自室に戻ると、一気に力が抜けた。勿論ベッドに直行だ。


(あぁ、疲れた)


 昨日今日と、『ブランチ』に通うようになってからは事件続きだな。こんな生活が続けば、俺はそろそろぶっ倒れてしまうだろう。どうにかして心の安らぎを確保せねば。


 それよりも、最も大きな問題が今俺の中に一つあることを忘れてはいけない。


 そう、俺に親友が出来た。

 普通なら、喜ばしいことなのだろう。しかし、さっきも言った通り、俺には特別な事情があった。

 これからウディと接していく中で、俺はどれくらい素の自分を見せればいいのだろうか。見せなさすぎるとそれはそれで親友とは言えなくなってしまう。

 丁度いいラインを見つけたいが、それをするには、ウディと関わる中で見つける他に方法が無かった。


 親友……やはり俺には荷が重いのだろうか?


 最終手段として自然消滅も考えてはいるが、同郷というあまりにも逃げ場の無い共通点があるせいで、それの難しさは半端じゃないだろう。


 こういう時、誰か頼れる人はいないのか?


 うーん、友達が多そうな人……


 あ、そうだ。フィークスに聞くのはありなんじゃないか?だって多分友達多いだろ。あいつよく遊び歩いてるし。



 〇



「すみません、兄さん。聞きたいことがあるのですが。」


「どうしたマハト。かしこまっちまってよ。」


「それがですね、親友が出来たのはいいんですけど、俺、親友に対する抵抗があって、自分をさらけ出すのが怖いんです。」


 そう言うと、フィークスは爆笑して膝から崩れ落ちた。


「なんだよそれ、なっさけねえなぁ!

 そんなしょうもない悩み抱えてたなんて、全く可愛い奴だぜマハトは!」フィークスは涙ぐんでいる。


(こいつ殺してやろうか……)


「まあそんな顔すんなって。

 いいだろう! この国でフィークス以上の社交性を持つ奴はいないって言われるほど、俺は人間関係を上手くやってきてる。俺に任しとけばそういうのは大体大丈夫だぜ?」


 自分で言うかよ。本当に社交性があるのか疑わしいレベルだ。


「それで、俺はどうすればいいんですか?」


「そうだなぁ。まず、性癖を聞け。」


「え、何て?」


「性癖だ。女の好みさえ分かれば大体上手くいく。以上!」


 俺は部屋を追い出された。


(え、今ので終わり?)


 最悪だ。フィークス以外に俺が頼れる人といえば、ダローガとクリシスくらいだ。

 ダローガは真面目タイプだからあんま期待できないし、クリシスは狂人だ。俺にはもう取れる策がない。正直言って詰みだ。


「くそがァァ!」


 俺の悲痛な叫びは、またしても虚空に消えていった。


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