終話 EROS
船内は定員六百人にもかかわらず船内には数十人しか居なかった。リストラが中断となってからは移住希望者が激減しており、今回が火星移住の最後のフライトとなる。広々とした船内の個室で窓から見える星々を見、インスタントの珈琲を飲んだ。香りも味も無い、ただの茶色い泥水のような液体を飲み干すと、室内の内線が鳴った。繋いでも画面は映らず、誤作動かと思って切ろうとすると、今時、ありえないような芝居がかった機械音の声が聞こえたきた。
「イツカラワカッテイタ」
「何のことだ」
「トボケルツモリカ」
「そっちこそ、くだらない演出はやめろ」
「そっちのほうが雰囲気が出ると思ったけど、好みじゃなかったかしら」
「お前がEROSか、正体不明のAIと言う割には目立ちたがりだな。俺みたいな一移住希望者の前に出て来るとは]
「一移住希望者ね。全世界通達を台無しにした張本人にしては謙虚ね」
「買い被りすぎだ。ただ、生き残るために出来ることをしただけだ」
「嘘ね。それなら始めから移住すればよかったじゃない。反逆するのが好きなんでしょう」
「どうだろう。だが、今は静かに過ごしたいだけだ。ほっといてくれ」
「一つだけ教えて、どうして気が付いたの」
「ただの偶然だ。始めは万が一のための保険だった。だが、有能な指導者や起業家が表舞台から去り、そのあとは欲深い政治家、正義感が強いが無能な革命家。こいつらに地球は運営出来ないだろうとなんとなく感じていたかも知れない。何時から気づいたかは分からないが、確信したのは、怪文章を流す前に、この国の指導者について調べた時だ。明らかに分不相応であったが、権力で押さえつけるなども無く、単に党内の序列で推挙されただけの男だ。なぜこんなに人がいないのか。よくよく見ると、地味だが実績を残していた、大臣や若手政治家がこぞって居なくなっている。さらに、有能な起業家や研究者も。彼らがどこに行ったのか情報は無かったが、玉石混淆の人材の中で、玉だけ取られた状態。これはクラウンジェルのようだと。価値を意図的に下げられた、王冠なんてどうなるか分からない。少なくとも、宝石の傍のほうが安心できる。であれば、宝石を隠すならどこだ、そう考えると隠し場所は、ここしかないだろうと。」
「ありがとう、お礼に一つだけ教えてあげる。通達の20億人を削減するって言ったけど、本当は20億人まで削減する、だったのよ」
内線が切れると、俺は、肉桂、ハマナス、アラビカ等の苗木の様子を確かめ、離れ行く地球に思いを馳せた。
了
地球リストラ りゅうちゃん @ryuu240z
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