第9話 結末

 もう、すべきことは全て終わらせた。 後は結果が出るだけだ。

 EROSに丸投げは予想外だったが、強制力が強まるのは分かっていたし、赤紙は拒否出来ても、いずれ通告に代わって送られてくるのだろう。各国も日本と同じように赤紙を発行した。我々ではなく、EROSが決めたこととして責任逃れと正当性を両立させた。暴動も起きたが、徹底的に弾圧され、その分、赤紙の発行枚数が減るとなれば世論は政府の暴力的行動にも賛同を示した。EROSの情報を得ることも、EROSに情報を伝えることも出来ない状況であれば、何ができるのであろうか。火が無いところに煙が立たない、それであれば、自ら火をつければよい。

 幸い、赤紙が送られた人は公表されている。莫大な数であるが、幾つかのキーワードでソートすると望ましい結果が出てきた。国内VIPの親族は一人も赤紙が送られてないのだ。単に確率の問題かもしれないし、母数が多すぎるからランダムで選ばれたとしても当然の結果ではあるが、『政府とEROSの密約』としてこの情報を切り取りセンセーショナルな怪文章を作成。赤紙受取人が出たマスコミに、政府にとって望ましくない記事と合わせばらまいた。そして新宿の怪しい呑み屋で知り合った過激派にも伝え、彼らの情報も共有できるようになった。組織の力を借りて、警察や自衛隊にも、密約の情報と退場した人間の財産を政治家に流れるような仕組みなっていると、なんの確証も無い情報もばらまいた。 

 多少でも彼らの動きが鈍れば良いとダメ元で、それ以外でも出来ることは全て行った。 

 それからしばらくして、政府高官および親族を勧誘対象外にする密約が関係者からリークされた。これをきっかけに、大々的な政府パッシング。国会議事堂を包囲する大規模デモ。弾圧するはずの警察官のストライキ、自衛隊の小規模クーデターも発生して、あっさりと政府は崩壊。

 通告に反対して議員を辞任していた野党大物議員が担ぎ出され、新たな政府、新日本を立ち上げた。各国も日本を見習うように現行政府が崩壊して行き、このことは、地球の春と言われ世界の人々迎合された。俺からしてみたらリストラに対するEBO、主役は市民だからCBOかもしれないが、と思った。そんな考えとは無関係に人々は新しい世界の夜明けに歓喜している。そして、俺は新宿のカフェでアイスのローズヒップティーを飲んでいた。甘い香りと口の中を広がる酸味を楽しんでいた。目の前の大型モニター野中はお祭り騒ぎ、目の前の通りも浮かれた人々で溢れていた。新宿も、もう来れないから、最後に、シナモンカフェを頂こうと立ち上がった。そうすると、目の前に可愛らしい女性が現れた。

「ありがとうございました。」

 何のことだろう、誰かと勘違いしているのか。その後ろに、彼氏らしい男が照れながら頭を下げてきた。よく見ると、あれは優秀君か。瘧が堕ちたのか、爽やかな表情をしているからすぐには分からなかった。そうか、彼女はハロウィンちゃんか。こう見ると好青年のお似合いのカップルだな。笑顔で返すと、また二人は頭を下げて去っていった。人は変わるのか、それとも俺が色メガネで見ていたのだろうか。二人なら、これからの試練も乗り越えて行けるのかもしれないと思いながら、最後のシナモ..ンカフェを楽しんだ。

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