最終話

 帰り道、途中でコンビニにより、傘を買い駅に向かう。


「咲、三日間も鯉のぼりを見ていたのか?」


「うん。正確に言うと、日曜日も入れて四日間」


「何を考えていた」


「なんだろう。何も考えずに、ずっと眺めていたかった」


「そうなのか」


「携帯の電源も落としていたの」


「だから、携帯が繋がらなかったのか」


「ごめん。周りの人に迷惑かけちゃった」


「大丈夫だよ。次の日でも、しっかり友達に謝ってね」


「うん」


「咲の友達から、伝言を預かっているぞ」


「伝言?」


「茶髪でショーヘアの女性から、『私達にも返信して』って頼まれた」


 名前を聞くの、忘れていた。


「るかだ。りさは、なんか言っていた?」


「丸眼鏡をかけた女性のことか?」


「うん」


「るかのお願いに、『よろしくお願いします』って言っていたよ」


「そっか。二人に心配かけちゃった」


「大丈夫。怒っている訳では、なさそうだったよ」


「急いで、連絡しないと」


「うん。その方が良い」


 そう話しているうちに、駅に辿り着く。


 その後、電車に乗ることが、できて無事に帰ることができた。



「光。こっちに来て!」


 咲が、音信不通になり、見つけた日から一週間が経った。次の日から咲は、無事に大学に来ていた。元気になった咲から、『本物の鯉が見たい』と言われて、鯉が泳いでいる池がある公園まで来た。


「すごい数の鯉だ」


 少なくても二十匹以上はいるぞ。


「餌、一袋百円って、書いてあるよ」


「よし、やってみるか」


 咲と餌が入った袋を二つ買う。


「鯉さん、餌あげるよ」


 咲が、鯉に向かって餌を投げると、すごい勢いで餌に食いついた。


「すごい鯉、お腹すかしているな」


「光も餌あげてみて。すごい、やりがいあるよ」


「わかった」


 俺も餌をあげてみると、鯉は、すごい勢いで餌に食らいついた。


「すごいね」


 咲と俺は、餌袋が無くなるまで、餌を鯉にあげつづけた。


 満足した俺と咲は、鯉が泳いでいるのを眺めていた。


「鯉が見られて、餌もあげられて、私幸せ」


「満足したなら、なによりだ」


 咲は、満足そうな顔をしながら、鯉を眺めている。


「ねぇ、光」


「なんだ?」


「私、手を繋ぐこと、平気になったよね」


「平気になっているな」


「次の段階に進も?」


「次の段階?」


 咲は、俺の前に立つ。


「私を抱きしめて」


 咲は両手を広げた。


「咲。さすがに、抱きしめることは、リハビリ関係だからって、やっていいことなのか?」


「いいよ。リハビリのためだから」


 咲の表情は真剣だった。


「わかった」


 さらに、咲の元へと近づく。


「咲、準備はいいか?」


「うん」


 自分の中で決心をつけ、咲の背中に腕を回して抱きしめようとする。


「や」


「や?」


「やっぱ、だめー!」


 何週間ぶりに、咲のビンタが俺の頬を叩いた。前より、威力が高い。


「ご、ごめん。光」


「大丈夫だ」


 まだ、俺の体はもっている。


「私、手を繋げるようになったからって、慢心していたみたい」


「また、前にみたいに、ゆっくり慣らしていこう」


「うん」


「頑張ろうな」


「私、トラウマを克服するために、頑張るよ!」


 咲と俺のリハビリ関係は、もうしばらく続きそうだ。

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元カノに浮気された俺と元カレに暴力受けていた彼女 るい @ikurasyake

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