休日の大学

「遅いな」


 外に出てから、十分が経とうとしている。コンビニの中、人は少なかったし、並ぶと言っても、ほんの数分のはずだ。


「咲の様子、見て来るか」


 コンビニの中に戻って、咲を探す事にしよう。ドリンクコーナーは、あっちにあったよな。


「咲の知り合いか?」


 ドリンクコーナーの近くにいる咲を見つけたが、数人の男子大学生に囲まれている。何か、話しているみたいだな。近づいてみると、話し声が聞こえてくる。


「ねぇ、ねぇ君、可愛いね。一年生?」


「は、はい」


「休日に大学来ているなんて、偉いねぇ。何しに来たの?」


「課題をやりに」


「先輩達が教えてあげようか? 部室防音だから、集中できるよぉ」


「す、すみません。私、人を待たせているんで」


「その人は俺達がなんとかするから、お兄さん達と課題勉強しよう?」


 変な奴に絡まれているな。男子学生が壁になって、咲の表情は見えないが困っているようだ。てか、何で、コンビニで女子をナンパしているんだ。大学生活に浮かれすぎだろ。


「咲。遅いぞ」


「あ、光」


 咲の表情がようやく見えた。少し泣きそうな顔になっている。さすがに、このままにしとく訳には、いかない。


「俺の連れなんで、離れてもらっていいですか?」


「ちっ、彼氏がいるのかよ」


「思わせぶりな行動は良くねぇよ」


 咲を囲んでいた男子学生は、愚痴を言うと道を開ける。


「ごめん、ありがとう」


「早く、この場所から離れよう」


 咲の会計を済ませて、すぐにコンビニを出る。


「大丈夫か?」


「うん、ありがとう」


「何があった?」


「飲み物を買おうとしたら、あの男達が先に並んでいたの。それで、待っていたら、『自分達、選ぶの時間かかるんで先どうぞ』って場所を譲ってくれたのだけど」


「それが、罠だったのか」


「うん、気づいたら囲まれていた」


 ろくでもない事をする男がいるもんだな。


「気分転換に歩いて、落ち着いたら食堂に戻ろう」


「うん、そうする」


 しばらく、咲と大学構内を歩くことにした。



 雑談しながら、大学構内を歩いている内に咲は、いつもの調子を取り戻していた。


「多分、夕方前までには、咲のレポートが終わるかな」


「あと、もうちょいだね」


 いつも見せる咲の笑顔だ。気分も回復したように見える。


「そろそろ。食堂に戻って昼食にするか」


「うん、戻ろう。お腹ぺこぺこだよ」


 食堂に戻り、自分達が座っていた席に座る。


「いただきまーす。お腹すいたー」


「いただきます」


 昼食を取り始める。いつもの調子に戻って良かった。


「元気になって良かった」


「光のおかげだよ。助けてくれて、ありがとね」


 咲は、笑顔でお礼を言った。そういえば、女子とこういう風に食事をとるのも久しぶりだな。高校生の時以来か。咲と雑談をしながら、食事をする。大学内でいつも一緒にいる友達の事や、大学の講義する教授についてなど。大学生活で新たに経験した事を話し合った。


「ねぇ、光?」


「ん?」


「もし良かったらなんだけど、前話してくれなかった事とか話せる?」


 食事をしていた手が止まる。それは、恐らく入学して数日ぐらい経った時に、聞かれた事だ。


『何か闇を抱えてそうな感じがするから、気になっている』


 聞いているのは、この事についてだろう。これを話すという事は、俺の元カノの事を話す事である。俺が、トラウマになっている出来事。


「どうしても、聞きたいのか?」


「うん。光が、何を抱えて生きているかを知りたい。もし、話してくれたら私の過去についても話す」


 咲の過去。それは、間違いなく、この前あった出来事に関係することだ。何かが、きっかけになって、異常な程、怯えていた咲の姿が鮮明に覚えている。それと、怒りについて必要以上に怖がっているのも気になる。俺も知りたい気持ちはある。


「帰る時まで考えさせて」


 今結論を出すのが、難しかった。自分のトラウマを人に言う、これは本音を言うよりも難しい。


「わかった」


 咲は、了承してくれた。レポートが終わるまでに、咲に話すかどうかを考えなければならない。本当は、記憶の奥底にしまい込んで、誰にも話さなかったはずの秘密。咲にレポートを教えながら、どうするかを考え続けた。

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