第二章

休日の約束

 咲に手を弾かれた次の日、大学内で咲と目が合うと、目をらすようになった。


「気にしているのかな。昨日の夜にした、メッセージのやり取りで、終わった事だと思ったけど」


 確かに、驚いたけど傷つくとかは、しなかった。なんなら、声をかけてから肩を叩けば良かったと反省している。


『昨日の事を気にしているのか?』


『気にしていないよ。ただ光の顔を見ると、罪悪感を覚える』


『それを気にしているって言うんだ。怒ってもないし、嫌いになってもない。安心してくれ』


『ありがとう』


 今の俺では、ここまでがフォローできる限界だ。人の過去に、土足で踏み抜く真似はしたくない。なんなら、それで、さらに傷つけてしまうかもしれない。


 いつものように進と昼飯を食べて、午後の講義が始まる講義室で、先に席をとる。


「次の講義の資料、前に置いてあるから、来た人から取るみたいだぞ」


 進が、指さす方を見ると、講義の資料が最前列にある机の上に置かれていた。


「俺が、進の分も取っておくよ」


「お、まじで? 助かる!」


「来週は、進が取りに行く番だからな」


「おけ、任せろ!」


 進にそう告げると、資料を取りに最前列の席に向かう。


「あ、光」


 後ろから名前を呼ばれた気がする。振り向いてみると、俺の後ろに咲が並んで、こっちを見ている。表情に迷いがあるのを感じる。いつものように、接したら良いのか、迷っているのか?


「昨日メッセージでも送ったが、昨日の事は気にしてないからな」


「本当?」


 どうやら、昨日のメッセージだけじゃ信用しきれなかったらしい。


「あぁ、本当だ」


「そう……」


 どうやら、まだ信じきれてないらしい。咲は、深く悩み過ぎる癖があるかもしれない。


「俺は、怒る時はちゃんと怒るし。嫌な事はちゃんと嫌と言う。だから、不安になるな」


「今は、怒ってない?」


「あぁ、怒ってない」


 それを聞いて咲の顔は、明るくなった。


「わかった。光の事を信じるね」


「そうだと、助かる」


 咲は、いつも通りに接してくれるようになった。そして、普段通りのやり取りをする大学生活の日々を過ごした。



 また、遠藤教授からレポート課題が出された。先週よりも、量が多い気がする。


「さっさと終わらせるか」


 家に帰宅し、寝るだけにして、レポート課題に手を付ける。これ、今日には、終わらないな。明日と二日間に分けるか。


『助けて』


 課題の問題を解いていた所で、咲から連絡が来る。先週も似たようなメッセージが来たな。


『レポートか?』


『うん』


『どの辺が、わからないんだ?』


『一通りかな。解いているんだけど、自分の答えに自信が持てない』


『そうか、今回の課題量が多いから、放課後の時間だけだと厳しいかも。二日に分ける事になると思うけど、良い?』


『やるなら、一気にやりたいから、休日を使おう! 土日どっちか空いている?』


『両方空いているよ』


『土曜日に集まって、課題をやろう』


『土曜日ね、了解。どこに集まる?』


『んー、特に候補思いつかないし、この前みたいに大学の食堂に集まろ』


『いいよ』


『土曜日、大学の食堂でよろしく。時間は、追々決めて行こう』


『はーい』


 土曜日まで、まだ四日ある。余裕あるな。しっかり、解いて教えられるようになっとこう。


 咲との連絡を終えると、再び課題に取り組む。そういえば、休日に人と会うのも久しぶりな気がする。高校卒業してからは、家に引きこもっていて友達の誘いも断っていた。大学生になってからも、休日で人と遊ぶことはしていない。


「何か楽しみだな」


 以前では感じられなかった楽しみという感覚。前より、立ち直れているかもしれない。



 休日の大学は、平日とは違い、静寂に包まれていた。


「いつも一限目が始まる前、賑わっているのに静かだ。こんな静かな大学、新鮮だな」


 いつも、バス待ちの大学生の話し声で賑わうバス停前も、標識が静かに立っているだけだった。大学構内も、人通りが少なく、自分が大学を独占している気分を味わえた。


「まだ、咲は来ていないみたいだな」


 食堂に入ってみるが、咲の姿は見当たらない。食堂は、閉まっており人の姿も見当たらない。この広い建物の中で、俺しかいないのか。無人の食堂で、適当な場所を探して、座る。


「お待たせー!」


 メッセージを送ろうとした所で、咲が食堂に来た。


「おはよう。ちょうど、メッセージを送ろうとしていたとこだ」


「おはよう。そうなんだ、今来た感じ?」


「今来たばっかりだ」


「間に合って良かった。休日に初めて大学来たけど、こんなに静かなんだね」


「俺もびっくりした。こんなに静かだとは思わなかった」


「もしかしたら、騒がしくなるかもしれないし、今の内にレポートやっちゃお」


「そうだな」


 咲にレポート課題の内容を教え始める。所々、自分で解いている問題もある。間違ってない所は、補足で説明するだけにしとく。


「ねぇ、光」


 レポートのきりが良くなった時、咲が話しかけて来た。


「何だ?」


「サークルとか入らないの?」


 サークル、高校でいう部活みたいなものだと聞いている。


「特に入らないかな。どうしたの?」


「今日休日でしょ。大学に来ている人サークル関係がほとんどだから、それを見たら光は、サークル入るのかなって」


「なるほど。咲は、サークル入る予定あるの?」


「今の所はないかな。入らなくても、大学生活楽しいし」


「無理に入る必要もないからな。課題の続きやるか」


「うん」


 少し脱線してしまったが、再び課題に戻る。


 課題の半分以上を解いた時には、時間が昼を指していた。お腹すいて来たな。


「お腹すいたね」


 咲もお腹すいたようだ。


「お昼にするか」


「そうしよう!」


 咲は笑顔になる。そんなに、昼食が楽しみだったのか。


「コンビニで、お昼買うけど、咲は何か持ってきたか?」


「私も、コンビニで、お昼を買う事にする。一緒に行こう」


 課題を切り上げて、昼食をとることにする。咲と一緒にコンビニ向かう。


「光は、お米派? パン派?」


「俺は、米かな。咲は?」


「私は、パンかな。いろんな味のジャムが塗るのが、好きなんだよね」


「手軽に味替えできる所がいいね」


「光は、ご飯に何かかけるの?」


「俺は、ふりかけかな。最近は、卵ふりかけをかけている」


「私も一時期、卵ふりかけにはまっていた。美味しいよね」


 そんな会話をしているとコンビニ辿り着く、コンビニは休日でもやっているみたいで、学生は少なかったが開いていた。


「おにぎりでも食べるか」


「私は、カレーパンにした」


 それと、何か勉強しながらつまめる、お菓子がほしいな。おにぎりの他に、何個かお菓子を取っておく。


「俺は買うけど、咲は買い物続けるか?」


「私、飲み物無くなったから買って来る。先に会計して、外で待っていて」


「わかった。外で待っている」


 会計を済ませて、外で待つ事にする。

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