極彩色の景色

彼の姿とその周囲の景色は今でもハッキリとまるで写真のように思い出せる。

それはまるで極彩色の映像のように、目に痛いくらいの鮮やかな色彩だった。

何て綺麗・・・

この景色をもう一度、いや何度でも見たいと思った。

彼となら。

彼なら私を救い出してくれる。

そのためなら、私の身も心も全て差し出したっていい。

彼は恐らく30代後半だろう。

そんな大人がこんな28歳の女に何度も頭を下げて、クリーニング代まで出してくれた。

なんて心の美しい人。

私はそのお金を快く受け取った。

クリーニングに使うためではない。

そして、彼の「お詫びをさせて欲しい」と言う言葉に甘えて、家まで送って欲しいと言ったところ、すぐに車に乗せてくれた。

そして、帰り道で私は喉が乾いたと話しコンビニに寄ってもらった。

「すいません。せっかく寄ってもらったのにこの服じゃ・・・」

「そうだよね。大丈夫だよ。僕が買ってくるから」

そう言って彼は車に私を残してコンビニに入った。

私は彼が店の奥に行ったのを確認するとすぐにダッシュボードの物入れを開け、中にある車検証を広げた。

そして、書かれてある車台番号と車のナンバーを頭に刻み込んだ。

これで、あの人との赤い糸が繋がった。

私は胸がドキドキするのを感じながら、車検証を再び仕舞い何食わぬ顔で携帯を見た。

戻ってきた彼は、そんな事もつゆ知らずそれからも何度も謝りながら私を家まで送ってくれた。

またね、愛しいあなた。

それから家に帰ると着替えもそこそこにネットで近くの運輸支局を調べ、数日後仮病で職場を休んで、いそいそと向かった後車の登録事項証明書を交付してもらった。

これで彼の住所を手に入れた。

その紙は私にとってキラキラと輝きを放っているように見えた。


それから私は彼の自宅に仕事帰りに寄るのが日課になった。

給料はとても安く、日々の生活で一杯一杯だったため、彼からもらったクリーニング代を花を買う資金に充てた。

偶然通りかかったフリをした私に彼は最初は驚いて、笑顔を向けてくれた。

それだけで私は有頂天だった。

しかもあろうことか「ご縁があるんだね」と冗談めかして言ってくれた。

私があの日のお礼として渡した花も快く受け取ってくれた。

録音していたそのやり取りの部分は今でも編集して毎日聞き返している。

それから毎日、仕事帰りに彼のアパートの近くに行き、彼の顔を見るようにした。

それなのに。

半月もすると彼の私を見る顔から笑顔が消えた。

代わりに不安げな様子が見えるようになる。

何で?

こんなに必死になってあなたとのご縁を育てようとしてるのに?

その理由はすぐに分かった。

彼の妹、美空。

職場から帰ってきたあの女が、最初に私に対して怯えたような顔を向けたのだ。

それからだ。彼から笑顔が消えた。

そう。

アイツが彼、一樹さんから私を引き離したんだ。

妹だから彼と恋人にはなれない。

だから、その可能性がある私に嫉妬したんだ。

畜生。

そして、ある日の夕方。

彼が引っ越したのを知った。

アパートの窓から中を覗いたらもぬけの殻になっていたから。

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