3.human allergie

 小学生の頃。学費を払いきれないかもしれないから、少しだけ一緒に出して欲しいと父親に頼んだ兄が『そんなもんお前が自分で払え‼︎』と目の前で痛め付けられるのを見た。


「…お前もやぞ。覚えとけ…」


 と、近くに居た僕も殴られたのは何故なのだろうか。

 このように頼ることの出来る人間が周りに居ない中、中学生に上がった僕は副業を覚えた。

 同年代の子たちが楽しそうに遊んでいる中、その子たちと同じであれるように、人らしくあれるように、必死に稼ぎ始めた。それからだろうか、『金を貸せ』と言われることが増え、金額が増していったのは。当然返されることの無いものであったが、過去の経験から学習した僕は、自分の身を守る為に大人しく従うようになっていた。

 悔しくて仕方が無かったが、様々なことで我慢してばかりだった。

 皮肉にも周囲には『金持ち』と呼ばれるような子たちが多く、そんな差が苦しかった。当然、その様な子たちに自分の苦痛を吐き出しても理解されることは一切無く、むしろ自分の環境が異端だと扱われ、笑われた。

 次第に人が苦手になっていた。苦痛を隠し、他人に合わせる日々の中で自分を見失うようになっていた。何が楽しいのか分からない、何がしたいのか分からない。笑顔を浮かべて会話をしている間も、心の奥には冷めた自分が常に居た。


——それでもただただ生き続ける。


 いつになっても父親からの暴力や暴言が止むことは無く、傷は増え続けるだけだった。

 どうして自分だったのだろう、どうして自分は自分で、自分の心は此処にあるのだろう、どうして自分の視界は此処に広がるのだろう。そんな無意味なことばかりを考えていた。

 毎晩耳を塞いで布団に潜って涙を浮かべる。下の階から聞こえる僕に対する暴言に、出来損ないを自覚する。


「こんな場所、産まれたくなかった…っ」


 近付く足音に怯える日々。いつ傷つけられるか分からない日々を繰り返し、今では父親が近付くだけで息が止まるようになってしまった程だ。

 『三つ子の魂百まで』という言葉があるように、自分はもう既に洗脳されてしまったという様な感覚だった。

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