第13話「手練手管」
その日の朝方にもたらされた急報は、ここ数日、
犯罪者と犯罪被害者の現在位置を特定──
彼らは大胆不敵にも、この王都のど真ん中に飛び込んでくるという。
このような緊急的事案に対して、城に詰めていた主だった正騎士や
会議は始まりこそ
何故なら正義の名の
……双方の考え、騎士たちの掲げる理想や信念と魔術師が追及する合理的な思想や信条は根本的に相性が悪い。
今回も例に漏れず、少女一人の命に重きを置く騎士らの鼻息は荒かった。
その一方、魔術師や賢者の一部はそれらの発言を口先だけ、或いは目先だけの
結局、双方ともに歩み寄りはなく、結論は出ないままだ。
いたずらに時間だけが過ぎていく──
この会議には容赦のない時間制限があるというのに、だ。
言動こそご立派だが、誰も責任は取りたがらない。出席者の保身的な考えが
当然、その意図に薄々と気付く者、利口ぶりながら見抜く者もいたが、彼らだって口を
時間いっぱいとなれば、必ず誰かが決断を下す。言ってしまえば彼らはその誰かが責任を取る姿に立ち会おうというだけの単なるぼんくらである。
……ギアリングの宮廷魔術師ノーラ=バストンは眼前で繰り広げられている茶番に対して盛大にため息をつきたい気分だった。時間の無駄、今この時はまさしく時間の無駄であるが、
「……発言しても、よろしいですか?」
議長を務める騎士爵に対し、ノーラは発言の許可を求める。
騒がしかった室内が、彼女の一声で我に返り、途端に静まり返っていく。
静粛な会議上でノーラはまず被害者の師という立場で私見を述べ、騎士団に謝意を示した。それから宮廷魔術師として、現実的な話を繰り出していく。
──その上で決断を下した。
彼女の
……茶番は終わったのだ。
*
──それから、
そんなことは
しかし、王都に長居するつもりは毛頭なく、再度、転送の魔法陣で移動するつもりらしい。その足で
彼らが利用しようとしている魔道駅はギアリング国内、最東端にある場所と転送の魔法陣で繋がっている。現在はその駅の前、予約の手続きを済ませて所定の駐車場に馬車を停車させ、駅員の呼び出しがあるまで待っているところだ。
王都から下る事になる魔道駅は必然的に利用客も少なく、上りと違って人数調整も最低限で済む。何事も無ければ予定通り──予約から1時間後くらいには、滞りなく転送されるだろう。
時間的にも昼食をとるにはちょうどいい……むしろ、少し遅いくらいだろうか。
商人に
「……へっ、みんな断っちまいやがんの。メシも喉を通らないってか? お前さんはどうするね?」
男は再び自分が担当する馬車に戻り、御者台に座る付き人を見上げながら、
「まぁ、仕方ないでしょうね。所詮は借金の肩代わりに
「よせよ、それじゃ俺たちがまるでこれからどうにかなっちまうみたいじゃねぇか。
男はそう言って、明るく笑って返した。
ここで捕まれば彼の人生も終わりのはずだが──にも関わらず、何の緊張感もなく平静そのもので、彼から
大博打で勝負に出たが、男はあくまで勝つつもりでいるのだ。しかもおそらくは、自身の勝利を確信している。
「……無事に通り抜けられますかね」
ぽつり、と付き人を演じている男が
彼としても、こんなところで捕まってしまっては人生の終わりである。
それもそのまま見捨てられても仕方のない大失態だ、この男の運び屋としての勘や度胸は信用しているが、それでも絶対は無い。
「──その気があるなら、
幾分か声を
「(……我々は『白』だと思われている、と?)」
間髪入れずに聞き返してきたので男は
「どっちだっていいのさぁ、んなこたぁ!」
大きな声で驚かせると、尚も男は笑っていた。
「ど、どういう意味です……?」
「言葉通りだよ。お前さんも頭はいいんだから、考えたらすぐに分かるさ」
それで話は終わりだと言わんばかりに男は御者台から体ごと
「さて、今のうちに
「ああ……ですね」
男は羽織っている外套を後ろに払い退けると、財布代わりの皮袋をごそごそと上着の内側から取り出した。
防寒用に手袋をした手では縛った
「今日も野宿だから酒を買えないのが残念だな。禁酒二日目だぜ」
そう言って笑いかけた後、男は実に堂々とした足取りで商店へ向かって行く。
直前の謎かけもあって御者台の男は、その後ろ姿を
*****
<続く>
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