第2話「面接・2」

「ノーライトの暗躍者アサシン教団ギルドだって?」


 ジュリアスが思わず身を乗り出して、声を上げる。


「じゃ、何か? ノーライトの連中が犯人の素性を教えに来たとでもいうのか?」

「そのまさかです……翌2月1日、白昼堂々と暗躍者アサシンはやってきました……」


 ノーラではなく、代わりにティコが答えた。


「信じられんな……」


 ジュリアスはうめくように呟き、椅子の背もたれへ少し乱暴に体を預けた。

 そうして、両手を頭の後ろで組む。


「君の言わんとする事は分かる。百年以上前に休戦しようがユニオンとノーライトは今も尚、敵同士……加えて犯人の一団は以前から亜人を標的とし、ユニオンの前身は言わずと知れた『人類(亜人)連合軍』だ。ノーライトが裏から犯人側に手を貸す事はあっても、ユニオンに利することはしない。それくらいは推察できる」


「……ノーライトの自作自演じゃないのか?」


「或いは蜥蜴とかげの尻尾切り、かな。ユニオンが警告する以上、犯人一味が存在するのは間違いない。ノーライトにとって犯人が不必要になったか、存在が不都合か……」


「……早い話、売られたってことかな」

「私の見立てでは、ね」


 あくまでエリスン個人の推察であると、ジュリアスに断る。

 会話の終わりを待って、ティコは話を進めた。


「……我々はノーライトが寄越よこした手がかりを真実と推定して直ちに行動を開始しました。国の東と北には精鋭を派兵して、西側にはスフリンクに協力を要請して熟練の冒険者を派遣して貰うよう手配しました」


「……南は?」


海沿うみぞいの集落などに兵士を駐留させ、出港には制限をかけました。集落だけでなく周辺の警邏けいらも強化、人員も増員しています。また、通りかかった者には事情を話し、例外なく検査するよう通達を出しました」


「現状、打てる手は全て打ったって感じだな。問題があるとすれば初手以前の段階で警戒網けいかいもうく前に国外へ脱出されてる場合だが……それはもう考えてもしようのないことだな」


「もしも転移や転送の魔法を使われていたなら、ということか……?」


 ジュリアスの方を見ながら、エリスンが呟く。


「それでは流石に大掛おおがかりすぎるというか、一個の犯罪者集団にしては質があまりにも高すぎるな。連係だって取れすぎている。ならず者の集団ではなく大国の精鋭集団だよ。魔法までも十全に機能させる、というのは」


「転移の魔法は熟練した魔術師でないと安定して使用が出来ませんし、それは転移の魔石でも代用可能ですが魔法道具マジックアイテムだと使。転移の魔石でその機能劣化は致命的ですし、その上、魔石自体が非常に高価で……やはり、たけにあっていない装備という気がします」


「加えて、転移には効果範囲の問題がある。ざっくりと言えば持ち物制限があるって事だ。単独犯ならまだしも仲間がいたなら、まずそいつは置いてけぼりだ。被害者を抱えて仲間がしがみついてきちんと跳べるかどうか──機能劣化した転移の魔石で? 魔術師や本物の製作者が協力する、というのはだ。め者やならず者がやるような汚れ仕事に手を貸す道理が無いからな。ただ欲しいという理由なら、それこそ彼らは買う側だ。依頼や命令をするなんだから」


 頭で組んだ腕をほどきながら、ジュリアスが説明を補足する。


「……では、転送はどうだ?」


「まず魔道駅は除外していいだろう。日没以後は休眠するし、日の出から即起動するものでもない。さらに魔法陣は自動的に作動するときたもんだ。高度な技術と知識、魔力によって強制起動は出来るがあまりに危険すぎるし、それを想定するのは無理筋だ。というより、それをされていたら魔道駅の機能そのものがぶっ壊れているしな。既存のものは利用不可──となれば、後は自分達で転送の魔石を調達して転送魔法を使用する訳だが……」


「その仮定も無理筋でしょう。単独の転移より難易度は下がりますが、それでも一人は魔術師が要る。それに難易度が下がると一口にいっても魔法陣を整備している事が大前提です。それこそ大掛かりすぎます。効率的ではないし、効率的に運用しているとしたら、あまりにも洗練された犯罪組織です。ちまたで流れる風説がかすむくらいの」


「付け加えれば──仮にそんな組織があったとしてさ。最精鋭集団を作れる可能性があるのは西と南の大陸に、あとはデルタ島くらいなものか……極東列島は落第かな、規模が小さく最精鋭にはならないだろう。いで西の大陸も歴史的にユニオン連邦と敵対する理由がないので除外、デルタ島は禁断の洞窟※(湯水のように金貨等がく泉がある)由来の財力に物を言わせて最上の物資と人材を揃えるが、それだけに争いを起こす理由がない。金持ち喧嘩けんかせずとはよく言ったものでな。最後に南の大陸……最も隆盛している"楽園エデン"の国力ではどうか、という話だが──」


「間違いなく財力はあります。その一方、が焦点になりますね」


「必要不可欠な一流どころが金で動くかはいいところ半々だろうな。組織はあってもユニオンやノーライト級の精鋭集団は出来ないだろう。つまり、だ」


 ここでの不適格とはここまで話し合われてきたであるかということである。仮想敵の過小評価は危険だが、同様に過大評価も禁物だ。


「──と、いうことさ」

「……よく分かった」


 エリスンを見ながらジュリアスが言った。

 エリスンは椅子の背もたれに体を沈め──ひとつ、嘆息をいた。


*****




<続く>



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