第5話「最初にやるべき出会いの話」
……四人が座ったテーブルには各々の前に空になった食器が並んでいる。
食事が終わった頃合いに、何気ない会話を装ってマールが話しかけてきた。
「──おふたりはどのような経緯でジュリアス師のお弟子さんになったのですか?」
「弟子になった経緯、ですか?」
「俺は後からだしなぁ……」
二人はそれぞれ言って、ジュリアスの方を見る。
すると、やや勿体ぶってからジュリアスは話し始めた。
「……別に隠すような事でもないんだけどな。俺は最初、この国で前後不覚になって行き倒れていたんだよ。それ故、以前の事は問い詰められても答えるつもりはない。恥ずかしいしな。察してくれ。……で、この国のなんとかって村の道端で倒れていたところを、まずはゴートに助けられた訳だ」
「行き倒れ……ですか?」
彼の身の上話を半信半疑というでもなく、素直にマールは受け取った。
彼女から追及もないので、ジュリアスは話を続ける。
「でもって、いろいろあって……その日はゴートが兵役の都合で掃除やら点検やらを申し付けられたという駐在所に一泊させてもらって──」
そのいろいろの中には予期せぬ遭遇をした
「あ、その時が俺とも初対面っすね。で、最初はちょっと冗談っぽく俺も弟子にしてくれって頼んだんすよ。見事に断られましたけど」
「当初はゴートだけを弟子にするつもりだったからな」
「……なんというか、強引に弟子という事にされてしまっただけだけどね」
「損はしてないからいいだろ? それに、これからも損をさせるつもりはないさ」
ジュリアスは自信満々に宣言して、僅かに残っていた
「その後、俺は二人と一緒にこの
ちらり、とディディーの方に目をやる。
元々、ジュリアスはそこまで乗り気ではなかったが、彼の話を聞くうちに心変わりしたのだ。当然、その裏にあるディディーの下心にも気付いていたが所詮は真っ当な欲求の
「……そこで王都出身のディディーに保証人になって貰って、なんとか手続きだけは終えたんだ。そうして、二人の兵役が満了した時期から本格的に活動を始めた──
「実は立場があべこべなんですよね。弟子が師の立場を保証する、っていう」
「そうそう。その義理というか契約でディディーは俺の正式な弟子になったんだよ」
──有体に言えばスフリンクという国と
それは理想的である反面、国民ではない
「そうなんですか……」
マールが話を聞きながら、相槌を打つ。
(それじゃあ、
──彼らが
思案しながらもマールは
「……そういえば今だから話すが、ギアリングでのいざこざで話したこちらの事情と言うか説明は一部を脚色してる。別にやましいところはないが、ただただ面倒でね。説明がさ。俺の素性に関する事で混乱させてしまったなら、申し訳ない」
そんな彼女の少し曇ったような表情から察して、ジュリアスが正直に打ち明けた。
そして、続ける。
「とはいえ、俺の実力に嘘や偽りは含まれていない。それは事件の目撃者には周知の事実だし、事件後の
ギアリングでの事件終結後、ジュリアスは別室で宮廷魔術師含む数名と
「──ところで、その様子だと俺の身辺調査じゃなさそうだね」
「いえ、調査だなんて……!」
「いいよ。そのくらい折り込み済みさ。但し──」
いよいよ昼時となり、周囲を見回せば席もかなり埋まってきたが、それでも会話に支障が出るほどの騒々しさはまだない。
ジュリアスは厨房と店内とを往復している店員を呼び止めて、テーブルを片付けるように頼み、ついでに蛸の
「……君の話の前に一つ野暮用がある。取るに足らん事だし、それを片付けてからでいいかな?」
*****
<続く>
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