#3.「エルナ=マクダイン」
年が明けて──
……再び、旅立つ朝。馬車を待つ間の手持ち無沙汰な時間。
エルナは私室の中を見渡し、おもむろに窓の方へ歩き出した。
窓から外をみつめる。別に誰かがいる訳でもない。
何年も昔から見飽きるほど眺めた、いつもと同じ朝の風景だ。
衣類等、必要なものは昨日までに自らの手で革製の
それは彼女の体格に比して大きめであるが、いわば長期出張である為、ある程度は仕方がない。
留学の期限は約1年……予定通りなら、あと三か月ほど
期間の延長も可能だが、それには両国の合意が必要となる。
──席は有限なのだ。それも決して多くはない。
……自明の理だ。
つまり、問題児となったエルナは現時点で既に落ちこぼれてしまった訳だが、今更それを気にするような彼女ではない。
いや、正確には引っ掛かっていたが
「…………」
エルナは円卓に目をやる。
──そこには
椅子には
いずれも男物と
合わせる衣服は活動的な
……エルナは年頃の、上流階級の才女にしては珍しく派手やかさを好まなかった。
それよりは機能性、実用性を重視している。
現実主義の合理性──自身の属性は貴族より魔術師に近いと自覚していた。
『他は知らないが、魔術に関して才能の壁は存在しないよ』
……あの日の帰り道、馬車に同乗した魔術師はエルナにそう断言した。
話のきっかけは何だったか──彼が彼女に魔術師を志す
どういうことか、とエルナがジュリアスに聞き返すと「魔術に必要な素質など無いから」と彼はあっさり答えた。
*
『素質って……魔力が無ければ、魔法は使えないでしょう? 常識です』
『では、魔力とは何かね? それは"
『制限をかけようとする人間……?』
『
『だとしても、やはり最低限の素質は必要では? 魔法を使える者と、使えない者の差は余りある。中間がない……現に使える者と使えない者、二極化しているではないですか。これを素質、才能と言わずして何と言うのですか?』
『それは経験がないからさ。知らない事は分からない。百聞は一見に
『経験……? 体験すれば誰でも魔法が使えるようになると貴方は本気で思っているのですか?』
『勿論だ。世界において、魔法とは特別なものではない。十分な経験や体験で下地を作れば、いずれは出来るようになる。誰でもな。そうなればこっちのものだ。例えば俺に出来る事は君にも出来るし、君に出来る事なら俺にだって出来る。これが誰にも誰だって、な。──魔術に限っては、だがね』
『それは……夢のような話ですね』
『ああ。夢のある話だろう?』
*
皮肉交じりに言ったエルナに対して、その魔術師は自信満々に答えた。
一体、あの自信はどこからくるのやら……
──と、部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
エルナが返事をすると、壮年の執事が入ってきた──馬車が到着したらしい。
見送る為に彼女の父親も玄関口で待っている、と告げてきた。
「……荷物はその
「ええ、そうね」
「それでは、
「ありがとう。お願いします」
執事がエルナの
ぐずぐずして待たせる訳にもいかない。彼女も外出着の支度を始める。
(……
自分らしくない。一貫して受け身になっていたのだ、知らず知らずに。
だが、これからは違う。分かってしまえば問題はない。
──これからの私は受動的ではなく、能動的に動く。
差し当たっては、自分にとって都合の良い師匠を探す。
真に魔法を学ぶのだ。これからは、こちらから
口を開けて
……
──戦闘態勢は整えた。
「では、行きましょうか」
最後に
その後ろ姿に何の
……それでこそ、本来のエルナ=マクダインである。
*****
<小さなクエスト・終>
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