【22回の表】セントピートのいちばん長い日。

7月15日(日)


 相手の「悪意」が顔に現れるのは例の審判の件で理解できた。ただ俺が「認識」していることの意義をもう少し分析しないと使えないのも事実だ。


 あとは死球。とりあえず「わざと」かそうでないかくらいは見分けがつくようになった。


 今日の俺は右投げ。オールスターブレイクのおかげで両肩とも絶好調を叫ぶくらいには回復を済ませている。一応「TV放送」ということだがローカルTVネットになれきった自分には「全国ネット」のありがたみもよくわからないのが事実だ。


 それに先発投手の作法マナーも日米では大きく異なる。日本であれば先発投手は味方の攻撃中はブルペンに引っ込んで調整に余念なきように務めるがアメリカでは逆にベンチにとどまって味方の攻撃を見守り応援することが美徳とされる。


 今日の球審はジム・レイモンド。40代の有能な審判員。内角も割と公平に取ってくれる「まとも側」な審判なのもありがたい。アッパースイングが多い強打者にはアウトローのボールになる落ちる球よりもインハイに決まる4シームの方が事故が少ないのだ。

 

 今日は160km/h(100マイル)超えの4シームと鋭く落ちる縦スラとSFFを駆使して凡打と三振の山を築いていく。特にインハイは効果的であのコースをまともにストライクを取ってくれれば俺には断然有利となる。


 ただ現実はさほど甘くはないのだ。アジア人が白人から三振を奪うことを快く思わない白人審判、アジア人が黒人より下であると信じて疑わない黒人審判。あまりにも自然体で差別して自分が差別していることにすら気づかない連中が大半なのだ。なのであいつらは名選手が見逃した球をボールにとる。理由は「気に入らない」からだ。


 これらを「神の見えざる手」と呼ぶのなら、その神は少なくとも「野球の神」を名乗る資格はない。これを克服する手段は一つ。俺が一流選手と認められることだけだ。


 俺は8回を2安打2四球10奪三振で無失点に抑える。この四球ですらオルドスへのインハイがボールにとられたからだ。おそらく大打者であるオルドスへの「敬意が欠けた」球だったからだろう。正直そこを封じられて大打者と勝負するほどうぬぼれてはいない。


 だがそれ以上に味方が点を取れなかった。しかもボストンも点を取れず仕合は延長戦に。さすがに俺は肩のアイシングの関係でベンチからの退席を許され、続きはロッカールームで観戦。TV放送の枠が終わっても試合は続き、延長16回、ボストンが0対1で勝利。激闘5時間32分の末、試合が終わったのは日付が変わった午前1時35分だった。。


 もう負けたのが悔しいというより、とにかく試合が終わったことにホッとしていた。試合後のインタビューは取材をする側も受ける側双方がもはや戦意喪失。

「サンデーナイトはとっくに終わって今現在マンデーナイトですよ。今から移動するレッドアックスの皆さんには気の毒としか言いようがありませんが、とりあえず明日、というか今日もホームゲームで良かったとい感想だけですね。それ以上言うことはありません。もう一言付け加えるならばきっと皆さんと同じ言葉のはずです。……もう帰って寝たいです。」


7月16日(月)


 今日からヤーナーズ(ア・リーグ東地区2位)との直接対決第2弾。気の抜けない試合が続く。だがロッカールームに響くのは気の抜けたあくびばかり。さすが延長16回をやるとこうなるのも仕方ないか。しかも「全米放送」なのに1点も獲れず。目立ったのは投手の俺だけ。


 「健、指名打者俺に譲れ。」

いつものジョニーの無茶振り。もはや恒例行事か。

「昨日俺は8回も投げたんですけど。」 

「試合の半分しか投げてないだろ。俺は16回もプレーしたんだぞ。」

「ジョニーだって守備はやってないんだからみんなの半分しかプレーしてないでしょうが。おあいこですよ。」

俺の返しに隣のロッカーブースにいたBJが飲み物を噴き出しそうになる。


「お前らまた茶番それやってんのかよ。」

「相変わらず仲がいいよな。」

ほら、みんなに呆れられてるだろ。もちろん、ジョニーはいちばんのベテランとしていちばんの若手の俺に絡むことでチームの雰囲気を良くしたいのだろう。だがBJは否定する。

「違うな。お前が昨日の全国放送で一人だけ目立ってたのが羨ましかっただけだぞ。」


 俺は6番指名打者で先発出場。先発は今日ダーラムから呼び返されたばかりのコバーン。俺は5打数1安打(二塁打)打点1。チームは4対5で負け、連敗を喫する。両チームの投手陣が9四球ずつ出して試合のテンポが悪かったのだ。


ア・リーグ本塁打(7月19日現在)

 

沢村(TB) 31

バチスカーフ(TOR)31

テシェイラ(NYY)25

グレンダーソン(NYY)25


今季の沢村健の成績(7月19日現在)


打撃

(左)打席189 打数156 安打61 単打15 二塁打16 三塁打5 本塁打24 

打点62 四球30(敬遠8死球2)犠打1(犠飛1)敵失1

(右)打席61 打数53 安打21 単打9 二塁打5 三塁打1 本塁打7 打点26 四球8(敬遠2死球1)


合計 打席250 打数209 安打82 単打24 二塁打21 三塁打6 本塁打31 

打点88 四球38(死球3敬遠10)犠打1(犠飛1)盗塁8 敵失1

打率.392 出塁率.496 長打率.995 OPS1.491


投手

(左)試合8(先発8)61回 自責点9 防御率1.36 5勝0敗 QS7 被安打36 四球14 三振50 WHIP 0.8197(とても良い)

(右)試合8(先発8)55回 自責点17 防御率3.26 3勝3敗 QS6 被安打45 四球11 三振49 WHIP1.018(良い) 

 


 




 

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る