【21回の裏】後半戦スタート。

7月15日(金)【小原由香ダルトン】


 オールスターブレイクを終え、この日からシーズンの後半戦が始まる。


 レイザースはア・リーグ東地区首位のボストン・レッドアックスを迎えてのホーム3連戦だ。沢村は本塁打ダービーの優勝もあって一躍「時の人」となり3万人近い観客が集まった。もちろん、人気チームであるボストンのおかげでもある。なにしろボストンの本拠地フェンウェイスタジアムはもっともチケットが入手しづらい球場。代わりにアウエーでも観に行きたいというファンはそれなりにいるのだ。


 ホーム練習の去り際には多くのファンが待ち受け沢村にサインを求めていた。オールスター前の倍の人数はいるかもしれない。


 沢村は5番左翼手での先発出場。先発投手はTBがブライス、ボストンはミュラーの左腕対決。


 1回の裏いきなり沢村にチャンスの場面が回ってくる。制球が安定しないミュラーの立ち上がりを攻めて1点を先制、なお一死二塁一塁の場面。沢村への初球は134km/hのチェンジアップがど真ん中に入る。沢村は強烈なスイングで打ち返し左翼席への31号3ラン本塁打。バチスカーフに追いついた。


 3回の2巡目は見逃し三振。というより映像で見る限りでは完全にボール球。あれをストライクにとるのか?


 4回の3巡目も同じく見逃し三振。明らかにボール球なのに判定はストライク。さすがに打撃コーチが球審に抗議したが覆らず。


 6回の4巡目はファーストストライクから打ちに行ったがわずかに届かね右飛。

8回の5巡目は2球目の甘いカーブを右前に運ぶ。


 チームも13対6で大勝。一つゲーム差を縮めた。英語では無難な受け答えをしていたが日本人記者向けの会見では「球審との相性が悪かったですね。なんかすごい怒ってましたけど」とこぼした。


  球審のデ・ムーロは日本に審判として派遣された経験があり、その時日米の野球文化の違いのせいでかなりの日本人嫌いになったことが知られていた。(作者註、審判への判定の抗議として一人ではなく数名に囲まれて抗議されたことがトラウマだったそうです。)


その話をだれかがすると

「なるほど、そうなんですね。僕がというより日本人選手全員が嫌われてる感じですか。それならまだ良いですけど。」

と納得したようだった。いや、そこは納得するところではないはずだし、それに基づいて判定を歪めることをすべきではないはずだ。


7月16日(土)


 沢村は明日先発投手のため5番指名打者に入った。今日のスタジアムはほぼ満員の3万3000人。沢村がデビューしてからもっとも多い気もする。


 オールスターゲームやホームランダービーで共演したボストンのオルドスが沢村を訪問。超がつくベテラン大打者は沢村にサインを求めていた。

「オールスターゲームの時にお前のサインをもらうのをすっかり失念してしまったら、ワイフに文句を言われてね。」


 ……奥様の気持ちはわかる。夫には若手イケメンのサインくらい軽く要求できる程度の大物であって欲しいのよ。それ以外なんの役にも立たないとまでは言わないが。

汚れを落としきれずにやり直しが必須な皿洗い(でドヤる)よりはマシなのだ。


「家族サービスは大変なんですね、独身の僕には苦労が判りませんよ。」

沢村の言葉には「(棒)」がつくくらいのニュアンスがにじみでていた。


 ただ今日の沢村はオルドスに見せた謙虚な姿勢とは全く別物。5打数3安打2打点の活躍で、本塁打が出ていればサイクル安打だった。でも試合は5対9でボストンが制した。マディソン監督は「沢村がいなければ勝てないが沢村がいても勝てるとは限らない、ただそれだけのことさ。」と言っていたがまさにその通りの試合だった。


 7月17日(日)


 たいてい「移動日」となる日曜日はデーゲームになることが通例だ。しかし、今日は違う。なんと今日の試合が「サンデーナイト・ベースボール」の対象になったのだ。


 これはアメリカの地上波TVネットワークの一つSEPN(Sports and Entertaiment Programing Network)の全国放送で日曜日の晩に全国ネットワークで放送される野球の試合なのだ。この番組で扱う試合はNYヤーナーズ、LAドルフィンズ、シカゴ・キャバリアーズ、ボストン・レッドアックス、SFグロリアスといったトップ人気を誇る球団か、熾烈な首位争いを演じている球団だけなのだ。


 おそらく今回は地区首位でかつ人気球団であるボストンの試合ということで選ばれたのだろう。


 それでも沢村が先発する試合が選ばれたことに私は感慨を禁じ得ないのだ。日本の至宝でありMLBを背負って立つ次世代のスターである沢村のお披露目であることを。


 ただ当の沢村はあまりピンとこないらしく、

「そうなんですね。なんか球場に来てくださるお客様ばかりを意識してるので。あ、もちろんローカルネットワークのお客様も意識してますけど全国ですかぁ。でも今日は投手なんでどうなんでしょう。」


ただ、この試合がそこまで壮絶なものになるとは、まだ誰も予想だにしていなかったのである。

 

ア・リーグ本塁打(7月16日現在)

 

沢村(TB) 31

バチスカーフ(TOR)31

テシェイラ(NYY)25

グレンダーソン(NYY)25


今季の沢村健の成績(7月16日現在)


打撃

(左)打席184 打数152 安打59 単打15 二塁打15 三塁打5 本塁打24 

打点61 四球29(敬遠8死球2)犠打1(犠飛1)敵失1

(右)打席61 打数53 安打21 単打9 二塁打5 三塁打1 本塁打7 打点26 四球8(敬遠2死球1)


合計 打席245 打数205 安打81 単打24 二塁打20 三塁打6 本塁打31 

打点81 四球35(死球3敬遠10)犠打1(犠飛1)盗塁8 敵失1

打率.395 出塁率.498 長打率1.005 OPS1.503


投手

(左)試合7(先発7)53回 自責点8 防御率1.36 5勝0敗 QS7 被安打30 四球11 三振42 WHIP 0.7736(とても良い)

(右)試合7(先発7)47回 自責点17 防御率3.26 3勝3敗 QS5 被安打43 四球9 三振39 WHIP1.106(良い) 

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