第36話 女騎士の荊の冠

幻肢痛を抑える薬を飲み、コーラルはベッドに横になる。

今日も、なんとなく、パン屋に行ってしまった。

娘が嫁入りしたようで、でも、その「娘」の母の命を間接的に奪ったのは自分。

子供が欲しかった。

男どもばかりの兵達の中で女の兵士は肩身の狭い思いをしていた。

目に見えて戦場で活躍すれば武官に認めてもらえるかもしれない!

いまでこそ男女同権の世だが、当時はまだ男尊女卑。

そこで見た、男とも女ともわからぬ、猛々しい、妖精の暴れっぷり。

憧れた。

やがて、帰国し占術の通り嫁いだが、体に傷跡もあり、鍛えてガタイのいい自分を夫は見ることはなかった。

家での立場も悪くなって、心どころか命を削るような日々。

運命の人達と一匹に出会う。

「東へ来ぬか?そこでなら……」

まだ何か自分に得られるものがあるなら。

そして、なぜか、自分は魔の声を聞く。

恨むなら、

〈城の王子を恨め〉

なんのことだ。

城に王子などいない。当時はそう思った。

だが、ミケが六歳の頃馬車で轢きかけたあの事件の、あの少年。

城の王子。

揺蕩う魔の気配。

残った腕で剣を掴み、一閃!

「恨まないよ」

自分の罪は、自分だけの物だ。この罪の王冠は、荊は、己にこそもたらされるべき。

「父親まで取らないよ、ミケ。愛しい、ミケ」

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