第24話 お土産とお揃い

コクヨウを探しているが見つからない。

シノブさんが気がついて

「たぶんお部屋にいると思いますよ」

と黒い扉の部屋の前まで案内する。

「あの、気を悪くしないで欲しいのですが」

「はい?」

「どうして私の貸していただいている部屋はあんなに豪華なのに、扉が無いんですか」

「ああ!」

おかげで着替えは隣室を使わせてもらっているが珍しい窓に煌びやか装飾品、豪奢すぎる寝台。たぶん、この城で一番、ダントツでいい部屋なのだが、扉がぶちぬかれているのだ。

「あれも、愛の証ですかね。まあ、あらかじめ扉が無いのを楽だと思って人払いをして、当時はトキ様はあの部屋でコクヨウ様を産んだのですが」

「ぶっ飛んでますよ」

「ぶっ飛んでるのは我が当主のお父上、クロキ様です」

「でました!クロキ様」

「トキ様があんまり神獣と戯れる嫉妬と、懐妊しているのではという情報への静かな動揺と、結界より阻まれた悔しさから、お得意の魔術で鍵を吹き飛ばしたのです。まったく、倒れた扉がトキ様に当たらなくて良かった。寝台にいたらしいですね」

「もし懐妊してらっしゃったらお腹の子に良く無い衝撃ですね」

「ほんとに!まあ、まさか、別の世界やら別の時空を旅して、今も変わらぬ姿で世を駆けるとは思いませんでした。しかも、コクヨウ様がいうにはたまに帰ってきているというのですが」

「あ、それは私も聞いたことがあります」

扉の前で、床に影ができる

「俺の部屋の前で、何をしている」

「あ、すみません、コクヨウさま。村からお土産です」

「『おみやげ』」

「はい」

「なんだそれは」

「あ、えっと、今回は、絵本なんですけど、すみません、子供っぽかったですね。しかも、持っているかも」

「ああ、戦利品のようなものか」

戦利品。お土産を貰ったことがないのかな。もっと、村や町のいいものを見ておけば良かった。

扉が開く。

対面して改めて、

(そういえばこの人、メアリーのことフッたんだよなー)

と思う。

「はい、お土産です。持っている絵本だったら済みません」

横にいるシノブが贈り物に興味津々。

「『いつかこの呪がとけるまで』?」

「知ってましたか?」

「いや知らない。そもそも、老人達が最後の悪あがきで若者達に刻んだ呪自体が新しいものだからな。絵本でかるく触れているのか」

「子供にもわかりやすいんですよ」

「ミケも将来子供が生まれたら読ませるのか?」

「はい?!ま、まあ、わかりやすい本ですし。ただちょっと、もしかしたら、最近の変化した結婚の取り決めを意識して、恋人達寄りの内容ですが、気に入らなかったらどうぞ、返してもらっても……」

「いや、読む」

「あ、ありがとうございます。よかった。家にも同じ本がもう一冊あるので、二冊になっちゃうところでした。お揃いですね」

「『おそろい』?」

「あー、では、失礼します」

メアリーの話を聞いてから実はミケもコクヨウの思い人?が気になる。小出しで接触しよう。自室へ戻るミケ。

「シノブ、『おそろい』とはなんだ?」

「同じものを持っている、ということでしょうか。物や性格が同じ、近いことをお揃いですね、と言ったりもします」

ミケはもう見えなくなっていた。

「俺とお揃いにすることに何か意味があるのか?」

「今回は特には無いと思います。絵本ですか、コクヨウ様にはあまり読んであげた思い出がありませんね。いつも魔の国の妖精と戯れて、ヒヤヒヤしていました」

「さっそく読むか」

興味津々で小さい子が破かないように分厚い装丁でできた。

鮮やかな丸い星の上、王冠とティアラを頭に乗せた棒人間がたがいに触れ合う、外側には翼の描かれたデザインの本を見る。

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