第18話 あたたかくして、休む

一方コクヨウは毎日、コクヨウの体調に合わせて使用人が調合するハーブティーを、少し顔色良さそうに毎朝、お昼、夜まで飲む。

まさか、ハーブをほんとうに活用しだすとは。

さらにはバジルがたくさんのったピザが食べたいとジャンクフードにまで手を出してきた。お気に入りは私が教えてしまったジャーキー。

噛んでじんわり味のする常温のものが美味しいらしい。シェフが修行時代ピザはたくさん焼いていたというので熱々が珍しく届く。材料も少ないマルゲリータだからこそか?チーズ!トマト!バジル!生地!で出来上がるのか。コクヨウが、その日から、暖かい料理に目覚めてしまった。私もあったか料理には大歓迎だ。毒味役はたまったものじゃないといっていたが今度は私の提案したオレンジピール入りパンや胡桃パンになぜか陥落。ずっと変わったパンが食べたかったらしい。病は気から。というけれど元気が出ないなら元気が出るものを食べて元気が出るものを見るしかない。

ある日信じられないことが起こる。

森を出て城の裏手の丘のログハウスまで半日くつろごうという、魔王からのデートの誘いである。

「いくら待ってもお前は帰らないからな。ハーブの活用を提案してくれた礼だ。自然の中の、素晴らしいログハウスに招待する。一緒にいれば嫌になって帰るだろう」

魔王。なんだろう、魔界や魔物との境界を危うくしてしまう特異な生まれ、両親が存在しない世界で発生し、元の世界らしきここで出産されたからこその存在の危うさと、世界線的には誰の子でもないような悲しい性を持つ。しかし聖人と仙女の力のあるものの子供。

「あなた、わかってる?わたし、恨みは実はそんなに強くないけれど母の仇だし。でも、この髪の呪を解いてもらいたいのよ。お誘いは嬉しいけど、それに、あなたも……デュラハンの馬を盗んだんでしょ?村に恐怖を植え付けた」

「……そんな気もする」

「ッ!そんな気もするってなに?!現にあなたはあやうい存在で、性格だって!十年前に村で、馬車で、ひとりの女の子を轢きそうになった事を覚えてる?!三毛猫模様のこの髪を忘れたとは言わせないわ!あの時の事、謝ってもらうから!」

「十年前……」

コクヨウがちょっと考えだして、思い当たったらしい。顔色を悪くする。また発作とやらが出るのか。

「あの時は、すまなかった。周りにデュラハンの災害の元だと言われて、辛かった、人のことに気を配れなかった。謝る。すみませんでした……」

よく、謝る、とか、悪かった、という言葉で済ます人もいるが。ちゃんと謝罪の言葉を使うとは。

「〜〜〜」

でも、母のことも馬車のことも許していいの?

よくわからないけれど事態が進まない。

「……行くわ、ログハウス。お招きに預かる。私もいつまでもここに居座ろうとは思わないし。この世の呪が解かれれば、私の髪色が戻ってくるんだから」

「……俺も、この氷の刃で心臓を刺されるような痛みはもうたくさんだ。この呪を取り除きたい。だいたい呪の成り立ちも気に入らない」

「呪に成り立ちなんかあるの?気づいたら大人にはなくて、子供やお姉さんお兄さんにはあったものよ」

「老人たちの最期の悪足掻き、と聞いている」

「つくづく嫌ね」

「ああ、つくづく嫌だ」

二人して沈黙する。

「歩くのが面倒だ、馬で行こう」

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