第19話 キスまでだから

最初は調子が良かったのに!


黒い森出て、お茶のセットまで持たせてもらって、ミケは馬に乗るのが怖くて断固拒否してしまった。でも馬は可愛い。特に目元。

「かわいいだろう、馬は好きだ。景色が違う!」

コクヨウが少年らしく笑う。道を行き、風に流されるような草原へ出て、ミケは思う。

(わたし、いま男の子とデートしてない?!)

馬の歩みに意識を集中させながら、もうどうせなら何もかも忘れてはしゃいでしまおうか。

天気もいい。風が二人の髪を撫でる。

丸太小屋の可愛らしい小人が物語の小人が住むような建物が現れる。思わず顔を綻ばす。

「あれ?」

「ちがう」

「そう……」

「うそだ、アレだ」

「なんで嘘つくのよ?!」

「急に笑うから……」

なんとなく二人で、恥ずかしいようなこそばゆい気持ちになり、

「まずは、お掃除からね……」

「掃除?」

馬に揺られながらコクヨウが首を傾げる?」

……したことなさそう。

「だって、使われてないんでしょう?」

「いや、俺の隠れ家で、埃が俺の体に悪くないよう皆が整えている、というから知らない」

「おぼっちゃまね」

「……せっかく誘ったのに人の機嫌を損ねたいのか。言っとくが、呪さえ取り除けば今の時代誰と結ばれても、関わってもいい。これは、期限付きの、……仲良しごっこだ」

「ごっこじゃ、本当の『特別な人』にはならないんじゃないの?」

馬から降りたコクヨウが、妙なことに気づく。

「馬が足を痛めていたらしい」

「えっ!」

途中から話に夢中で気づかなかった。

「どのみち少し休ませる。外出が久しぶりなのでこいつに歩みに集中させてやれなかったんだろう」

コクヨウは馬を満遍なく撫でてやる。

「私からも謝るわ。隣で歩いていて、何か硬い石でも、飛び出た枝でも踏んだのかも。蹄鉄は手入れされていると思うし」

やがて二人でログハウスに入り、

「わあ、かわいい」

「可愛いとはなんだ、低い切り株のテーブルに、大きさを合わせた椅子たちだぞ?あとキッチン」

まあ、俺は炎魔法は使えないけどな、と付け足す。

「暖炉が必要になる程長居しないからいいでしょ。あとお茶セットにマッチもある」

用意してくれた中堅メイドのメアリーが

「いいこと?ミケ!ぜったいに!コクヨウ様を押し倒さないこと!わかった?!あの方は、その、まだ目覚めてらっしゃらないのよ!でも男子の引き金ってわからないじゃない?!私もわからないけれど!と・に・か・く!二人きりだからって抜け駆けしないで!友達だから言うんだからね!でも、その、呪を解くのは応援してるわよ……、キ、キス!キスまでよ!応援してるのは、じゃなくて、許容するのはあ!!」

そのあたりでシノブさんにこってり縛られていた。

働くって大変。

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