第14話 首無しデュラハンは馬を探してる

命がすり減っていく。それでも構わない。大事な馬を盗まれて、どう生きていけと言うんだろう。首を抱えて雨の中、土砂の中、もっと、棘が刺さりそうな荊の金網、こっちなのか、わからない。移動している。こちらが探知できないなんてはずないのに、やがて黒い森から茶色の林、今はぜんぶ闇で黒く見える。

暗闇の中、まばらな明かりのついた家々。馬小屋。そこにいるか!私の馬は!あの馬がいなければ首を刎ねられた惨めな敗残兵のようで。かなしい。苦しい。にくい。うらめしい。

今の自分には何がある。自分には、左の腰に下げた、鋭く磨がれた剣。使うか。

剣を掲げ、兜の中の首は雄叫びを上げ斜面を足を取られながら進み、やがて、馬を盗まれた怒りや戸惑いで、まず一つの家へ押し入る。馬はいない。人は壁の隅へいく。

次の家だ、今度はやたらと小さいのが多く、剣を振るえば指や鼻を切り飛ばしそうだったのを、女が赤子達をかき集め、男達が三人がかりで家から追い出す。まあいい、あそこにも、我が愛馬はいなかった。

すると人の腕を切り落とす気で声の高い人間が死角から大剣を振り落としてきた。声に驚き転がるように逃げた。兜からでは見えなかったので背後からくる、それも剣を持つ右手、兜を持つ左手どうせなら兜側から叩き潰す。切り落とす。そんなつもりで。

「頭が離れりゃ動かなくなるかと思ったが勘が鋭いね。それとも、わたしの気合いが入りすぎたか!」

雨足が強くなる。視界は悪い。わたしは兜の窓を少しガララッと、開けてみせ、また戻す。

「うわ、なんだその兜、窓がついてるのか、じゃあ、後ろの仲間と一対十で、首狩騎士退治だ!!」

動きは読める。ただの村人の集まりだ。戦いに慣れているが故に。

向こうが同志仕打ちをして囲まれた時、どうしていいやら、とりあえず姿勢を低くして転がって逃れる、逃がれた先で巨大な棍棒が、首なしの場へあたるが、

「うぎゃああ!!」

首から浴びた人肉のかけらに怯んでいる。

戦場。そこに自分もいたのだろうか。

やがて、峰打ちと突きとを繰り返した為相手の兵士たちの士気が下がり始める。峰打ちかと思えば細い剣で膝を刺され、覚悟して突撃すれば単純に蹴りで吹っ飛ばされる。

「家族を、守るぞ!」

そして、忘れた頃に胸に急所をずらして突き。単純に腕力で投げたりもした。

九人は繊維喪失させた。あと一人は、ガタイのいい体格の大剣を持つ大女。あれでは、こちらの剣がもたない。お互い思い切り振りかぶって。

片腕の腱だけ狙って裂いた。我ながら真剣勝負に向かない。これで、片腕はお荷物だろう。他の奴らも立ち上がってこない。

進む。愛馬。我が愛馬はいずこに。

やがて、一段と忙しく屋内の光が揺らめく場所を見つける。

「まてっ……」

腕を使い物にされなくなった女が言う。

待て、か。

ならば、ここか。広そうだ。ここなら馬も入りそうだ。ずぶ濡れの中、戸を開けた。

頭に白い頭巾を被った村の女達の悲鳴と、動けない、ひとり。すると、女の攻撃が当たっていたのだろう。兜が割れる。カシャンカシャンと部分ごとに落ちるたび女達が気絶していき、とうとう腹の大きい女だけが自分を見る。自分にだけはわかる。


この顔は。この兜の下は……


「ひいいいぃ、こどもお!!!!!」


俺の首。


それから先の記録は騎士は城までやってきて、首なし馬に乗ったまま城の生垣や塀も、ものともせずに、駆けて走り飛び去っていった。怪我人十人。村、町でも目撃者多数。


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