第4話 黒き孤城より前

城からは、誰も出てこない。

占いでここに行け、と言われたら行くしかない!

今ではもう、信用出来ないと言われている水の国の占いを試したらここへ、と信託が下った。

願ったり叶ったりかもしれない。

(ここに、あの失礼なひとがいる……)

三毛猫の髪を風に吹かせて、毅然とミケは城の前に立って見せる。

……どれくらい待っただろう。

……一時間くらい。

その時、城の扉が不気味な音を立てて開く。

短い金髪に、メイド服を着た、キツイ目つきの少女だった。

「お客様、まあっ」と驚いた顔をしたがミケの服装を見て貴賓のある方ではないと見ると、声の音を低くし、

「なにか御用でしょうか」

「水の国の占術でこちらへ行くよう促されました。村から来たミケ、と申します」

ふうーん、三毛、ねえ、という声が聞こえてきそうだった。上から、特に髪の模様を不躾に眺めながら、下まで観察される。

「使用人は足りてる、石像の手入れと窓磨き、ソファやクッションの天日干し、毎日の献立は、知らないわ。そんな場所に、あなた、なぜ派遣されたのかしら?」

「私が占ったのは、恋占いです」

顔色も変えずにミケが言う。

吊り目の金髪のメイドはすこし扉を閉めようとしてから、ああ、と得心がいったように、

「あなた位の年のお相手なら、ハーブ園のあの人かも知れないわ」

「どんなひとで、どこに行けば会えますか?」

「ここから右へまっすぐ行くと屋根のあるハーブ園があるの。それ以外に建物はないからすぐわかるわ」

親切だが、意地悪そうだ。

「ありがとうございます、親切な人」

念の為そう言っておく。

小さな虫が足元にいる。苦手だ。パンを作るための小麦畑、あの中を思い出せ。植物に囲まれているのは同じこと!

暗くて湿った、涼しい道を、言われた通りに歩き出すミケ。髪色が目立たないように、いつも暗い色の服を着ている。

編み上げのブーツをじわり、じわりと土の感触に沈ませていく。小屋が見えてきた。

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