第3話 六歳の出会い

そんなミケにも、『出会い』がある。

いつもの石畳の道で真っ黒な馬車に轢かれそうになったのだ。

三毛猫柄の髪を垂らして、ぼうっと座り込むミケ。

やはり瞳は干からびてしまった老人のようにガラス玉。

光は返しても、奥まで届かないような。

すると、馬車の扉が開く。

上品な衣装を纏った男子だった。

髪も黒。瞳も黒。しかしその瞳はすべてを内包しながら、すべてに裏切られたかのような卑屈さ。


滲み出る。


お互いの魂のあり方が。


こうではないはずだ、と。


「猫を一匹轢きかけたか、出せ」


漆黒の少年が黒い声で言う。

まるで子猫を痛ぶる鴉が飽きたかのように。

店から父親が血相も変えず出てきた。

「だいじょうぶか?」

事務的に聞く。

その様子にまだ声変わりもまだな幼い男児が高らかに嗤うような声で、

「ははははっ、この町は、村は!みんなこうだ!」

高らかに、そう高らかにわらってみせた。

やがて細くて低いステッキを掲げて馬車を出せと怒りを見せ、胸を押さえながら窓からミケを眺め、馬車と共に走り去っていく。

そのとき、やっと、しずかな水面のようだったミケの心に小石の様なものが投げ込まれた。それは、波紋を広げて、ミケに行き渡る。

「おとうさん、わたし、ゆるさない。あの坊っちゃん、わたしのことを……」

さも醜いモノをみるように去って行ったわ。

それから十年後。ミケは村も町も、父もコーラルも置いて、鞄ひとつで黒き森の黒き城まで原っぱを超えて、ただ一点、あらゆる悪魔の石像が埋め込まれたような不気味な城へとけしかけた。


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