/// 22.ボッタクリバーは危険です!

孤児金の新設も終わり、少しづつ子供たちも増える予定となった頃、僕はすっかり忘れていた注文の品を受け取るため、サフィさんと一緒に『王都総合魔道センター・南出moreー瑠』にやってきた。

以前予約していた竜石の指輪(命)。3個入荷したという知らせを受けていただが、再度ギルド経由で連絡届いたのが昨日であった。


「なんだか久しぶりに来た気がします」

「そうだな!そうだ!今日は買うもの買ったら時間もあまるし、久しぶりにダンジョン行かねーか?」

「うーん。随分のんびりしちゃったからね。少し潜ってみようか。100階層のボスでも覗いてみる?」

「おっ!いいな!何が出るかわかんねーけど全部ボコそうぜ!」

「ボコそうって・・・どこでそんな言葉覚えたの?」


そんな物騒なことを話しながら、3階で指輪と、ついでに通信用の魔道具や指輪類もいくつか購入した。これで連絡も捗るだろう。そして購入した品を受け取ると出口へ向かってのんびりと歩き出す。

すると、見覚えのある顔がこちらに歩いてきた。稲賀である。

しかし、前川はいない。そのためかどうかは分からないが、どことなく暗い表情をしていた。


「や、やあ・・・大川。久しぶりだな・・・元気してたか?」

「稲賀こそ、元気ないな?前川はどうした?」

「あ、ああ。そのことなんだけどな・・・ちょっと話しできねーか?」

「ん?」


稲賀は、横のサフィさんのことをチラ見しながら話を持ち掛けてきた。


「ああ、少しの時間で良いなら。相談事か?」

「ありがとう。ちょっとだけ、時間もらえるか・・・ここじゃなんだからついてきてほしい・・・」


先ほどからチラチラと何度もサフィさんを横目で見ているので、何ともなしにサフィさんに「ちょっと待ってて」と伝えて稲賀に付いて歩いていった。そして3階のトイレに入る。

一瞬身の危険を感じで体をこわばらせるが、まあそういったことはなさそうだ。前川に対しては限りなくアウトな反応していたけどね。そして「ごめん」と稲賀がつぶやいたあと、僕は背中に熱い痛みを感じた。

ドスドスと何度も背中に痛みを受けた僕は、ゆっくりと後ろを振り向く。目の前には手を震わせ、泣き出しそうな表情の前川が立っていた。そして俺は背中に刺さったナイフを抜く。どうやらこれが悪さをしたようだ。


魔界の短刀(死)

攻撃 200+50%

付与 死


そして、前川の指には竜石の指輪(力)が装着されていた。ああ、こんな高価なものどこで調達したんだろうな。そんなことを考えながら僕の体からは死の匂いが消え、【超回復】により元通りの姿へと戻っていく。


「なんで・・・なんでだよ!なんで死なない!この・・・化け物が!」


ガタガタと震えながら尻餅をついてこちらを罵倒する前川を見て、怒りというより哀れだな。と感じてしまった。


「お前が・・・お前が生きていると!俺たちはもうおしまいなんだ!なあ、なんでもいいから死んでくれよ!頼むから・・・なあ・・・」


僕は前川の土下座を見ながら、なんとも言えない感情が駆け巡っていた。僕が・・・悪いのかな?うーん、どうしたらこの気持ちを消化できる?こういう訳の分からない思いを抱いてしまうから、前川たちには二度とかかわりたくないんだよね・・・

そして考えあぐねた僕は、首筋にその短刀をあて、力いっぱい自分の首を切り裂いた・・・


「ひっうっ!うわぁーー!なんで!なんで素直に死ぬんだ!どうして・・・俺が悪いのか?なんでこうなるんだよ!なんなんだ・・・こんな、クソみたいな世界・・・」


半狂乱の前川の声を聴きながら、床に落ちた僕の頭は消えそしてまたもとの位置へと受肉していく・・・なんだか死ねない呪いのようにも感じた。


「僕が死ねたら・・・良かったのにね・・・」


僕には目の前の前川と背後の稲賀は、もはや正気ではなかったように見えた。なにやら涎を垂らしながらへらへらと笑う二人をみて、何も感じなくなってしまったのは【精神耐性】が正常に働いているからなのだろう。

慰謝料代わりに魔界の短刀(死)は貰っていく。加奈にでも渡しておこうかな?佳苗のより上位のアイテムだ。交換しても良いかも。なんにせよ、あれの何倍もの高額なものであることは明らかだ。誰がこれを前川に?そんなこと・・・僕には関係ないことか。


「おお!結構時間かかったな・・・って血の匂い・・・なんだタケル!おまえケガしただろ!あいつか?俺がぶっ殺してやる!それとももう殺ったか?」

「サフィさん、ありがとう。でももういいんだ。もうあいつらとは関わらない方がいいんだ。でもごめんね今日はもう帰ろう。ダンジョンは今度一日いっぱい潜ろうよ」

「そうか。まあ気にすんな。まあ折角だから今夜は運動しなくちゃな!期待してるぞ!」

「サ、サフィさん・・・」


クヒヒと笑うサフィさんを見て、少し気持ちが軽くなった気がした。


◆◇◆◇◆


2日前。アウター幹部が根城にしているバー『癒しの飲み屋・募通宅理(ぼったくり)』の裏の広い部屋には、アウタートップで元勇者パーティの闘士、ドライヤンと補佐のアルシドンがデカイソファーにどしりと座っていた。


「おい!ガキども!金がねーとはどういうこった。さんざん飲み散らかしやがって!金がねーなら来るんじゃねーよ!」

「まあまて。この子たちにもきっといい分があるだろ?聞いてやれ」

「へい!おい!言い訳があるならきく!寛大なボスに感謝するんだな!」


ぼったくった二人の客に凄んでいるのは補佐のアルシドン。いさめているのはもちろんトップのドライヤンであった。


「お、俺たちはここを紹介してくれたおねーさん達から、5万エルザで飲める店があるってきいて・・・それで・・・」

「そ、そうです!隣で一緒に飲んでいた二人です!飲み放題って言ってたので、少し高いけどそれぐらいならってついてったのに!50万エルザとか聞いてないですよ!」


その返答を聞いて、アルシドンがワハハと笑う。


「なんだ!ちゃんと聞いてるじゃねーか!飲み放題で5万。この伝票にも書いてあるな。それに女の子のキープ代、おつまみ代、さらにはおさわりも楽しんでたようだからな。正当な金額なんだよ!」

「そ、そんなバカな話があるか!このっ・・・犯罪者どもめ!」

「うっせー!」

「ひっ」


まるでボッタクリバーのような説明に大声で騒ぐ客を威圧するドライヤン。

そしてドライヤンは立ち上がり二人の前にしゃがみこんだ。


「おい・・・金がねーなら仕事をやる。一人殺してきたら全部チャラだ。できるな・・・」

「ひっ!できるわけないだろ!そんな・・・殺しなんて・・・」

「そ、そうですよ!人殺しになんてなれません!」


ドライヤンや客の一人の髪の毛をがしっと掴んで顔を上に引き上げた。


「やれよ!知り合いにいるだろ・・・殺してもい奴が・・・大川ってヒョロい男がよ・・・」

「えっ、なんで?だ、だましたのか!わざと俺らを誘い込んで・・・うぐっ!」

「よ、義男さん!やめろお前!ぐふっ!」


二人をなぐりつけたドライヤンはにやりと笑う。


「これを使え。いくらあいつでも背後からずぶりとやったら即死・・・できるな!やれるじゃねー!やれ!」

「は、はひ・・・」

「よしおふぁん・・・」


後から入ってきた女性に傷を簡単に手当てをされた二人は、一本の短刀と指輪を受け取ると夜の街に消えていった。


◆◇◆◇◆


「ドライヤン様。あの二人はどうやら失敗したようです。監視が指輪の方は回収しましたが、どうやら魔刀は大川が持っていったようです」

「なんだと!使えないガキだったが、あれを奪われたままとは・・・あれは裏ルートで流してもらったお宝だ・・・ちっ!あんなのに任せるべきじゃなかったな・・・」


室内の物に当たり散らしながら叫ぶドライヤン。


「当然、奴らは始末したんだな!」

「もちろん。すぐに毒の短刀を使って互いを切りつけたように刺しておきましたので、何らかのトラブルとして処理されるでしょう」

「そうか・・・今に見てろよ!絶対に・・・ぶっ殺してやる!」


タケルにこの男の恨みがぶつけられる日がいつになるのか。それは誰にも分からない・・・

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