/// 23.盗賊ギルド

「火竜について何かわかった?」

「いえ、あれ以来目撃情報は一切ありません。やはり見間違い・・・ということになろうかと・・・それと、アウター連中の方で大川の始末を同じ転移者に頼んだようですが・・・失敗したようです・・・」


盗賊ギルドの本部、指令室にはギルド長を務める元勇者パーティの女性、エルディンが、部下の報告を聞いていた。


「そう・・・下がっていいわ」

「はっ!」


部下の男はそのまま闇へと消えていった。


「マリ・・・いるのでしょ。新しい指令があるわ・・・」

「はっ!」

「オオカワタケルという男を探しなさい!聖神官という職の転移者、そして・・・隙あらば殺すのよ!いいね・・・」

「はっ!」


そしてマリと呼ばれた女性はまた、闇へと消えた。


◆◇◆◇◆


「何てこと!遂にこんな・・・チャンスが巡ってくるなんて・・・運命なのかな・・・佳苗・・・タケルくん・・・」


私は秋川真理(あきかわまり)。一年ちょっと前には普通の女子高生だった。


よくあるライトノベルの定番、クラス転移。最初は夢だと思った。私も相当のめり込んでいるな・・・そう思っていた。小さい時からいわゆる歴女、それも忍者が活躍する物語が大好きだった。こっそりとコスプレまでするほどハマっていた。

そして、転移して得たジョブは忍者・・・なんてチープな・・・


そう思ってたんだよね。その後、タケルくんが勇者パーティに選ばれて、佳苗は悔しそうに「一緒に行けなかった!」って泣いていた。それからいつものように、城の中で与えらられた部屋で仲良しグループ集まっておしゃべりに熱中していた。何日も、何日も・・・


あれ?これって夢じゃないの?

気づいたのは1週間ほどした時だった。あまりに長い夢。いや現実なのか。じゃあこのジョブってのも本物!異世界転移!嬉しくて・・・佳苗たちに話した。


「これって夢の世界じゃないんだよね!」


佳苗も、加奈も、悠衣子も、康代でさえも、『何言ってるの?』って顔をしていた。あー気づいていなかったのは私だけか。恥ずかしくて顔が赤くなったよねあの時は・・・

それからはまじめに訓練所で修業をした。この世界の人に聞いたら忍者は何気にレア職といっていた。これで無双できる!って思って頑張った。頑張ったけどやっぱり私は帰宅部で運動音痴な女子高生ということに変わりはなかった。

私に付き合うように訓練を始めた悠衣子と康代は元々が運動部。動きが違った。ああ、うまくいかないな・・・そんな思いが募っていった。


そしてタケルくんが一度戻ってきた。滞在していた1週間ほど、ひどいいじめが起こっていた。無能だなんだと言われて暴力もあった。佳苗はタケルくんを庇うように頑張っていたけど、戦闘職ではない佳苗は他のクラスメートにはかなわなかった。私はもちろん、悠衣子と康代が佳苗を守っていた。加奈は同じ非戦闘職ではあったけど必死に庇っていたのも見ていた。

佳苗以外の3人は、佳苗のことは守るけど正直あの人数と本格的に敵対するのは避けたいと思っていたはず。私もそうだったから・・・何人かの戦闘職のクラスメートは初日から訓練所に通って必死で修行していることも知っていた。

正直怖かったんだよね・・・


そしてタケルくんは再びいなくなり、勇者パーティが火竜を討伐した知らせと同時に、タケルくんが死んだというニュースが飛び込んできた。佳苗は泣きながら「殺してやる!すべて滅べばいい!」とそんな呪詛を呟いていた。

そんなこともあって5人で一緒に川の字で寝ることが増えていた。少しづつ落ち着いていく佳苗を見ているのは嬉しかった。そしていつもの調子に戻ってきた時には他のみんなと一緒に大喜びしたんだ。

まあ前にもまして佳苗の『タケルくんの良いとこ話』が長くなったけど・・・


その後は佳苗に付き添うように加奈以外のメンツが孤児院へとついていき、冒険者として活動するようになった。

最初は本当に大変だった。体がイメージ通りには全然動かなくて何度も悠衣子や康代に助けられた。でも少しずつではあるけど動きは変わってくるのを実感した。そしてレベルが30を超えたあたりから、自分の持っていた忍者としてのイメージ通りの動きを体現することに喜びを感じた。


そしてのめり込んでいった。


毎日毎日魔物を狩る。たまに出すぎと二人に怒られる。反省しつつ目立たない程度に前に出る。二人を先に帰してさらに先へ行く。申し訳ないけど多めに狩った魔物の買取報酬は自分の懐に入れた。先まで進むとケガも増えるからね。回復薬も減りが早い。

ソロ狩りの難しさも感じていたが、どんどん上がっていくレベルに高揚感が止まらなかった。盗賊ギルドにも登録した。忍者は盗賊の上位職って聞いたから?いや違う!


回復薬を買い込むためにギルドのショップを訪れた際に、佳苗の話をしている男たちがいたのに気付いたので【隠密】を使って盗み聞きをしていた。街中へ歩いていくその二人組はコソコソと会話と続けていた。


「うちのギルマスがカナエって女を攫う計画してるってよ・・・」

「マジかよ!どういう女なんだ?イイ女なのか?」

「ああ、なんでも転移者らしくてよ!しかも可愛い!」

「マジか!百合か?百合っちゃうのか!

「ちげーよ!錬金術師らしい!勇者を振った女!」

「マジかよ!」

「マジマジ!盗賊ギルドも錬金術で荒稼ぎする時代に突入か?」

「おい!それじゃー俺らの仕事なくなるじゃん!」

「バカかよ!素材をいろんなとこから盗んでくるお仕事増えるかもよ!」

「なんだよ!それじゃー盗賊じゃなくて泥棒だろ!」

「ちがいねー」


頭がおかしくなるかと思った。こんな低俗な男たちの元に・・・佳苗を?ありえない!そこから私は、みんなに黙って盗賊ギルドとしての仕事を可能な限りやっていた。諜報任務を死ぬほど頑張った甲斐があって直接近づけるぐらいの位置に就いた。


絶対にこいつら全員・・・殺す!


そんな時、タケルくんがまた戻ってきた。


嬉しくてたまらなかった。佳苗が嬉しそうに笑ってる!強くなったタケルくんはとても素敵だった。やっぱり私もタケルくんが好き!だって佳苗が毎日のようにタケルくんの良いところを念仏のように言ってくるの。もう洗脳だよ。

だからこそ私はあそこを出た。きっと私が居ない間に悠衣子も康代もあの群れに加わるんだろうな。私はまだ戻れない。


盗賊ギルドをつぶして佳苗を守る!そして今日、それがタケルくんを守ることに繋がることを知った。嬉しさがこみあげてくる。こんなところ、早くつぶそう!あのクソ勇者の仲間を・・・

私は最後の準備をしなきゃ、と力いっぱい走りだした。


◇◆◇ ステータス ◇◆◇

アキカワ・マリ 18才 ヒューマン

レベル 191/ 力 D / 体 F / 速 B / 知 E / 魔 F / 運 F

ジョブ 忍者

パッシブスキル 【暗殺術】【耐性-毒】【気配察知】

アクティブスキル 【隠密】【弱点看破】

装備 鋼の短刀 / 隠密の羽織

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