/// 21.孤児院拡張計画

僕が正式に孤児院とその周辺の権利を買い取ってから2週間。さすが異世界!と驚愕している・・・


まずはと王都の建築ギルドに行って孤児院の新設契約を相談しに行った。

最初は見た目か何かで軽く見られたのか、新米の担当員を付けから話しを進めていた。だんだんと顔色が悪くなってくるロバートというその男の子は、遂に座っていた椅子ごと後ろに倒れてしまった。

その音を聞いて駆け付けてきた他の職員に「何をした!」と詰め寄られたので、それにイラついたサフィさんを止める方が大変だった。

結局、飛び込んできたギルド長のダニエルさんが、ロバートくんが箇条書きした条件と予算のメモを見て、流れるような所作で土下座していた。


「も、申し訳ございません。あっしらにできることがあればなんでも・・・」

「いや、そんな畏まらなくとも・・・」

「さ、さようで・・・」

「はい」


おずおずと立ち上がると、気絶しているロバートくんを椅子に座らせ「フンッ!」という掛け声とともにゴキリと音がしたと思ったらどうやらそれでお目覚めとなったようだ。

「はっ!ここは!あれ?なんか白金貨の渦に巻き込まれたような・・・ひっ!」

「お、落ち着いて・・・深呼吸をしてみましょうか」

「は、はひ!ひっひっふーひっひっふー」


僕は落ち着くように促しならが、つかんだ両肩から【超回復】を少し流しこむ。そして少しだけ落ち着いたロバートくんと、その隣にゆっくりと座るギルド長ダニエルを眺めていた。


「で、でわ、不詳ワタクシが、確認のため読み上げさせていただいきやす!」


そのままダニエルさんが対応してくれるようだ。


「えーまずは南のはずれにある孤児院の、あーあそこか。あれの裏に、10倍程度の居住できる2階建て屋敷の建造・・・そしてその周りに同じ規模で宿泊施設、教育施設、娯楽施設と3棟。他、場合によっては・・・おい!ロバート!ここなんて書いてあるんだ!」

「あ、す、すみません!あまりのことで手が震えて・・・『随時追加予定』です」

「で、当面の予算は・・・旦那、本当に300億エルゼというのは間違いないんですかい?」


ギルド長でも震えるほどの金額なのだろうか・・・王都では城を建造するには300億程度と聞いたので同じぐらいかな?と思って言ってみたのだけれども・・・


「ええ。もちろんお安くなるならよいですし、でも手を抜かれても困りますけどね。あと追加する時は別途相談に乗っていただければと思ってます。あとは細かい間取りで相談を詰めていけたらと思ってるのですが・・・」

「わ、わかりやした!じゃあ詳しい話は後程、ベテランのものを向かわせますが・・・どこに伺えば良いんでしょうか?」

「あ、今はその孤児院でお世話になってるのでそこで。あとロバートくんって図面とか交渉とかは無理なんですか?折角だから彼に担当してもらえると、年も近そうですし・・・」

「えっ!僕ですか?無理ですよ!無理無理!」

「えーい!お客様からの要望だ!だいたいお前はいつも気合が足りない!弱気になるなといつも言ってるだろ!」

「そんなこと言ったってこの規模!親方だって震えてるじゃないですか!」

「う、うるせー!ヤジとかデオとか補佐につけるからおめーがやれっ!知識だけなら頭に入ってるだろ!それとギルド長だ!親方って呼ぶんじゃねー!」

「もっと無理ですよ!先輩方に指示とかできるわけないじゃないですか!親方ー!お願いです僕を助けてくださいよー!」


もうね、ロバートくん・・・親方、じゃなかった、ギルド長に縋り付いてますよ・・・どうしたもんか・・・まあ嫌なら他の人でもいいんですけどね。


「じゃ、じゃあとりあえず今日は帰りますね。決まりましたら来ていただければ・・・」

「へ、へい!すいやせん!ありがとうございやすっ!」

「た、たすけてくださいーおねがいですー」


なんか色々大変そうだな。そう思って孤児院へと戻った。サフィさんは「なんか面白かったな!」と笑っていた。うん、僕も少しそう思った。


◆◇◆◇◆


それから2週間後の今、全ての建物が希望通り完成していた。


依頼をした翌日には戸惑いながらも先頭を歩かされているロバートくんと、その横にはのちに紹介されるのだが、ヤジロンさんとデオットさんというベテランドワーフがどっしりと構えており、後ろにずらりと職人風の男たちが20名ほど並んでいた。


その光景を丁度、注文の品を受け取りにと出掛けようとした僕とサフィさんが目撃することになった。


そこからは早かった。まずは建設範囲をと敷地を確認。僕が建設範囲はこのぐらいで、と伝えると建物の間隔等を目測かスキルかは分からないが確認すると何やらメモに記していった。その後、後ろにいた職人たちがなにやら作業を始め、先頭にいた3名を居間に招くと、まっさらな大きな図面を床に広げる。


「今見た限りではこんな感じでメインの館が立ちますが、後はどの位置にどのようにたてましょうか!」


そう言ったのはベテランのヤジロンさんというドワーフである。ダニエルくんは真ん中でおろおろ。もういらないのでは・・・まあこうやって成長していくんだろう多分。

そして図面で言われてもよく分からないが、今の館はこんな感じ、と書き出されるとなんとなく大きさが分かる。まあいいんじゃないかな?と軽く返事してみるが実感がわかない。まあそこはプロに任せればよいだろう。

それから女性陣も加わって部屋数や大きさ、設備内容の希望を出していった。子供たちが暮らす寮のような施設と、学校のような施設、訓練施設などと一緒に気分転換になる遊べる施設もと要望しておいた。


最終的に予算は当初の予算の半分、150億ですんだ。それでも職人たちはニッコニコということをデオットさんは話してくれた。

あの予算で皆が狼狽えていたのは、通常は城などを大きな案件は複数の地域の建築ギルドが集まって対応にあたるとか。王都のギルドとはいえその規模の案件がほいっと着たらびびってしまうとのこと。それゆえに300億と金額が増えてしまうとも教えてくれた。


そして急ピッチで建築は進み、気づけば孤児院の裏には巨大施設が誕生というところだ。早すぎない?

まあ、最後の方では不慣れながらも職人たちに指示を伝えるロバートくんの成長も垣間見えたので、なぜかほっこりしてしまった。ちなみに、引っ越しを終え新しい本館に居を移すと、半日で元の館は解体され綺麗なお花畑となっていた。


これで子供たちが寝泊まりして学び遊びという箱はできた。あとはそれを動かす人員だ。それについてはギルドで募集をかければよいだろう。徐々に子供たちを集め未来に向けて正しく育て上げてれば、この世界の人と一緒に明るく楽しく人生を送れる。そう思ったんだ。


ちなみに、本館の方は各メンバーの個室は用意されているがほぼ荷物置き場と化すことになる。30畳ほどの寝室と隣には大浴場があり、サウナまで完備している。様々なアイテムを駆使した魔道具による永久機関で25時間いつでも綺麗な状態で利用可能となる。なんとも便利な世界だ。


子供たちは寮の方へと移動し、2名ほど雇ったスタッフに常時お世話をしてもらっている。もちろん佳苗や加奈は時間があれば手伝いに行くこととなるのだが、悠衣子と康代同様、冒険者としても活動していくにあたって、スタッフにお任せということも増えていくのは仕方のない事であろう。


そしてしばらくの間は、穏やかな異世界ライフを送ることとなった。


衣食住の充実という人間らしい最高の生活環境はととのった。これで極たまに深いところで狩りをしてくるだけで、費用は賄える極楽生活。もちろんそんな生活ではサフィさんが癇癪を起しそうなので、さらなる冒険を適度に行うしかないのだが、それもまた楽しい異世界ライフなので思いっきり楽しもうと思っている。

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