/// 17.理由が知りたい・・・

真理ちゃんが居なくなってしまった孤児院の中には、重苦しい雰囲気が張り巡らせれていた。


「僕が来たせいじゃないって言ってたけど・・・やっぱりまずかったのかな?」

「そんなこと・・・ないよ。真理はタケルくんのことを話している私を、いつもニコニコして聞いてくれていた。あの笑顔が嘘だとは思わない。思いたくない・・・」


佳苗が泣きそうな顔を僕に向け、真理ちゃんについて色々なことを教えてくれた。その中には、僕が他のクラスメートに暴力を受けている時、止めようとした佳苗にまで向けられたものから守ってもくれていたという。

死んだと聞かされた時も「大丈夫。タケルくんは絶対生きてるから!」とういってくれたのも真理であった。そんな話をしていると、悠衣子ちゃんと康代ちゃんがぽつりと話をしてくれた。


「あのね、私たち三人で冒険者やってたでしょ?最初は、私は剣道部だったからかジョブは剣士だった。康代は柔道部で闘士だし・・・だから普通に体が動くんだよね・・・冒険者として楽しくやっていたんだよ」

「うん、そうだよね。でも真理は違ったんだよね。実はサブカル好きでさ、部活やってないのも趣味に没頭してたからかな?歴女だったし・・・」

「そ、そうなんだ・・・」


僕はあのキリリとした印象の真理ちゃんが、歴女ということを人知れず暴露されていることに、少しだけ心が痛んだ・・・


「それでね、最初は忍者ってジョブにテンションが上がってたようなんだけど、もともと体動かすの好きじゃなかったから・・・」

「最初はね、ひどかったよもう。でも頑張ってたよね誰よりも。そう、頑張ってたんだよね~。一番ダンジョンに篭ってたよ真理・・・」

「結局、三人の中で一番レベル上がってるの真理なんだよ。多分もう150は超えてるはず・・・」


その話に佳苗は驚いていたけど、僕はこっそり鑑定していたので知っていた。そしてすごいなって思ってた。レベルは186になっていて、他の人とは明らかに違っていた。

大体が100を超えると、ここのダンジョンの浅いところ、30階層ぐらいなら余裕で出入りできるようになる。それでもパーティを組んでのことである。勇者パーティは200~400だったしね。バランスも良かったから・・・

でもソロでも186であれば同程度のところまでは行けるだろう。ガチガチの戦闘職であればね。


ただ、忍者ってジョブはね・・・視た限り戦闘職ではあるけど、どちらかと言えば偵察系のスキルが多い。盗賊の上位互換だろうし・・・だからソロだと大変だしどうしても二人と合わせなきゃっていう事情もあっただろうに・・・それなのにあのレベル。一人で相当頑張った証なんだろうな。

サフィさんは別として、僕だってレベル311。でも本来一人でなら精々40階層ぐらいでウロウロしてると思うんだよね。普通の戦闘職であれば・・・だからこそ岩竜なんかで大騒ぎとなる。しかも非戦闘職なのにソロでも多分ずっと先まで行ける。死なないし。僕のスキルがチートすぎなんだよね。


そんな脱線を頭の中で繰り広げている中でも、話は進んでいた。


「真理は一人で先に行っちゃうことも増えてた。先に帰っていいよって言われて二人で戻ることも多かったしね・・・」

「たしかに!愛想尽かされのは、私たちか・・・」

「そんなことないよ思う!真理の二人を見る目はいつもやさしかった!」


落ち込んだ二人に佳苗が声をかかる。良い関係なんだな。そう思っていた。

結局、この日は僕とサフィさん、そして加奈は佳苗の作業室となっている寝室に泊まった。もちろんそんな空気で致すことはしませんよ?だただた優しく抱きしめて眠った。人生ままならないな。と改めて思った。


◆◇◆◇◆


スッキリしない朝だった。

サフィさんだけは元気だった。でも空気は読んでくれたらしく、迫ってくることはなかった。


朝の準備など、諸々のことを教えられながらも皆でこなした。普段はあまり手伝えていないという二人も参加した。加奈も中々手慣れた様子だったのは、一人暮らしして長いということもあっただろう。

もちろんサフィさんは参加していない。「面白そうだ俺にもやらせろよ!」といって参加した食器出しで2枚ほどつかんだ皿を破壊したからだ。根本的に細かい作業は向いてない。

そして食事を終えると、加奈を残してまたあの『王都総合魔道センター・南出moreー瑠』へやってきた。


「まずは・・・これ。全員に渡すね」


僕は孤児院組の三人に、手のひらには少しはみ出るサイズの袋を手渡した。

中には白金貨は100枚ずつ入っている。

佳苗が袋の中身を確認すると、口を開けたまま停止していた。悠衣子ちゃんはぷるぷると首を横に振りながら袋をそのまま僕に返そうと手を前に突き出していた。生まれたての子鹿かな?康代ちゃんは中を確認すると・・・


「タケルくん!私たちに何をさせようっていうの?無理無理!怖いよ!何したら返せるの?闇金のやり方じゃない?」


そして悠衣子ちゃんと並んで手を前に突き出した。いや二人仲いいよね。


「いや別に何をさせようってことじゃないよ。今後のためにもちょっとダンジョンに行ってもらおうと思ってるんだよね。もちろん僕もサフィさんも一緒にね。装備はとりあえず一番良いものを惜しまず買ってほしい。万が一でも何かあったら困るからね」


その言葉に反応したのはフリーズから復活した佳苗だった。


「これ・・・100枚あったの・・・これ白金貨で間違ってないよね・・・100万×100枚で1億?計算間違ってないよね。どうしたらいいのこれ?私もさすがに怖いよ?」

「とりあえず装備を整えるのは一番大事だからね。知り合いに何かあったら辛いからさ・・・お金なら心配しないで?それぐらいホイと出せるほどは稼いでるからさ」

「タ、タケルくんがそう言うなら・・・」


そう言われてもまだ戸惑いが隠せない佳苗であったが、悠衣子と康代の方に顔を向けた。佳苗に視られて恥ずかしかったのか、わりと長い時間、手を突き出して停止していた体をそっと戻し、三人固まって何やらぼそぼそと相談しているようだった。

正直、僕もこんな大金を持たされたとしたら気が気じゃないのだが、僕の口座には数十億と有り余っており、ギルドで査定待ちのものも含めれば、もうどうにでもなれーってぐらいになっている。


改めて自分とサフィさんの能力のチートさに呆れてしまう。トップクラスの冒険者ってこんなに稼ぐものなのだろうか?

思えば、勇者パーティは特に討伐した魔物を回収することもなかったな・・・お金にはまったく無関心のように見えたのは、実際無関心だったのだろう。僕も今更数百万とか言われても何も感じない。

だから勇者は地位と名誉にこだわっていたのかもね。そんなことを考えていた。


僕が考え事をしている間に、三人の話し合いは終わったようで向こうではサフィさんが三人に「早く行こうぜ!」と急かしていた。三人はぎこちないながらも僕に行ってくることを告げると、サフィさんについて女性向けのコーナーへと消えていった。

サフィさんには武器は買わなくてはいいことを伝えてある。サフィさんも僕も素手オンリーだからね。ただサフィさんも指輪は多分買うんだろうな・・・これ以上の強化は不要だと思うんだけど・・・


僕は「さてと」という爺臭い独り言を言いながら、1階の武器売り場に行くと目玉商品として飾ってあった一本のダガーを購入した。2億エルザの超高額商品である。それなりに高額商品が並ぶ高級店ではあるのだが、さすがにこのランクだと飾ってあるだけという扱いであったためか店員はかなり狼狽えていた。


金剛石の魔刀(死)

攻撃 100+10%

付与 安らかな死


そして3階まで行くと、指輪をいくつか見繕った。念のためね。倍化の指輪はどれも1億ぐらいした。予想外ではあったがこの程度ならお金の心配が無くなったのは本当によかった。6つ購入したうち、4つの指輪。左右に分けてつけてみたが、それでもなんだか成金野郎みたいだな・・・ちょっと恥ずかしくなったが普段は外しておこうと心に決めて収納にいれた。


竜石の指輪(力)

攻撃 +100%


竜石の指輪(守)

防御 +100%


竜石の指輪(魔)

魔力 +100%


竜石の指輪(速)

素早さ +100%


竜石の指輪(命)

防御 +10%

付与 即死回避


予想外に高かったので、とりあえずで竜石の指輪(命)だけ2つ購入した。本当はもう2~3個ほど欲しかったんだけどね。入荷待ちになっていたので予約してみた。

僕は必要はないけど佳苗と加奈、悠衣子ちゃんと康代ちゃんには何かあってほしくないからね。

1億は予想外だったから彼女らに渡した分では買えないだろうし、もっと渡しておくべきだったかな?


そして買い物を終えた僕は、待ち合わせの4階のレストコーナーの休憩所でぼーっとしていた。

途中、前川と稲賀のバカップルがレストランから出てくるをの見かけたが、向こうはこちらに気づくとギョッとしてから足早に去っていった。なんだか寂しい気もする。元とは言えクラスメートだったのにね。挨拶ぐらい交わして・・・無いな。


少しおいて、4人が戻ってきたのでそのままレストランで食事をとってから、今日のところは孤児院へと戻った。お昼は作り置きしておいたと言っても、片付けとか加奈一人に任せると大変だと思ったからだ。

孤児院へ戻ると加奈が笑顔で出迎えてくれたのだが、子供たちはスヤスヤとお昼寝タイム。台所もきれいにかたずいていた。加奈って何気に家事スキル高いなと感心していた。夕食はお土産の総菜を並べたが、子供たちも喜んでくれていたようだ。


「明日から忙しくなるぞ!」そう思いながらも佳苗と加奈、サフィさんと楽しい一夜を過ごすこととなった。【超回復】は今日もいい仕事をしてくれている。ありがたや。ありがたや。

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