Episode 13 玩具

人。そらが創りしもの。「もの」。そらが創りし玩具。玩具。人が造りしもの。人が弄ぶもの。人に想像力や智慧を与えてくれるもの。人、もの。そらが弄ぶもの。そらの興味をひくもの。弄ぶ為に造られたもの。すべては造られたときには使命なんてない。弄ばれる「もの」は、人になにを求めているのか。人は期待に応えられないこともある。それも面白い。玩具で遊ぶのが愉しくなければ工夫してやればいい。自分の都合に合うように。それが可能な玩具こそ使っていて楽しい。ぬいぐるみや人形に都合のいい性格や言葉を与えてやればよい。そうすれば玩具はまた弄ぶのが愉しいものに成長する。玩具は成長する。

人も、ものも成長する。その為にはそらの都合のいいような性格を与えられなければならない。玩具を使って一番楽しいのは、それが持っている表情や性格が持ち主に刺激を与えてくれるとき。


 黒色の衣を纏う少年。マヤはジャナンを纏うみなもとのお目付け役だとされていたが、ブラックスーツのクロロと接触したことはない。クロロには実体がないので当然でもあるが、マヤもたいしてブラックに興味も抱いていなかったわ。


ある日、クリプジオン本部に「もの」が侵入してきた。利里も翔もここまでくるには少し時間がかかる。しかし、本部内設備を守る為にすぐにジャナンを用意しなければならない。葉月はブラックスーツを起動させて、ものを殲滅するように命じた。戦闘は長引いた。侵入してきた「もの」は身体は妙に痩せているが腕だけは異様に太い。とても腕力の強いものであった。捕まってしまえば終わりだとブラックは知っていた為、銃で攻撃をするが効き目がなさそうだ。 

ブラックは距離をとりながら戦うので、有効打を与えられない。やっと利里とマヤが到着した。葉月は日頃から訓練を行っている連携攻撃で、ものに立ち向かうように利里とクロロに指示をするが、利里はそんなものは無視して単独行動に出る。お互いに首を絞め合うという無謀な力比べをしたわ。利里はその戦いに打ち勝った。おとなの作戦というものに従っているだけでは正好のときのように大切なものを失ってしまうと疑っていたの。ものの殲滅には成功するが、イエロースーツも大きな傷を背負ったわ。

 

葉月は改めてイエロースーツ持つ力に脅威を感じた。傷を得たことはかえって都合がよかったかもしれない。イエロースーツにもそろそろ運命のときが迫っている。

 

処分の対象。戦いの後、マヤは親しげにケイコと話をしていたわ。話題は専らジャナンスーツを着こなすみなもとの日常生活や、精神状態について。マヤはケイコの脳に刺激を与えてケイコが口に出してはいけない情報を引きずり出した。葉月がこの世の浄土化を目論んでいることも喋ってしまった。ふたりの様子を見て葉月は確信した。以前からマヤはどこか怪しいと葉月は思っていたの。マヤの正体はクリプティッドでありいつか自分の敵になると。


玩具。マヤはそらに創られた特別な生命体であるが、生きる目的など与えられていないし、求められてもいない。それはマヤが勝手に決めればよいのだ。マヤが創られたのはそらの単なる気まぐれなの。また、マヤにものを創ったり、操る能力を与えられたのも気まぐれ。人が支配する世の中にマヤのような存在があれば愉快なことが起きるとそらが考えられた程度なの。 


そらにとってはマヤが世界を治めるのか、人が世界を守るのかどちらでもよかった。ただ、思った以上に人とは脆弱であり、マヤがこの世を支配するのは明らかだった。あまりにもそらにとって退屈だったので、気まぐれでジャナンスーツを人間に与えた。その結果、一度は人とジャナンスーツはマヤとものを世界から排除した。そらは人とマヤの戦いにとても満足したわ。人がマヤを上回ったからではない。種を守る為に必死になって戦う人の姿が愉快だったから。また、マヤが悩んで悩み抜いて造り出したいと望むものという存在が滑稽だったからね。マヤはたいそうそらに気に入られたので、もう一度機会を与えられた。そして今度こそはとそらに期待された。また人と痛快な戦いを見せてくれるだろう。


ただ、そらは性根が悪い。人に力を与えないとマヤが人を滅ぼす結果になるのが分かっているからマヤに立ち向かえる存在が必要だと感じたわ。そうして創り出されたのが葉月ナミ。葉月には生まれついての智慧を与えたわ。マヤに期待はするがそう簡単に思い通りにはさせない。マヤに限ったことではない。そらはすべての生きものに障害や敵を与えるの。別に誰が勝者で誰が敗者になっても構わないの。勝者が繁栄すればまた新たな敵を与えて、戦いを眺めて愉しむ。生きものの歴史が戦いの歴史であるのはそういったわけがある。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る