第39話
エフェクトが見えると言う事は何らかのスキルを発動した証拠だ。
「スキルは公開済みだから教えてやる。これは怪力のスキルだ。自身の力を飛躍的に高めてくれる。当たれば即死と考えておけ。」
ご丁寧に使用したスキルの解説をしてくれた。
怪力のスキルは前世の世界でも見た事があるので効果は知っている。
近接戦闘職に重宝されていたスキルであり、同じ実力者同士ならスキルのパワーで圧倒されてしまう火力を持つ。
「使われなくても充分死にそうな威力してましたよ!?オーバーキルじゃないですか!?」
「今回のは掠っただけでも逝っちまうかもな!」
「のわあ!?」
接近してきた野々原先輩が拳を振るってくる。
間一髪で床を転がりながら避けた皇真だが、先程よりも大きな風切り音と直前までいた地面が爆ぜた事で攻撃力が明らかに高まっているのが分かる。
「外したか。」
「く、クレーターが出来てる…。」
爆ぜた地面には直接触れた訳でも無いのに拳圧だけでちょっとしたクレーターが出来ていた。
絶対に直撃だけはしてはいけない。
「次は当ててやる!」
「ひいー!?」
野々原先輩が良い笑顔で何度も拳を振るってきて皇真が必死の形相でそれを避ける。
自分からの攻撃なんて考えられない程に回避だけに集中して立ち回っていた。
「逃げ足の速い遠距離職は厄介だな。皇真、お前一体AGI幾つあるんだ?」
ここまで一度も攻撃が当たらず野々原先輩が呆れた様な表情で言う。
「そこまで見れてないんで分かりませんよ。て言うかナチュラルに聞かないで下さい。」
こんな危ない人に大事なステータス情報は教えられない。
気に入られてしまえば地獄の学園生活待った無しである。
「気になったもんでな。だが俺の速度で当たらないのは想定外だったぜ。速度もそうだが反射神経や
相手の行動予測がずば抜けてやがる。」
「ぐ、偶然では?こちとら中学生ですよ?」
少しドキリとしながら答える。
前世での戦いの経験が活きているのだろう。
「お前も天性の才能持ちなのかもな。俺と同じく産まれる時代や世界を間違えた様だ。」
実際に前世は別世界産まれなので間違ってはいない。
「そうかもしれませんね。戦うのは嫌いでは無いですよ。」
「そうかそうか、当然俺もだぜ!」
「っ!?」
野々原先輩の両腕の筋肉がより一層盛り上がる。
まるで丸太の様な太さである。
「俺のアーツも見せてやる!回避してみせろや!ブレイクスマッシュ!」
野々原先輩の左拳が地面に突き刺さる。
すると舞台全体にヒビが入って地面が大きく割れ砕ける。
「舞台が!?」
「よそ見してる場合か!」
「やばっ!?」
地面が崩れて足場が悪くなり、思わず視線を下に向けてしまった。
その一瞬の隙を見逃さず野々原先輩が眼前まで迫っていた。
「おらっ!」
「せいっ!」
今度は右腕の筋肉を盛り上がらせて凶悪な拳を放ってきた。
皇真は回避が間に合わないと悟って、タイミングを合わせる様に魔装した回し蹴りを叩き込む。
ぶつかり合った拳と足だが、怪力のスキルによって攻撃力が上がった野々原先輩の一撃によって皇真は軽々と吹き飛ばされてしまった。
砕けた地面の一部にぶつかり土煙を巻き上げる。
幸か不幸か痛みで気を失わなくて済んだ。
「はぁはぁ、痛ってえ。」
回し蹴りを放った右足に思う様に力が入らず、砕けた地面の大きな土塊に寄り添いながら左足で立ち上がる。
「おいおい、立ち上がるかよ。蹴りで威力を幾らか殺せたとは言っても怪力のスキルによる攻撃だぜ?」
皇真の放った回し蹴りでは相殺は出来ず、派手に吹き飛ばされてしまった。
あの威力を受けて立ち上がれる者はそういない。
「めっちゃ痛いですよ。充分そのスキルの威力を実感しているところです。」
「そうでないと困るからな。まあ、武器を取り落とすくらいには皇真にも脅威に感じられたか?」
そう言う野々原先輩の手には皇真が先程まで持っていた弓が握られている。
体格が大きいので玩具の様に見えてしまう。
「足は使いもんにならねえし、さっきまでの様に避けれはしないだろう?それに自分の武器で戦いが終わらせられるって展開も面白えと思わねえか?」
近くにある皇真が放った矢を拾って弓に番る。
「野々原先輩が弓矢を!?」
「俺は武器全般の扱いが得意なんだよ!」
魔装した矢が放たれる。
言うだけあって皇真の身体に一直線に向かってきている。
それに威力もかなりありそうで、本職と聞いても疑わない。
「はあっ!」
腰に身に付けていた打根を持って魔装して矢を弾く。
「ほう、皇真も弓矢だけじゃねえ様だな。」
「当たり前ですよ。弱点となる近距離戦闘を放置しておくとでも?」
「今の矢は全力で撃った。それを弾かれたとなると弓矢では仕留められそうにねえな。」
使えるだけで専用のスキルやアーツは無さそうだ。
「だったら弓を返してくれます?」
「却下だ。それに今ので皇真の近接戦闘力も見てみたくなった。」
そう言って弓を地面に置かれる。
今の足では手に取るのは難しい。
「この足だと満足に動けませんよ?」
「ああ、だから次で終わりにしてやる。」
「これ以上殴られたくないんですけど。」
「もう俺から攻撃はしねえよ。実力も見られたし、午後からも見学があるのにこれ以上ボロボロにさせられねえ。それにこれ以上やると後が怖いからな。」
野々原先輩が観客席に視線を向ける。
皇真も続いて視線を向けると姉達が敵意剥き出しで野々原先輩を見ていた。
南川先輩がなんとか抑えてくれている様だが、確かにこれ以上すると介入してきそうだ。
「俺が全力で防御するから全力で攻撃してこい。それで終わりだ。」
「へえ、いいんですか?本気でいきますよ?」
「おもしれー!」
皇真の言葉に野々原先輩はニヤリと笑みを浮かべる。
これならもう痛い思いもしなくて済む。
それに全力の攻撃許可が出たので一矢報いてやると言う思いも出てきた。
「野々原先輩、言い忘れていた事があります。ここだけの話しですが、俺って近距離戦闘の方が実は好きなんです。」
「は?」
野々原先輩が訳が分からないと言う表情をしている。
そんな事はお構い無しに打根を引き絞って身体と武器を魔装する皇真。
今の言葉は紛れもない真実だ。
前世だと魔王の他にも武王とまで呼ばれたくらい近接戦闘で実力を世に知らしめたものだ。
しかし転生した今だと戦闘能力が高くなり過ぎるのと、前世と違って死にたくもないし痛い思いもしたくないので暫く弓を使う事にしているのだ。
「まさかまたアーツか!?おいおい、信じられねえ逸材じゃねえか!」
エフェクトは無くても凄まじい攻撃力を感じ取って嬉しそうな声を上げる野々原先輩。
本当に根っからの戦闘狂である。
「それじゃあ、いきますよ!攻城戦技・破城槌!」
「ぬっ!?」
打根を容赦無く野々原先輩に向けて突き出す。
魔装した腕をクロスしていた野々原先輩に打根が直撃して、その瞬間に爆発音がアリーナに響き渡る。
「もう無理。」
結果を見る余裕も無くその場に倒れる様に座り込む。
今ので魔力も殆ど使い果たしてしまい、立っているだけでも疲れる。
少しすると爆発の土煙に包まれた舞台の中でこちらに向かってくる足音が聞こえる。
「ははっ、ヤバすぎだろ。」
相手は見なくても誰だか分かる。
思わず乾いた笑いが出てしまった。
「皇真、想像以上過ぎたぜ。大満足だ!」
「平然と立ってるとかマジっすか。自信無くなりそうですよ。」
皇真は全て出し切って心底疲れた表情をしながら呟く。
野々原先輩が手を差し出してくれたのでそれを掴んで立ち上がる。
「皇ちゃん!」
「皇真!」
「どわっ!?」
立ち上がったと思ったら観客席から走って飛び付いてきた姉達に再び押し倒された。
遠くで南川先輩がこちらに手を合わせているのが一瞬見えた。
もう姉達を抑え付けておくのは限界だった様だ。
「皇ちゃん大丈夫ですか!?こんなにボロボロにされて可哀想に。」
「野々原先輩、やり過ぎです!皇真はまだダンジョンに潜れる歳じゃないんですよ!」
姫月姉さんが豊満な胸に皇真の頭を抱き抱えながら優しく撫でてくれる。
そして姐月姉さんが野々原先輩に向かって抗議してくれる。
これだけボロボロにされて心配させてしまった様だ。
「悪かったって。予想以上に俺の動きに付いてくるから熱くなっちまった。報酬を多めに払うから許してくれ。」
「許します!」
野々原先輩の言葉に皇真が嬉しそうに頷く。
これだけボロボロになるまで戦った甲斐があったと言うものだ。
「はぁ、お金は大事だけどそれで無茶な事ばかりするんじゃないわよ?」
「分かってるよ。俺だって痛いのは嫌だしね。」
姐月姉さんの注意に素直に頷いておく。
これがダンジョンでの魔物との戦いであればとっくに撤退している。
死なない為の引き際は前世で理解しているつもりだ。
「皇ちゃん、先ずは怪我を治しますよ。足が腫れていて見ているだけで痛そうです。」
「た、確かに。意識すると痛みが、いててて。」
野々原先輩の怪力のスキルによって皇真の右足は見るからに腫れ上がっているのが分かる。
魔装していなければ折れていたかもしれない。
「ほら肩に掴まりなさい。連れていってあげるわ。」
姉達に両肩を支えられて立ち上がる。
「連れていくって何処へ?」
「アリーナでは戦闘行為が頻繁に行われるので回復施設も設置されているんです。目の前の部屋ですね。」
舞台から観客席に上がる階段の横に小部屋がある。
シンプルな内装でマッサージチェアの様な物が一つ置かれているだけだ。
「その椅子が回復の魔法道具だ。怪我をしても大半はそれで治る。」
「へぇ、便利ですね。」
「利用料金が一回10万円も掛かりますけどね。」
「えっ。」
治療にそんなに掛かるのかと値段を聞いて思ってしまった。
これから野々原先輩に大金を報酬として貰う事になってはいるが、まだまだ金銭感覚は一般人のままだ。
「当然今回は野々原先輩が出してくれますよね?皇真に怪我をさせたのは野々原先輩なんですから。」
「そんな怖い顔しなくても出してやるって。」
姐月姉さんの言葉に頷いて野々原先輩が学生証を出す。
「皇真、椅子に座れ。」
野々原先輩に言われるままに部屋の中にある椅子に座った。
そして野々原先輩が学生証を肘掛けにあるパネルにかざすと椅子が淡く光り出す。
すると戦いで出来た全身の傷や足の腫れ、疲労に魔力まで回復していく。
1分近く座っていると野々原先輩と戦う前の状態に戻った。
「おおお、回復した。」
立ち上がって自分の身体を見回すと全て元通りだ。
「これで文句は無いな?」
「次はあまり無茶をさせないで下さいね?」
「皇真をお金で釣るのも禁止です。」
「分かった分かった、過保護な奴らだな。」
姉達の言葉に野々原先輩が頷いて言う。
「やあやあ皇真君、お疲れ様。」
「皇真っち、なんか色々言いたい事が沢山あったけど、とにかく全部凄かったよ!」
「はい、素晴らしい戦いでした。」
「ありがとう。」
興奮した様に誉めてくれる同級生達。
それだけ皇真と野々原先輩の戦いは凄まじかった。
「それじゃあ皇真、俺はこの後用事があるからもういくぜ。報酬はIDに振り込んでおいた。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
これで一気に大金持ちだ。
欲しかった物が色々と思い浮かぶ。
「おう、少し多めに振り込んでおいたからな。また機会があったら戦おうぜ。」
「遠慮しておきます。もう痛い思いはしたくないので。」
「はっはっは、嫌でも運命ってのは残酷だったりするからな。俺はお前とまた戦いたいから戦える様に祈っておくとするぜ。じゃあな。」
野々原先輩は上機嫌でそう言い残して先輩二人を連れてアリーナを出ていった。
「やれやれ、相変わらず野々原君は戦闘狂だね。」
野々原先輩の背中を見送って南川先輩が呟く。
同じ学年なので付き合いも長いのだろう。
「大丈夫です。今度はお姉ちゃん達が皇ちゃんを守ってあげますからね。」
「三人で野々原先輩をボコボコにして泣かせてやりましょ。」
「二人共、目が本気で冗談に聞こえないよ。」
弟大好きな姉達は機会があればやり返したいとでも考えていそうだ。
もしそうなれば皇真には止められそうにないので可哀想だが野々原先輩にはボロ雑巾になってもらうしかない。
いや、皇真も今回手酷くやられたので仕返しの機会があれば嬉々としてボコボコにするかもしれない。
姉達は強いらしいので野々原先輩にも勝てそうだ。
報酬を貰った恩はあるがそれは別として、自分を守れる意味でも仕返し出来るくらいには強くなろうと思った。
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