第40話
野々原先輩のクエストを無事に乗り切った皇真は自分のスマホを開く。
既に推薦として栄華高校に入学が決まっている皇真は学生証を貰っており、その学生証にはIDが記入されている。
IDと専用のパスワードで学校のサイトからログインすると自分のデータを色々と見る事が出来る。
その中にはIDで管理されている電子マネーも表示されており、野々原先輩に多めに振り込まれた合計1500万円の表示があって思わずにやけてしまう。
「さて、色々あったけど早速ソフィアちゃんの武器を買いに店に戻ろうか。本人も待ち切れない様子だしね。」
「も、申し訳ありません。」
ソフィアが恥ずかしそうに呟く。
既に南川先輩が連絡してソフィアが買いたい武器は取り置きしてもらっているのだが、購入して手元にくるまでは安心出来無いのだろう。
「初めての武器だものね、その反応もよく分かるわ。」
姐月姉さんが懐かしむ様に頷いている。
「探索者デビューした当時は姐月ちゃんも装備屋で買い物をする度にテンションが上がっていましたからね。」
「ちょっと姫月、皆の前で言わないでよ!」
昔の事を暴露されて姐月姉さんが恥ずかしそうに抗議している。
「無事に気になってた槍が買えそうでよかったねソフィアっち。」
「はい、皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。」
値段を見て最初は諦めかけていたのだが仮購入資金を集める事が出来て嬉しそうだ。
なんだかんだ野々原先輩には感謝しなければいけないだろう。
「それじゃあ移動しようか。」
皇真達は再び装備屋に戻る。
そしてソフィア達が緊張した様子で槍を購入しに向かった。
「ちょっと皇真。」
「姐月姉さん、どうしたの?」
商品を見て暇を潰しているとちょんちょんと肘で突かれた。
「野々原先輩に幾ら振り込まれたのよ?」
「合計で1500万円だよ。」
自分で口にしてその金額の多さに頬が緩む。
学生が欲する物なんて大抵何でも買えてしまう。
「やっばいわね。完全にロックオンされてるわ。」
「これは入学後の例のイベントが荒れそうですね。」
「二人共、よく分からないけど不穏な台詞を呟くのは止めてくれないかな?」
ロックオンだの例のイベントだの内容は詳しく分からないが碌な事では無いのだけは分かる。
まだまだ野々原先輩との関わりは続きそうだ。
「取り敢えず大金を獲得出来て良かったわね。でも使い過ぎには注意しなさいよ?」
「お姉ちゃんが管理してあげましょうか?」
「子供じゃないんだよ?自分で計画的に利用するつもりさ。」
過保護な姉達がそう提案してくるが自由に使えるお金は持っておきたい。
前から欲しい物も色々とあるのと、高校生になってから探索者になるとすれば初期費用はそれなりに掛かるのだ。
「お待たせしました。」
ソフィア達が会計を終えて戻ってきた。
その手には商品棚に並べられていた槍が握られている。
「似合ってるじゃないか。」
「だよねだよね!ソフィアっちが持つと迫力が増す感じだよ!」
「ありがとうございます。この槍を持つに相応しい実力を身に付けるつもりです。」
皇真と凛に褒められてソフィアが嬉しそうに言う。
スライムと戦った実力を見れば、直ぐに探索者として頭角を表していくだろう。
「うんうん、入学後は頑張ってくれたまえよ若人達。」
南川先輩が腕を組みながら意気込む皇真達を見て頷いている。
探索者が新しく増えれば装備屋の客も増えていく。
南川先輩としても客が増えてくれるのは有り難いので新入生達には期待している。
「南川先輩も色々とありがとうございました。」
「「ありがとうございました。」」
「気にしない気にしない、未来のお得意様かもしれないんだからね。」
三人にお礼を言われて満足そうな表情だ。
南川先輩にとっても優秀な推薦合格者に顔を売れたので有意義な時間だった。
「この子達ならきっと一線級で活躍出来る探索者になりますよ。」
「南川先輩、もっと恩を売っておくなら今のうちですよ?」
「君達も私の扱い方をよく分かってるね。しょうがない、探索者の卵達にお姉さんがサービスしてあげようかな。少し待っててね。」
南川先輩が仕方無いなと言う雰囲気を漂わせて一つの商品棚へ向かう。
そして自分で会計を済ませて三つの商品を持って戻ってくる。
「はい、一人一つずつだよ。」
そう言って皇真達に腕輪を差し出してくる。
「これは何ですか?」
「収納の腕輪さ。これを身に付けていると異空間に物の出し入れをする事が出来るんだ。」
実演する様に自分が身に付けている腕輪を起動させて手の上に乗せたスマホを出したり仕舞ったりする。
「収納魔法道具きちゃー!」
それを見て凛がテンションを上げている。
探索者であればダンジョンの物を持ち帰る為に収納系魔法道具は必須級のアイテムだ。
探索者で無くてもダンジョンに一度入って魔力を使える様にした者は便利だからと身に付けている者が多い。
「例の如く凛ちゃんは魔力を扱えないからまだ使えないけどね。」
「もう!何をするにも魔力魔力魔力って!早く入学してダンジョンに入りたい!」
予想は出来ていたのだろうが、それでも不満そうな表情をして凛が嘆いている。
あと少しの辛抱なのだが現状一人だけ使えないのは可哀想ではある。
「まあ、凛ちゃんにはその時に体感してもらうとして。君達二人は今直ぐに使用出来るよ。武器が嵩張って大変だろう?」
皇真の持つ弓と背負っている矢筒、そしてソフィアが今購入したばかりの槍に視線を向ける。
「成る程、この腕輪の中に武器を仕舞っておくのですね?」
「そう言う事。そこの姉妹も腕に付けているでしょ?」
姉達の腕にも南川先輩同様に収納の腕輪がある。
「でも私達のと色が違いますね。」
見比べると腕輪の形は一緒だが装飾の色が異なっている。
皇真達が黒、南川先輩が青、姉達が緑となっている。
「収納容量の違いだね。君達にあげたのは収納容量極小だから武器を一、二本仕舞ったら限界なんだ。」
収納の腕輪は容量によって色が分かれている。
極小が黒等級、小が青等級、中が緑等級、大が銀等級、特大が金等級となっているらしい。
等級が上がれば収納容量も増えるが価値も相当跳ね上がるらしい。
「それでも武器を仕舞っておけるので有り難いです。」
「あるのと無いのとでは大違いですよ。」
早速皇真とソフィアは腕輪を身に付けて武器を仕舞う。
異空間へ物を収納出来るのはとても便利だ。
探索者になったらもっと容量の多い腕輪を購入したいものである。
「喜んでくれて何よりだよ。さすがに収納容量の多い腕輪は値段が高いから簡単にあげられなくてね。」
「私達が身に付けている収納容量中でもかなりの値段ですからね。」
「ポンポン配ってたら大赤字になっちゃうわよね。」
必須級の魔法道具であっても容量の多い物は簡単に手に入れられる訳では無いのだ。
黒等級でも今はとても有り難い。
「今あげたやつでもそれなりの値段はするんだけど、これは未来への投資と思う事にしたよ。だから君達、探索者で成功して装備屋を贔屓にしてね。」
「「「頑張ります!」」」
南川先輩の期待に応える為に皇真達はその言葉に頷いた。
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