Act.3「いい加減は悪い」


 ――武器を手にした人類は、武器を作らなかった世界には至れない。それを人類の汚点だとすれば、愚かなのは使用者でしかない。人々はそうやって、武器を生み出したことを正当化し、武器で失った命を「仕方ない」と蓋をするのだ。



 もし、豪華で立派な眩いほどの世界へ放り込まれたとすれば俺は、今までの環境との落差に目眩を起こし、野垂れ死にするだろう。しかし、もしかしたら、意外といいのかもしれないと、酒瓶片手に数多のメイドを侍らせながら、傍若無人の限りを尽くすかもしれない。いや、そんなことは微塵もないのだが。だって、女性と関係を持つことは、女性のテリトリーへ侵食することである。それはそれは、非常に恐ろしいのだ。女性で形成された社会というのは、酷く密閉されており酷く閉鎖的なのだ。もちろん、そんなことを断言してしまえば、多くのお怒りを買うだろう。しかし、しかしだ。かの有名なライオンであっても、雄ライオンは繁殖において重要な役割を担っているわけで、その雄ライオンが非常に甲斐性なし。つまりは、繁殖能力に不備が存在していれば、群れから弾かれるのだ。それもそうだろう。種の存続を思えば、繁殖能力に問題がある存在のために餌を調達することもわざわざ種をつけられることのために、時間をかけるわけもない。もちろん、ライオンがそんなことまで考えているなんて、虚飾もいいところだろう。

 しかし、しかしだ。

 考えても見て欲しい。あのライオンでさえ、雌には立ち向かえない事情や理由があるのなら、人間であっても同様だろう。

 女性に逆らわないほうがいい。これは多様性の中に生まれた処世術というものだ。そんなことを言っておきながら、女性が悪いみたいな言い方をして逆らっている俺は非常に怖いもの知らずだと言われそうだが、実際は怯えに怯えて、心の奥底では奥歯をガタガタ震わせながらタンスに引きこもっていたい状態であるのなんて言わずもがな。まぁ、だからといって、言ってしまったのは仕方ない。

 結局のところ、凝り固まったテリトリーや社会というのは、それだけ外部からの存在を拒絶する。

 そういうことが言いたかったわけで、俺の状況が正しくそれを体現しているのだろう。


「では、ここで待っていろ。時間が来るまで大人しくしているように」


「……あの、ここって牢屋じゃ」


 頑丈な鉄格子がこれでもかと均等に張り巡らされ、何重にもなった牢獄に俺は囚われていた。

 はい。外部の人間ですからね。それも泥棒一家でしたし、仕方ない処遇だと納得できますけども、理由だけは聞いておきたいじゃないですか。そういう権利だってあると思うのです。

 いや、ここが異世界だからそんな権利なんて、暴君によって「罪人は人ならず」と人でなし扱いされている可能性だってあるわけですよ。だから、ここで俺が質問したことに返ってくるのは言葉ではなく、槍か剣の切っ先。もしくは、鞭が飛んでくるものかと思っていた。


「申し訳ないが、勇者を保護するのにうってつけなのが牢屋というだけ。気にするな」


 飛んできたのは鞭じゃないけど、とんでもないものが返ってきたものだ。

 それで納得できるやつがいようものなら、大声を出しながら侮辱の言葉を並べ立てるだろう。そんなことを「はいそうですか」と頷けるなんて、一つの才能だと臭い物に蓋をすることだってできるが、実際には脳死の能無しでしかない。

 それで理解できるほど、この世界のことなんて知らないしこの世の全てを理解できていない。理を解いていないのだ。それに、こんな硬い床で寝ろというのか。雑魚寝もいいところじゃないか。いや、まぁ、自分は雑魚だから名前に相応しい寝床だと拍手喝采しそうなものだが、それにしたって劣悪な環境なのは違いない。

 こんなところで寝られるなんて図太い神経を通り越して無神経だろう。


「あ、そうなんですね」


 まぁ、牢屋の硬い床の方が、家の寝床よりも寝心地が良かったのは言うまでもない。

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