Act.2「始まり始まり終わりも終わり」


 ――始まれば終わる。そして、終われば始まる。その中に中途半端なものは存在せず、どちらに転ぶかしかない。ただ、止まらず進むことを思えば常に始まっているのかもしれない。もしくは、その状況は終わりなのかもしれない。

 


「ここに異世界から転生してきた人間がいると聞いてきた」


 無愛想に、業務的な声音に出てきたのは俺の素性を把握されているであろう言葉であった。転生て、そりゃもちろん俺しかいないだろうけど、ここでは一般的な認識なのか? いや、一般的なものであったらこんな大層な格好をしているはずもない。なにより、母親が恐れていながら俺を守ろうとしているのだから、あまりよろしくない存在なのは確かだろう。もしくは、その真逆か。


「この子は何も関係ありません! お帰りください!」


 母親様よ。そういうのは言ってはいけないんじゃないでしょうかね。それ、答えを言っているようなものではありませんか。帰れと言ってノコノコ帰ってくれる相手だとは思えないし、「ほな帰るわ」とか気軽に言い捨てる奴らだとは思えない。これだけの人間を寄越してきているということは、なんらかの争いが生まれることも想定しているのだろう。母親か父親が激昂して襲いかかってくるのに対応できる最低限の人数を割いているのだ。多分ね。


「それに、何が目的なんですか! 私達はただただ、暮らしているだけなんです! そんな私達から幸せを奪い取ろうと――」「――奪い取る。えぇ、そうです。奪い取りに来たわけですよ。なにせ、異世界からの転生者はこの小さな貧しい世界でおさまっていい者ではないのですから」


 母親の言葉を遮ってまで、自身の主張をすると母親は膝から崩れ落ちた。それこそ、ボロボロの床に穴が空いてしまうのではないかと錯覚するほど、全身の力が抜けてしまっていた。あらあら、そんな評価をしていただけるなんて嬉しいですけども、俺は結構この世界でも気に入っていたわけですけど。まぁ、ここで俺が何か言ったとしてそれを聞いてくれる耳なんてないだろう。

 早急に。

 迅速に。

 俺を確保しようとしているのだろう。

 やれやれ、こういう時、俺に眠っていた能力が覚醒してこの状況を切り抜けることでもできればいいのに、それが出来ないのだから、この人達の勘違いで済ませることだってできないのだろうか。


「お母様。目的に関してお答えしますと、貴方だって理解しているでしょう? 魔王を殺してもらう。それに尽きるのですよ。彼は唯一の勇者で、最後の勇者になるかもしれないのですから」


 おや、そんな大役聞いていませんよ。されど、こういう転生者に対して求められるものとしては、おおよそテンプレじみている。いや、王道なのだろう。七年と少し前に見たアニメや漫画の中にあったのが、そういう関連の話だったから、俺はこの後の展開は予想できる。

 まず、連れていかれます。

 はい。

 なぜって、多分逃げても捕まえられるだけの能力かスキルか、魔法か魔術かなにかを使って死ぬ気で確保しに来るからだ。だから、逃げること自体無駄。大人しく捕まっていた方がいい。そこから先は作品によって変わってくる。おおよそ、その世界で何を主軸に置くかで変わってくるのだ。

 例えば、武器関連だったら聖剣か邪剣でも与えられる。魔法だったらよく分からないけど、学校に通わされるんじゃないのか。そして、おおよそポピュラーで平均的で汎用性に高く、ありふれていて目新しいものを感じるよりもまたこんな感じかと諦めにも似た境地へと至り、最終的に読みやすさを追求されていくスキル関連。

 やれやれ、俺はそういうスキルに関しては疎いんだけども、こういう場面、最強か対極の最弱のスキルが与えられるか鑑定によって判明するんだろうけど、もし願うならば。今後の展開に希望を抱くならば、そういうスキル関連では無いほうがいいね。

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