第20話 新たな部員の気配!?


 一週間に及んだテスト期間が終わり、ようやく部活動も再開となる。

 俺はさっそく部室に入り浸り、雨宮あまみや部長の指導のもと、絵の練習に明け暮れていた。


「今日はまもるくんだけ? ほのかっちや三原くんは?」

「どっちも用事があるそうです。行けたら行く……とは言っていましたけど」

「それって社交辞令だよね。来ない確率のほうが高いやつだよ」


 椅子の上に三角座りをする雨宮部長は、先日手に入れたドーナちゃんをもふもふしている。

 あの二人にもプライベートはあるだろうし、無理強いはできない。

 それより、目下の問題は……。


「部長、なんで俺のこと下の名前で呼び続けてるんです?」

「え、もしかして嫌だった?」

「別に嫌じゃないですけど……あの時だけじゃなかったんですね」

「特に一度きりって言った覚えはないし、そのうち慣れるよ。あ、護くんは私のこと、下の名前で呼んじゃダメだからね。私のほうが歳上なんだから」

「はいはい、わかってますよ」


 その理由はわからなくもないけど、どこか理不尽だった。


「それより、また部員探しを再開しないと。同時並行で顧問の先生もね」

「顧問の先生となると、部員以上に厳しそうですね」

「そうなんだよねぇ……私がイラスト部にいた頃の顧問の先生は、去年退職されちゃったし。どうしたものか」


 ドーナちゃんの胴体部分に顔を埋めながら、うんうんと唸る。せっかくのきれいな髪がくしゃくしゃになっていた。


「部員についても全く音沙汰ないですね。もう新一年生は部活決めちゃってるんでしょうか」

「そうかもしれないねぇ。これはなかなかにきついよー」

「……ちっす。おつかれ」


 部長と二人で思い悩んでいると、部室の入口から翔也しょうやが顔を覗かせた。


「うわ、来たよ。社交辞令じゃなかった」


 その姿を見た部長が叫び、ぬいぐるみを置いて椅子から飛び退く。


「おつかれ。またどこかの部を手伝ってたの?」

「おう。今日は写真部だ。女子しかいない日らしくてな。機材やフィルム現像液の運搬を手伝ってやった。あれ、けっこう重いからな」


 さっきまで部長が座っていた席に腰を落ち着けた翔也は、疲れた顔ひとつ見せずにそう口にした。


「相変わらずフットワーク軽いなぁ。翔也、写真部所属ってわけじゃないよね?」

「違うぜ。じーさんの影響で、写真は好きだけどな」


 ニカっと笑ったあと、彼は両手でカメラを構えるような仕草をする。その動きは様になっていた。


「他にプラモもやってるんだっけ。本当、多趣味だよね」

「まあな。ジオラマとかも好きだぞ。塗装用にエアブラシ持ってるから、もし部活で必要になったら言ってくれ」

「エアブラシ! あれって結構なお値段するから、持ってる人がいると助かるよ!」


 彼の言葉を聞いた部長が、飛び跳ねそうな勢いで言う。


「ありがとう。もし必要になった時はよろしく頼むよ」

「おう。使用料は安くしとくぜ」


 お金取るんかーい! という部長のツッコミを聞き流したあと、俺は絵の練習に戻った。


「内川君、翔也、おつかれー」


 それから翔也と雑談を交えながら絵の練習を続けていると、汐見しおみさんが部室にやってきた。


「はいこれ、差し入れ」


 そして彼女は席につくや否や、机の上に小さな包みを置いた。


「え、これは何?」

「朝倉先輩……料理部の先輩なんだけど、その人が作ったクッキー。用事を手伝ったら、そのお礼にくれたの」

「わ、アイシングクッキーだ。これ、作るのすごく大変なんだよ」


 開かれた包みを覗き込んだ部長が声を弾ませる。

 そこには色とりどりのクッキーが入っていて、クマの形をしたクッキーを青やピンク、白色で細かくデコレーションしたものや、丸型のクッキーにイラストを描いたものもあった。

 それこそ食べるのがもったいなくなるくらい、手が込んでいた。


「このイラスト、上手だなぁ……」

「あはは……さすが内川君だね。一番に絵を見てる」

「あ、ごめん……」

「その絵は先輩が描いたの。あの人、最近アイシングクッキー作りに凝っちゃってさ。しょっちゅうくれるんだよね。しかも、めちゃくちゃ上手いし」


 汐見さんは苦笑しながら言って、クマ型のクッキーをつまみ上げた。


「じゃあその人、絵が得意なのかな? あわよくば、イラスト同好会に勧誘を……」


 その隣でクッキーを見つめながら、雨宮部長が期待を込めた目をした。


「汐見さん、その先輩ってイラストに興味あったりしないかな」

「え? うーん、どうだろう……話を聞いてる限り、嫌いじゃないと思うんだけど」


 首を傾げつつ、彼女はクッキーを口に運ぶ。サクッっと心地いい音がした。


「せめて話だけでも聞いてもらいたいんだけど、橋渡しをお願いできないかな?」

「もしかして、イラスト同好会に勧誘するの?」

「可能なら。もしダメでも、俺たちには上級生とのつながりがないし。その人からイラスト好きな上級生を紹介してもらえるかも」

「……わかった。今日の夜にでも連絡してみる」


 汐見さんは少し考えたあと、そう頷いてくれた。

 行き詰まっている部員集めが、これで進展してくれることを願うばかりだった。

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